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入澤太郎、北村哲久 ≪救急医学、環境医学≫  院外心停止患者に対する体外循環式心肺蘇生の 導入タイミングと社会復帰の関連を初めて評価

2019年03月24日
掲載誌 Circulation

 

図1:院外心停止後の社会復帰率
心室細動が持続した場合、早期に体外循環式心肺蘇生を導入するほうが、社会復帰の可能性が高まる。 クリックで拡大表示します

研究成果のポイント

  • 大阪府下の救命救急センターならびに2次救急病院の14施設が集まって構築した院外心停止患者登録であるCRITICAL Studyのデータを用いて、成人の院外心停止患者に対する病院搬送後に行われる体外循環式心肺蘇生導入の効果を検証。
  • 早期に体外循環式心肺蘇生を導入した場合は、導入しなかった場合と比較して、特に心室細動が持続している場合において社会復帰率が良好であることを示した。
  • 院外心停止患者の蘇生率向上のためのエビデンスとして、国際心肺蘇生ガイドラインの改定にも大きな影響を与えると期待される。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の入澤太郎 助教(救急医学)、北村哲久 助教(環境医学)と京都府立医科大学大学院医学研究科の松山匡 助教(救急・災害医療システム学)らの研究グループは、成人の院外心停止患者に対する体外循環式心肺蘇生1の早期導入の効果について評価を行い、従来の救命処置により自己心拍が再開しなかった心停止患者に対して、体外循環式心肺蘇生を早期導入することが社会復帰率の向上に関連することを示しました。また、その効果は心肺停止中に電気ショックの適応である心室細動2波形が持続する患者において大きいことを示しました(図1)。

これまでにも従来の救命処置により自己心拍が再開しなかった心停止患者に対して体外循環式心肺蘇生を行うことは国際心肺蘇生ガイドラインでも推奨されていますが、体外循環式心肺蘇生の導入タイミングの影響についての評価はほとんどなく、特に心停止患者の状態(蘇生中の心停止患者が呈する心電図波形)を考慮した導入タイミングの効果に関する研究はありませんでした。本研究では、心停止患者の状態に応じた体外循環式心肺蘇生の導入時間と社会復帰率との関連を明らかにし、より早期のタイミングで体外循環式心肺蘇生導入すること及びそのための救急医療体制の構築の重要性を示しました。今後、本研究結果が国際心肺蘇生ガイドラインの改訂に影響を与えるものと期待されます。

本研究成果は、2020324日に米国心臓協会雑誌「Circulation」(オンライン)に掲載されました。

研究の背景

病院外で心停止を起こした患者さんに対して行う蘇生処置として、胸骨圧迫などの心肺蘇生行為やAED(体外式自動除細動器)を用いた電気ショックといった1次救命処置、自己心拍再開が達成できない心停止患者に対しては静脈路からのエピネフリン投与や声門上気道確保器具や気管挿管チューブを用いた高度気道確保といった2次救命処置を行うことになります。これらの従来の心肺蘇生に反応しない心停止患者に対して体外循環式心肺蘇生の有用性が近年注目されています。しかしながら、体外循環が実施可能な施設は限られ、また非常に多くの医療資源を導入するため、どのような心停止患者に体外循環式心肺蘇生を導入することが適切かを見極めるかは国際心肺蘇生ガイドライン上で大きな課題として挙げられています。

入澤助教らの研究グループは、体外循環式心肺蘇生導入条件の中でも特に重要な条件のひとつである、低灌流時間Low flow duration3に着目しました。心肺停止状態となった患者は刻一刻と脳や心臓をはじめとして全身に大きなダメージを受けるため、心肺蘇生開始後からどのタイミング(どれだけの低灌流時間)で体外循環式心肺蘇生を開始できるかが重要となります。さらに、研究グループは、この低灌流時間の影響について、心停止患者の蘇生中の状態、特に体外循環式心肺蘇生を導入する際の別の重要な条件である蘇生中の心停止患者の心電図波形を考慮した解析を行いました。

本研究の成果

本研究には、大阪府下の救命救急センターならびに2次救急病院の14施設が集まって構築した院外心停止患者登録であるCRITICAL Studyのデータを用いました。20122016年の間で、解析対象となる体外循環式心肺蘇生を受けた成人院外心停止患者は256名でした。

全患者を対象として体外循環式心肺蘇生開始までの低灌流時間を短時間群(23-45分)、中時間群(46-57分)、長時間群(58-117分)の3分位にわけたところ、社会復帰割合はそれぞれ22.0% (22/100), 17.1% (14/82), 6.8% (5/74)と早ければ早いほど良いという結果でした (傾向性P=0.016)。さらに、患者さんの心電図波形を考慮した解析では、電気ショックの適応である心室細動が持続していた場合に早期導入による社会復帰率が高く、また低灌流時間が長くなった場合においても社会復帰の可能性が高いことも示しました(図1)。

本研究が社会に与える影響(本研究成果の意義)

