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小山正平≪呼吸器・免疫内科学≫ 腫瘍を破壊するために必要なTリンパ球が骨髄から出られなくなる現象を脳腫瘍患者で明らかに!

図. 脳腫瘍の存在により骨髄からのTリンパ球の遊走が妨げられる
左図は健常者、右図は脳腫瘍患者を表している。脳に腫瘍があると、Tリンパ球上のS1P1が
内在化し、Tリンパ球が骨髄内から外に出ることができなくなっていることを明らかにした。
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2018年8月9日
掲載誌 Nature Medicine

研究成果のポイント

  • 脳内に腫瘍が存在すると、腫瘍を破壊するために必要なTリンパ球が、あたかも骨髄に閉じ込められたような状況となることがわかった。
  • Tリンパ球上のS1P1(S1P受容体1)分子の内在化により、Tリンパ球が骨髄から外に出ることができなるメカニズムを初めて解き明かした。
  • 骨髄に閉じ込められたTリンパ球を腫瘍環境へ誘導することにより、脳腫瘍に対する免疫療法の治療効果改善の糸口となることが期待される。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の小山正平助教(呼吸器・免疫内科学)は、米国ハーバード大学マサチューセッツ総合病院脳神経外科・デューク大学脳神経外科・ジョンズホプキンス大学脳神経外科・ハーバード大学ダナファーバー癌研究所腫瘍医学分野との共同研究によって、脳内に腫瘍が存在すると、腫瘍を破壊するために必要なTリンパ球1が、あたかも骨髄に閉じ込められたような状況となることを明らかにしました(図)。

これまで、多形膠芽腫2という脳腫瘍を罹患した患者では、末梢血中のリンパ球が顕著に減少することが知られていましたが、脳内の腫瘍と末梢血リンパ球の減少がどのように関連しているのかは明らかになっていませんでした。

今回、小山助教らの研究チームは、マウス脳腫瘍モデルおよび多形膠芽腫の患者から、末梢血および骨髄を採取し解析したところ、いずれの場合も末梢血中のリンパ球は減少しているのに対して、骨髄内ではTリンパ球が増加していることが明らかとなり、あたかも骨髄内に閉じ込められているような表現系を示すことが分かりました。これらの現象を引き起こす原因として、脳内に腫瘍を有するマウス・患者ではTリンパ球上のS1P13という分子の発現が顕著に減少し(内在化が誘導され)、それがきっかけとなって、Tリンパ球が骨髄から外に出ることが出来なくなっていることが分かりました。

本研究成果により、脳内に腫瘍が存在することによって全身でのTリンパ球の動きに変化が起こることが明らかとなりました。骨髄に閉じ込められたTリンパ球を、うまく腫瘍環境へ誘導できるような治療を併用することで、免疫治療への感受性を改善できる可能性が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Nature Medicine」に、814日に公開されました。

研究の背景

これまで、多形膠芽腫という脳腫瘍を罹患した患者では、末梢血中のリンパ球が顕著に減少することが知られていましたが、脳内の腫瘍と末梢血リンパ球減少がどのように関連しているのかについては、明らかになっていませんでした。

本研究の成果

まず、脳内に各種癌細胞を注入したマウス脳腫瘍モデルおよび多形膠芽腫の患者から、末梢血および骨髄を採取し解析したところ、いずれの場合も末梢血中のリンパ球は減少しているのに対して、骨髄内ではTリンパ球が増加していることが明らかとなり、あたかも骨髄内に閉じ込められているような表現系を示すことが分かりました。また、脳内に腫瘍を有するマウスおよび患者においても、リンパ関連臓器の代表といえる脾臓が、著明に萎縮していることも見出しました。これらの現象を引き起こす原因として、脳内に腫瘍を有するマウス・患者ではTリンパ球上のS1P1という分子が内在化により発現減少し、それがきっかけとなって、T細胞が骨髄から外に出ることが出来なくなっていることが分かりました。S1P1の発現が落ちないように遺伝子組み換えを行ったマウスを用いた実験から、脳腫瘍モデルマウスでは、リンパ関連臓器でのTリンパ球の減少は改善し、骨髄内で閉じ込められるTリンパ球も減少することが分かりました。さらに、この遺伝子組み換えを行ったマウスでは、チェックポイント阻害剤4を用いた免疫療法に対しても治療感受性が改善することを確認しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

