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八木 麻未 、上田 豊 ≪産科学婦人科学≫ 日本における子宮頸がんの動向が明らかに ~大阪府がん登録データから見えた現実~

2019年2月4日
掲載誌 Cancer Research(オンライン)

図1:各年における子宮頸がんの年齢調整罹患率
人口10万人あたりの年齢調整罹患率は、1976年は28.0人、 2000年は9.1人、2012年は14.1人と、2000年を境に増加している。 がん患者は高齢者に多く、高齢者が増えたからがん患者が増えたという事象を排除するために、予め年齢調整による補正を行っている。
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研究成果のポイント

  • 大阪府がん登録データを用いて日本における子宮頸がんの動向を解析したところ、子宮頸がん患者数は2000年を境に有意に増加しており、子宮頸がんのうち特に腺癌では30歳代以下の若年層で増加していることが分かった。
  • 子宮頸部のみにがんが限定されている限局性のケースにおいて相対生存率は近年改善されている一方、この限局性のケースでは、若年層では放射性治療が効きにくいことが判明した。
  • これらの結果は、今後の子宮頸がんの予防・治療戦略の策定に重要な知見となった。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の八木麻未 特任研究員、上田 豊 講師(産科学婦人科学)らの研究グループは、大阪府がん登録のデータを用いて日本における子宮頸がんの動向を解析し、その結果を発表しました。

日本では、子宮頸がん検診受診率は非常に低く、またHPVワクチンの積極的勧奨は一時中止されて5年間以上が経過しています。子宮頸がんによる将来の罹患率や死亡者数を減少させるために、日本における子宮頸がんの疫学的傾向を理解することは重要です。

本研究では、1976年から2012年の間に登録された大阪府がん登録のデータを利用して、子宮頸がんの種類別、年齢層別、進行ステージ別、治療方法別の罹患率を解析しました。解析結果から、10万人あたりの年齢調整罹患率11976年から有意に減少していましたが、2000年以降は増加に転じていることが観察されました(図1)。また、子宮頸がんのうち特に治療が奏功にしにくい腺癌では、30歳代以下の若年層で増加していることが分かりました(図2)。次にサバイバー生存率2を調べた結果、診断から1年生きることができた場合の5年生存率、診断から2年生きることができた場合の5年生存率と生存年数が上がるにつれ、サバイバー生存率は有意に上昇していました(図3)。さらにがんのステージ別に調べてみると、子宮頸部に臓器に限定される「限局性」及び、が隣接する臓器にがんが広がっている「隣接臓器浸潤」のケースでは10年相対生存率32003年以降に著しく改善していました。これは、同時放射線化学療法(CCRT)の導入によってもたらされたと推測されます。この「限局性」のケースにおいて、主治療として手術が行われた群では年齢による相対生存率の違いは見られませんでしたが、放射線を含む治療が行われた群では、若年層では相対生存率が低い傾向にありました(図4)。これらの研究結果から、今後の日本での子宮頸がんの予防・治療戦略の策定に重要な知見が得られました。

本研究成果は、1月11日に米国癌学会誌「Cancer Research」オンライン版に公開されました。

研究の背景

子宮頸がんは女性特有のがんであり、若い女性に多く発症します。毎年約9000人が新たに子宮頸がんと診断され、3000人近くが子宮頸がんで命を落としています。子宮頸がんによる将来の罹患率や死亡者数を減少させるために、日本における子宮頸がんの疫学的傾向を理解することは重要です。日本において子宮頸がんが近年増加していることが知られていましたが、子宮頸がんの種類別、年齢層別、進行ステージ別、治療方法別の罹患率や生存率の推移といった詳細な解析はこれまでなされていませんでした。また近年、子宮頸がんの治療に同時放射線化学療法(CCRT)が導入されましたが、治療成績の長期的な傾向や詳細な解析も十分には行われていませんでした。

本研究の成果

研究グループでは、1976年から2012年の間に登録された大阪府がん登録のデータを利用して、約2万5千人の子宮頸がん患者の動向を解析し、以下の知見を得ました。

 まず、子宮頸がんの罹患率について調査を行いました。人口10万人あたりの子宮頸がんの年齢調整罹患率を調べたところ1976年から一貫して減少していましたが、2000年を境に増加に転じ、現在に至るまで子宮頸がん罹患率は増加し続けていることがわかりました(図1)。

次に、子宮頸がんの種別における、年齢層別の罹患率について調べました。子宮頸がんは大きく扁平上皮がん、腺がんに分類されます。検診で見つかる多くのケースは扁平上皮がんであり、腺がんは検診で見つかりにくく治療抵抗性があることが知られています。扁平上皮がんと腺がんのそれぞれについて年齢層別の年齢調整罹患率を調べたところ、扁平上皮がん、腺がんとも近年は増加に転じていますが、検診での発見が難しく治療抵抗性のある腺がんは、30歳代以下の若年層で一貫して増加していることが今回の研究から明らかとなりました(図2)。

