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高松 漂太、加藤 保宏、熊ノ郷 淳 ≪呼吸器・免疫内科学≫ 若い女性に発症しやすい自己免疫疾患 全身性エリテマトーデスが増悪する仕組みを発見~新規治療薬開発の手掛かりに~

 

図1 全身性エリテマトーデス(SLE)における、インターフェロン産生を介した増悪サイクル
SLEでは、インターフェロンにより自己抗体産生が誘導され、産生された自己抗体により組織障害が起こる。そして、組織障害により多くの細胞死が誘導される。本研究では、赤線で囲まれた部分の過程を明らかにした。すなわち、細胞死の過程で核酸を含んだ膜小胞が細胞外に放出され、この細胞外膜小胞がマクロファージなどによって取り込まれ、細胞内核酸センサーであるcGAS-STING経路を刺激して、インターフェロン産生を促進する。一連の過程から、SLEでは、インターフェロン産生を介した悪循環が形成されていることが示唆された。
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2018年7月4日
掲載誌 Annals of the Rheumatic Diseases(オンライン)

研究成果のポイント

  • 免疫難病である全身性エリテマトーデス(SLE)におけるI型インターフェロン産生亢進を介した疾患増悪メカニズムを発見した。
  • SLEの疾患活動性評価に有用な、レポーター細胞を用いたI型インターフェロン活性測定方法を確立した。
  • 今後、核酸センサー(cGAS-STING)—インターフェロン産生経路をターゲットにした新規治療薬の開発が期待される。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の高松漂太 助教、加藤保宏 招聘教員、熊ノ郷淳 教授(呼吸器・免疫内科学)らの研究グループは、全身性エリテマトーデス(SLE1の病態に深く関与するI型インターフェロン2を産生する仕組みの一端を、患者血清とレポーター細胞を駆使することにより明らかにしました。

全身性エリテマトーデスは若い女性に多い原因不明の自己免疫性疾患で、日本における患者数は約610万人と言われています。治療をしないと命にかかわり、ステロイド3を使った強力な免疫抑制療法が行われますが、副作用の懸念からより安全で効果的な治療方法の開発が必要とされています。

本研究グループは、SLE患者血液中の微量のインターフェロンを検出する方法を確立し、SLEでは細胞死の過程で産生される細胞外膜小胞中に含まれる核酸が、マクロファージなどに存在する核酸センサー(cGAS-STING経路4)を刺激し、I型インターフェロンの産生を促進することを解明しました(1)。本研究結果は、I型インターフェロンによるSLE病態形成の悪循環を遮断する新規治療薬の開発につながるものと期待されます。

本研究成果は、ヨーロッパリウマチ学会の機関誌である「Annals of the Rheumatic Diseases」に、6 26 日に公開されました。

研究の背景

全身性エリテマトーデス(SLE)は多彩な自己抗体の産生を特徴とする原因不明の自己免疫性疾患です。発熱、関節痛などの全身症状や腎臓、肺、脳などの重要な臓器に障害をきたし、日本の患者数は約610万人と言われ、若い女性に多い難病です。これまでインターフェロンが病気の炎症を起こす原因として知られていましたが、インターフェロンが産生されるメカニズムについては詳しく分かっていませんでした。また、SLEは人それぞれに病気の症状や病態が違うため、画一的な治療法では治療効果を上げることが出来ません。治療効率を良くするためには、病態に基づいた層別化の必要性が叫ばれていますが、その方法は未だ確立されていません。そこで、高松助教らのグループは、細胞を用いて高感度でI 型インターフェロンを検出できる方法を応用して、患者さんの検体(血清)から直接インターフェロンを測定できる方法を検討し、さらに患者さんの体内でI型インターフェロンが産生されるメカニズムを調べました。

本研究の成果

本研究グループは、体内に微量に存在するため、これまで測定が難しかった血液中のインターフェロンを、レポーター細胞(インターフェロンの刺激で発光を誘導するヒト胎児腎細胞)を用いることにより簡便に評価できる方法を確立しました。この方法により測定したインターフェロン活性は、SLEの疾患活動性5と相関を示し、本法は病態に基づいた患者層別化に有用であることが示唆されました。