これまで脳腫瘍または転移性脳腫瘍に対しては免疫治療が効きにくいということが知られていました。その理由としては、もともと脳という組織の特徴として様々な薬剤が到達しにくいという性質や脳腫瘍環境におけるTリンパ球が過剰に疲弊した状態となっていることなどの可能性も示唆されています。本研究で認められた結果は、脳腫瘍固有の現象である可能性が高く、新たな治療標的となる可能性が期待されます。脳内に腫瘍が存在することによって全身でのTリンパ球の集積・浸潤に変化が起こることが明らかとなったことで、閉じ込められたTリンパ球をうまく腫瘍環境へ誘導できるような治療法の開発が期待され、免疫治療感受性を改善することが今後の課題と考えられます。

用語説明

1 腫瘍を破壊するために必要なTリンパ球(細胞傷害性Tリンパ球)
遺伝子変異により癌細胞が出現した際に、もともと生体内には存在しない癌抗原を認識して破壊する抗腫瘍免疫のキープレーヤー。

2 多形膠芽腫(たけいこうがしゅ)
脳腫瘍の一種で最も悪性度が高く、2年生存率は30%以下。新規の治療法開発が望まれている。

3 S1P1
Tリンパ球がリンパ組織から病変へ遊走していくきっかけをつくる分子。S1P1が内在化すると、Tリンパ球はリンパ組織内に留まるようになる。

チェックポイント阻害剤
がん免疫療法のひとつ。現在様々な癌腫に対して治療の適応拡大が行われている抗PD-1/PD-L1抗体や抗CTLA-4抗体などが含まれ、※1のTリンパ球が疲弊するのを抑える働きがある。

特記事項

本研究成果は、2018814日に米国科学誌「Nature Medicine」(オンライン)に掲載されました。

【タイトル】“Sequestration of T-cells in bone marrow in the setting of glioblastoma and other intracranial tumors”

【著者名】Pakawat Chongsathidkiet1,2,3,16,#, Christina Jackson4,16,#, Shohei Koyama5,16,#, Franziska Loebel6, Xiuyu Cui1,2, S. Harrison Farber1,2,7, Karolina Woroniecka1,2,3, Aladine A. Elsamadicy1,2, Cosette A. Dechant1,2, Hanna R. Kemeny1,2, Luis Sanchez-Perez1,2, Tooba A. Cheema8, Nicholas C. Souders9, James E. Herndon II10, Jean-Valery Coumans11, Jeffrey I. Everitt3, Brian V. Nahed11, John H. Sampson1,2,3,12,13, Michael D. Gunn3,13,14, Robert L. Martuza11, Glenn Dranoff15, William T. Curry11 and Peter E. Fecci1,2,3**責任著者、#同等貢献)

【所属】
1. Preston Robert Tisch Brain Tumor Center, Duke University Medical Center, USA
2. Department of Neurosurgery, Duke University Medical Center, USA
3. Department of Pathology, Duke University Medical Center, USA
4. Department of Neurosurgery, the John Hopkins University School of Medicine, USA
5. 大阪大学 大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
6. Department of Neurosurgery, Charité Medical University, Germany
7. Department of Neurosurgery, St. Joseph’s Hospital and Medical Center, USA
8. Unum Therapeutics, Cambridge, USA
9. Dana-Farber Cancer Institute, USA
10. Department of Biostatistics and Bioinformatics, Duke University Medical Center, USA
11. Department of Neurosurgery, Massachusetts General Hospital and Harvard Medical School, USA
12. Department of Radiation Oncology, Duke University Medical Center, USA
13. Department of Immunology, Duke University Medical Center, USA
14. Department of Medicine, Duke University Medical Center, USA
15. Novartis Institutes for Biomedical Research, USA