図2 :子宮頸がんの種別における年齢層別の年齢調整罹患率
 扁平上皮がん(左図)の年齢と腺がん(右図)における、人口10万人あたりの年齢調整罹患率。扁平上皮がん・腺がんとも近年は増加に転じていた。特に腺がんは30歳代以下の若年層で一貫して増加していた。
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さらに、がんと診断されてから経過年数毎のサバイバー生存率を調べました。通常の生存率の計算方法であると年が経つにつれ生存率は徐々に低下していきますが、サバイバー生存率は、診断から1年生きることができたらその後5年間生きることができる確率は何%といった指標を指します。このサバイバー生存率を子宮頸がんにて調べた結果、診断から1年生きることができた場合の5年生存率、診断から2年生きることができた場合の5年生存率と生存年数が上がるにつれ、サバイバー生存率は優意に上昇していました(図3)。

図3:診断から経過年数ごとの5年相対生存率
子宮頸がんと診断を受けてからの経過年数が経つにつれ、5年相対生存率が有意に上昇していた 。
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最後にがんの進行期別に子宮頸がんの10年相対生存率を調べました。その結果、子宮頸部に限定される「限局性」及び、がんの臓器のみならず隣接する臓器にがんが広がっている「隣接臓器浸潤」のケースでは10年相対生存率が2003年以降に著しく改善していました。これは、1999年以降の同時放射線化学療法(CCRT)の導入や2000年以降の治療ガイドラインの普及が有効であったと推測されます。

一方で、がんの「遠隔転移」を伴うような進行した子宮頸がんのケースでは、有意な予後の改善は認められませんでした。さらに限局性の子宮頸がんについて、治療法によって生存率にどのような違いがみられるかを調べました。手術とCCRTを含む放射線治療を行った患者さんに対して、年代別の生存率を調べたところ、主治療として手術が行われた群では、年齢による相対生存率の違いは見られませんでした。一方、放射線を含む治療が行われた群では、他の年代と比べ、若年層では相対生存率が低い傾向にありました(図4)。つまりこの結果は、若年層は放射線治療が効きにくいことを示しています。

図4:治療法による年齢層別相対生存率
同じステージ(限局)初回治療のグループ別に10年相対生存率を年齢層で比較した。放射線療法が若年者で悪い可能性を示した。
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本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究により、子宮頸がんが近年増加していることが明らかとなったことから子宮頸がんの予防の重要性が改めて示されたため、今後の日本での子宮頸がん検診およびHPVワクチンの普及が期待されます。子宮頸がんの治療において、若年層では治療抵抗性の腺がんが特に増えていること、またがんの遠隔転移といった進行症例において予後の改善は認められなかったことから治療の難しさが浮き彫りとなり、治療の更なる改善を図ることが求められます。また、若年層では子宮頸がんの治療法として手術より放射線治療が効きにくいとことが判明したため、本結果は今後治療選択を行う上で有益な情報となります。

研究者のコメント

<八木 特任研究員>
若年層での子宮頸がんの増加は、若年世代の女性におけるHPV感染の増加、検診受診率の低さが反映されている可能性が考えられます。また、検診での早期発見が困難である腺癌が若年層で一貫して増加しており、さらに放射線療法が若年層では奏効していない可能性も示唆され、若年者の子宮頸がんの診断・治療の難しさが改めて浮き彫りになりました。今後、子宮頸がん予防の施策や診断・治療法の改善が強く求められます。

用語説明

1 年齢調整罹患率
高齢化など年齢構成の変化の影響を受けないように、年齢構成を基準年齢構成に合わせた罹患率。基準年齢構成としては、国内では1985年モデル人口(1985年人口をベースに作られた仮想人口モデル)が用いられる。当研究においてもこれを用いています。

2 サバイバー生存率
診断から一定年数生存している患者(サバイバー)の、その後の生存率。例えば3年サバイバーの5年生存率は、診断から3年後に生存している患者における、その後の5年生存率です。

3 相対生存率
実測生存率を、対象者と同じ特性を持つ一般集団の期待生存率で割ることによって、対象疾患以外による死亡を補正する方法。一般の集団(一般の日本国民)の期待生存率は、国立がん研究センターが公表しているコホート生存率表を利用して求めます。

特記事項

本研究成果は、1月11日に米国癌学会誌「Cancer Research」オンライン版に公開されました。

【タイトル】
Epidemiological and clinical analyses of cervical cancer using data from the population-based Osaka cancer registry.

【著者名】
Yagi A1, Ueda Y1,*, Kakuda M1, Tanaka Y1, Ikeda S2, Matsuzaki S1, Kobayashi E1, Morishima T3, Miyashiro I3, Fukui K4, Ito Y4, Nakayama T5, Kimura T1 (*:責任著者)

【所属】
1.  大阪大学大学院医学系研究科 産科学婦人科学
2. 多摩北部医療センター 婦人科
3. 大阪国際がんセンター がん対策センター
4. 大阪医科大学 研究支援センター 医療統計室
5. 国立がん研究センター 社会と健康研究センター

本研究は、日本医療研究開発機構「HPVワクチンの有効性と安全性の評価のための大規模疫学研究」の一環として行われました。