患者さんの血清中には核酸や核酸に対する抗体が存在することが知られており、次に、核酸センターがインターフェロンの産生に関わっているかを調べました。別のレポーター細胞(核酸センサー(cGAS, STING)に反応して発光を誘導するヒト単球細胞)を用いることで、SLE患者血清中には、細胞死由来の膜小胞に含まれる核酸にインターフェロン誘導活性があることを発見しました。また、遺伝子編集技術(CRISPR/Cas9)でレポーター細胞の核酸センサー(cGAS, STING)をノックアウト6すると、膜小胞によるインターフェロン誘導活性が下がることを発見しました。このことから、SLEでは、アポトーシスの過程で産生される細胞外膜小胞に含まれる核酸が、細胞内核酸センサーのcGAS-STING経路を刺激し、インターフェロン産生を誘導していると考えられます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、SLEの患者血液に存在する細胞死由来膜小胞がcGAS-STING経路を刺激してSLEの病態に重要なインターフェロンを誘導していることが分かりました。今後、膜小胞の取り込み・分解や核酸受容体(cGAS-STING経路)を介したインターフェロン産生経路をターゲットにした新規治療薬の開発が期待されます。また、現在、インターフェロンを標的とした抗体医療の開発が進められており、本研究で確立したレポーター細胞を用いたインターフェロン活性評価方法は、SLE患者の層別化や、治療法の選択、治療効果判定といったコンパニオンバイオマーカー7としての役割が期待されます。

研究者のコメント

<高松助教>
免疫難病である全身性エリテマトーデスは、長期的なステロイドの使用による副作用が新たな課題となっています。SLEの病態にはI型インターフェロンが深く関与しており、数年先にはインターフェロンを標的とした生物製剤の臨床応用が期待されています。本研究で用いたレポーター細胞による評価方法を、抗インターフェロン療法が有効な症例の層別化や治療効果判定などに役立てて行きたいと思います。また、本研究を発展させることで、ステロイドからの早期の離脱が可能となるようなインターフェロン産生経路を標的とした新規薬剤の開発につなげていきたいと思います。

用語説明

1 全身性エリテマトーデス(SLE
厚生労働省により難病指定されている免疫疾患の一つ。若年女性に多く、日本における患者数は約610万人と言われている。多彩な自己抗体を特徴とし、脳・肺・腎臓などの重要な臓器に障害をきたすことがあり、時に生命を脅かす。

2 I型インターフェロン
ウイルスが感染した時に生体が反応して産生するタンパク質の一種。全身性エリテマトーデスの患者血清中で増加しており、病気との関連があると考えられている。

3 ステロイド
多くの免疫難病で使用される治療薬。治療効果は高いが、感染症、骨粗鬆症、糖尿病など様々な副作用をきたすことがある。

cGAS-STING経路
細胞質内に存在する、サイクリックGMP-AMP合成酵素(cGAS)DNAの刺激を受けると、cGAMPが合成される。cGAMPは小胞体膜上に存在するSTINGStimulator of interferon genes)と呼ばれるタンパク質を刺激し、強力にI型インターフェロンを産生する。

5 疾患活動性
患者さんの症状や生化学検査値に関する数十項目を統合して点数化したもの。

6 ノックアウト
遺伝子操作により特定の遺伝子が働かないようにすること。

7 コンパニオンバイオマーカー
バイオマーカーとは、血液や尿などの体液や組織に含まれるタンパク質や遺伝子などの物質で、病気の変化に反応するもの。コンパニオンバイオマーカーは、バイオマーカーのうち、特定の治療とセットで使われ、治療効果と連動し、患者さんを層別に分けられるバイオマーカー。

特記事項

本研究成果は、2018年626日にヨーロッパリウマチ学会(EULAR)の機関紙である「Annals of the Rheumatic Diseases」(オンライン)に掲載されました。

【タイトル】 “Apoptosis-derived membrane vesicles drive the cGAS–STING pathway and enhance type-I IFN production in Systemic lupus erythematosus

【著者名】 Yasuhiro Kato1,2,3*, JeongHoon Park2,4,*, Hyota Takamatsu1,2,3,5 #, Hachirou Konaka1,2,3, Wataru Aoki5,6, Syunsuke Aburaya5,6, Mitsuyoshi Ueda5,6, Masayuki Nishide1,2,3, Shohei Koyama1,2,3,5, Yoshitomo Hayama1,2,3, Yuhei Kinehara1,2,3, Toru Hirano1,2, Yoshihito Shima1,2, Masashi Narazaki1,2, Atsushi Kumanogoh1,2,3,5 (*同等貢献、#責任著者)

【所属】
   1. 大阪大学 大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
  2. 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター(IFReC) 病態病理 
  3. AMED-CREST
  4. 大阪大学 大学院医学系研究科
  5. JST–CREST
  6. 京都大学 農学研究科 応用生命科学科

本研究課題は、科学技術振興機構(JST)科学基盤研究、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)の研究開発領域「炎症の慢性化機構の解明と制御に向けた基盤技術の創出」(研究開発総括:宮坂昌之)における研究開発課題「慢性炎症におけるガイダンス因子の病的意義の解明とその制御」(研究開発代表者:熊ノ郷淳)、JST-CRESTの研究領域「統合1細胞解析のための革新的技術基盤」(研究開発総括:菅野純夫)における研究課題「細胞膜レセプタータンパクの1細胞統合解析技術の開発」(研究代表者:民谷栄一、研究分担者:高松漂太)の一環として行われました。

本件に関して、7月6日に吹田キャンパスにて記者発表を行いました。