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  • 虎谷昌保 、今野雅允 、森正樹 、石井秀始、小川和彦 ≪放射線治療学、先進癌薬物療法開発学寄附講座、消化器外科、疾患データサイエンス学共同研究講座、放射線治療学≫ AIによる画像認識技術でがん細胞の種類を判別~がん細胞の顕微鏡画像を認識する新技術~

虎谷昌保 、今野雅允 、森正樹 、石井秀始、小川和彦 ≪放射線治療学、先進癌薬物療法開発学寄附講座、消化器外科、疾患データサイエンス学共同研究講座、放射線治療学≫ AIによる画像認識技術でがん細胞の種類を判別~がん細胞の顕微鏡画像を認識する新技術~

図1. がん細胞と放射線抵抗性の細胞の代表的な顕微鏡画像

2018年10月12日
掲載誌 Cancer Research

研究成果のポイント

  • 画像を認識する人工知能を作成し、癌細胞の種類を判別させることに成功した。
  • 深層学習を用いた精度向上により、人の目では判別できないような細かな画像の違いが判別可能となった。
  • 人工知能による医療用画像を用いた治療効果の予測手法確立への応用に期待。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の虎谷昌保 大学院生(放射線治療学)、今野雅允 寄附講座講師(先進癌薬物療法開発学寄附講座)、森正樹 教授(消化器外科)(研究当時)、石井秀始特任教授(常勤)(疾患データサイエンス学共同研究講座)、小川和彦 教授(放射線治療学)らの共同研究グループは、人工知能1 (AI: Artificial Intelligence)による画像判別技術でがん細胞株の顕微鏡画像認識が可能であることを明らかにしました。人の目では判別困難な微細な差異を検出して顕微鏡画像に写っている細胞の種類を特定することが可能となりました。

これまでAIによる画像認識技術は、一般的な物体、動物、植物などの写真を対象としたものがほとんどで、医療用画像に対する応用事例に関する報告は未だ多くありません。今回、マウスおよびヒトのがん細胞株及びそこから派生した放射線治療抵抗性の細胞株の顕微鏡画像 (1)を撮影しました。放射線治療抵抗性の細胞株を用いたのは、将来的に患者さん由来のがん細胞に放射線治療が効くかどうかを判別できるようにするためです。本研究では、畳み込みニューラルネットワーク2を利用した深層学習3により、これらの似通った画像に写る細胞種の特定が可能なAIの作成に成功しました。この研究を発展させることにより、放射線治療などのがん治療の効果予測をAIで行う技術の開発が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Cancer Research」にて925日に早期オンライン公開され、12月号に掲載されました。

研究の背景

これまで、AI研究において、様々なアルゴリズム、プログラムが考案され、その精度を高める試みがなされてきました。画像認識の分野においては、2012年に開かれたAIの画像認識技術競技大会において、深層学習と呼ばれるアルゴリズムを用いて学習したAIが目覚ましい成果を上げました。それ以降、研究者たちは競ってAI研究を推し進め、飛ぶ鳥を落とす勢いでAIの精度が向上していきました。今では、AIの画像認識精度が人を超えたともいわれており、人々の生活の様々な場面でAIの活用が期待されています。

医学研究においても、AIを用いた研究は活発に行われ始めており、日常診療へのAI技術の応用が期待されています。しかしながら、医療画像をAIに学習させることでどのようなことが可能となるのかという問題について、明確に解答した研究は未だ多くありません。医療画像に対してAIがどの程度の力を発揮し、どのように応用するかを検討していくことが急務とされています。

本研究の成果

研究グループは、まず、マウス (NR-S1)とヒト (ME-180)のがん細胞株を用意し、それらの細胞株から放射線治療が効きにくい放射線治療抵抗性のがん細胞株を用意しました。次に、これらの細胞株の位相差顕微鏡写真をそれぞれ10,000枚ずつ撮影しました (図1)。撮影した画像を用いて、畳み込みニューラルネットワークの学習を行い、画像に写る細胞種を特定するAIの作成を行いました。学習したAIは高い精度で細胞種を予測し、その正答率は約98%にも達しました (図2)。人が判別するよりも明らかに早くて正確に、AIには判断可能であるということを示しました。

図2. がん細胞画像をもとに細胞種を予測させた際の正解率の推移。 テスト用データ (AIの訓練に用いなかったデータ)においても約98%の正解率が得られた。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、AIによる画像認識技術が医療画像領域でも有用であることが示されました。この技術を応用、発展させて、細胞の種類だけではなく、治療に対する反応性を画像から予測する技術の確立が期待されます。これが実現すれば、日常臨床において医師が治療法を選択する際の、より正確でより客観的な指標を得ることとなり、患者さんがより簡便に適切な医療を享受することができると期待されます。

用語説明

1 人工知能 (artificial intelligence, AI)
人工的にコンピュータ上などで人間と同様の知能を実現させようという試み、或いはそのための一連の基礎技術。人工知能の定義として定まったものはなく、大きく分けて次の2通りのとらえ方がある。人間の知能そのものを計算上で再現しようとする試みと人間が知能を用いて行う動作、作業を機械に代理させようとする試みである。本研究中の人工知能は後者を指す。

2 畳み込みニューラルネットワーク (convolutional neural network, CNN)
AIが画像分析を行うための学習手法の1つで、畳み込み層とプーリング層という2つの層を含む構造の順伝播型のネットワークで、特徴として、それぞれの層の間に生物の脳の視覚野に関する脳科学の知見にヒントを得た、「局所受容野」「重み共有」という結合をもっている。

3 深層学習 (deep learning, DL)
(狭義には4層以上の)多層構造を持ったニューラルネットワークを用いて機械学習を行うアルゴリズム。ネットワークを複雑化させることで、より自由な表現力を持った学習が可能となった。コンピュータの計算処理能力の向上や学習のための様々な手法の開発により、極めて複雑な多層構造であっても学習を行い精度を向上させることができるようになった。

特記事項

本研究成果は、米国科学誌「Cancer Research」にて、925日に早期オンライン公開され、12月号に掲載されました。

【タイトル】 “A convolutional neural network uses microscopic images to differentiate between mouse and human cell lines and their radioresistant clones”

【著者名】 Masayasu Toratani1, Masamitsu Konno2,3, Ayumu Asai2,3, Jun Koseki2, Koichi Kawamoto2, Keisuke Tamari1, Zhihao Li1, Daisuke Sakai3, Toshihiro Kudo3, Taroh Satoh3, Katsutoshi Sato4,5, Daisuke Motooka6, Daisuke Okuzaki6, Yuichiro Doki7, Masaki Mori7, Kazuhiko Ogawa1,#, and Hideshi Ishii2,3,# (# 責任著者)

【所属】 1. 大阪大学 大学院医学系研究科 放射線治療学
     2. 大阪大学 大学院医学系研究科 疾患データサイエンス学
                  3. 大阪大学 大学院医学系研究科 先進癌薬物療法開発学
                  4. 量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所
                  5. アメリカ マウント・シナイ医科大学Division of Hematology and Medical Oncology
                 
6. 大阪大学 微生物病研究所 遺伝情報実験センター ゲノム解析室
                  7. 大阪大学 大学院医学系研究科 消化器外科学