院外心停止患者に対する体外循環式心肺蘇生導入までの低灌流時間の社会復帰率への影響を検討した本研究結果は、限られた資源を適切なタイミングで導入する指標となり、院外心停止患者の蘇生率向上のためのエビデンスとして国際心肺蘇生ガイドラインの改定にも大きな影響を与えると考えられます。

研究者のコメント

<入澤助教>
大阪府下の救命救急センターを中心とした多施設共同研究を用いて体外循環式心肺蘇生導入までの低灌流時間の社会復帰率への影響を示した本研究結果は、全心停止患者に対する低灌流時間を均一に検討してきた過去の研究と異なり、患者の状態(本研究においては心電図波形)によって心肺蘇生戦略を変更する重要性を示唆しています。これは近年注目を集めている患者ごとに心肺蘇生法を変更するテーラーメイド蘇生法の考え方に合致しております。また、本研究結果からはさらに適切な救急医療体制を築くために重要な示唆を与え、心肺停止患者さんのより多くの社会復帰につながると考えます。

用語説明

1 体外循環式心肺蘇生(extracorporeal cardiopulmonary resuscitation
体外循環式の人工心肺装置を用いた心肺蘇生法のこと。人工心肺装置とは、人工肺とポンプを用いて肺の代わりに流入血液の酸素化を行い、心臓の代わりに静脈から動脈へ血液を運ぶ医療装置です。何らかの原因で心臓や肺が十分に機能しなくなった場合に、人工心肺装置が一時的にその代わりをします。

 2 心室細動
不整脈の一種で、心臓の血液を全身に送り出す場所である心室が小刻みに震えて、血液を送り出せなくなった心停止状態。

3 低潅流時間(low flow duration
心肺停止に陥った際に何らかの心肺蘇生が開始されるまでは完全に臓器灌流が失われているため、「灌流なし時間」となり、何らかの心肺蘇生時間が開始されてから、体外循環式心肺蘇生が開始され、十分な臓器血流が得られるまでの期間を低灌流時間low flow duration)と呼びます。低灌流の期間は一定の臓器血流が得られますが、十分ではないため時間経過とともに臓器損傷が徐々に進行すると考えられています。

特記事項

本研究成果は、2020324日に米国心臓協会雑誌「Circulation」(オンライン)に掲載されます。

【タイトル】 “Impact of low-flow duration on favorable neurological outcomes of extracorporeal cardiopulmonary resuscitation after out-of-hospital cardiac arrest: A multicenter prospective study”

【著者名】 Tasuku Matsuyama,1 Taro Irisawa,2 Tomoki Yamada,3 Koichi Hayakawa,4 Kazuhisa Yoshiya,2 Kazuo Noguchi,5 Tetsuro Nishimura,6 Takuya Ishibe,7 Yoshiki Yagi,8 Takeyuki Kiguchi,9,10 Masafumi Kishimoto,11 Hiroshi Shintani,12 Yasuyuki Hayashi,13 Taku Sogabe,14 Takaya Morooka,15 Haruko Sakamoto,16 Keitaro Suzuki,17 Fumiko Nakamura,18 Norihiro Nishioka,19 Yohei Okada,19 Satoshi Matsui,20 Junya Sado,20 Takeshi Shimazu,2 Bon Ohta,1 Taku Iwami,9 Tetsuhisa Kitamura20

【所属】

1 京都府立医科大学大学院医学研究科 救急・災害医療システム学
2 大阪大学大学院医学系研究科 生体統御医学講座 救急医学
3 大阪警察病院 ER・救命救急センター
4 関西医科大学 救急医学講座 総合医療センター 救命救急センター
5 多根総合病院 救急科
6 大阪市立大学大学院医学研究科 病態診断生体機能管理医学講座 救急医学
7 近畿大学大学院医学研究科 救急医学
8 大阪府三島救命救急センター
9 京都大学 環境安全保健機構 健康管理部門/附属健康科学センター
10 大阪府立急性期・総合医療センター 高度救命救急センター
11 大阪府立中河内救命救急センター
12 大阪府泉州救命救急センター
13 大阪府済生会千里病院 千里救命救急センター
14 大阪医療センター 救命救急センター
15 大阪市立総合医療センター 救命救急センター
16 大阪赤十字病院 救命救急センター
17 岸和田徳洲会病院 救命救急センター
18 関西医科大学 救急医学講座 附属病院 高度救命救急センター
19 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 予防医療学分野
20 大阪大学大学院医学系研究科 社会医学講座 環境医学

 

本研究は、大阪大学 大学院医学系研究科 新研究分野創生事業「臨床疫学データの構築・解析からリバーストランスレーショナルリサーチへの展開とその担い手育成プロジェクト」、メディカルデータサイエンス研究拠点形成事業「医学研究の高度化を支える疫学・統計学・生物情報科学・医療情報学の融合研究」ならびに日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金研究の一環として行われました。