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世界初、結節性硬化症皮膚病変に対する新規外用治療薬の承認~アカデミア発の希少難治性疾患の治療薬が早期に実用化へ~

3月26日発表

研究成果のポイント

  • 治療法のない希少難治性疾患である結節性硬化症の皮膚病変に対する新規治療薬を開発した。
  • アカデミア発の治療薬が世界に先駆けて承認された。
  • 治療法のないと思われていた病変に、簡便で安全な治療薬が提供できたことで、社会生活を続けながらの治療が可能になり、患者さんのQOLの改善と同時に医療経済的にも良い結果をもたらすことが期待できる。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の金田眞理講師(皮膚科学、教授:片山一朗)らの研究成果を基にして開発された「結節性硬化症1皮膚病変」に対する治療薬;シロリムスゲル剤(商品名:ラパリムスゲル0.2%)が323日に承認されました。これまでに結節性硬化症に対する治療方法は極めて限定的でしたが、シロリムスゲル剤の承認により、同疾患の皮膚病変に対して安全で有用な治療法を提供できることとなります。

大阪大学が実施した医師主導治験第I、Ⅱ相試験に引き続き、企業治験が行われ、先駆け審査指定により早期に承認を取得し、実用化が実現しました。医師主導治験の詳細は、米国科学誌「JAMA Dermatology」に20171月に掲載されています。


 図1 結節性硬化症におけるシロリムスゲル剤の効果 クリックで拡大表示します

研究の背景

結節性硬化症は、患者さんの数が少ない希な病気(希少疾患)の1つで、てんかん、発達障害や、脳、皮膚、腎、肺をはじめとする全身の種々の臓器に過誤腫とよばれる腫瘍性病変を生ずる疾患です。その中でも顔面の血管線維腫などの皮膚病変は高頻度に出現する病変であり、思春期頃より著明になる症状です。結節性硬化症に伴う顔面の血管線維腫は、病変に伴う出血や二次細菌感染、痛み、機能障害などのため患者さんに苦痛を与え、整容的な面からは社会生活の質(QOL)を著しく低下させます。しかしながら現時点での確立された治療法は手術やレーザー等の外科的治療法だけであり、局所麻酔での治療が困難な子供や精神発達遅滞がある患者さんには施行が難しく、重篤になるまで無治療でおいておかれることが多く認められました(図2)。このような状況から、結節性硬化症の皮膚病変に対して、安全かつ簡便な治療法を確立することが望まれていました。


図2 顔面の血管線維腫

 

結節性硬化症では、TSC1遺伝子、TSC2遺伝子の異常により、下流のmTORC12が恒常的に活性化し、細胞が増殖し全身に前述した様に過誤腫をはじめとして種々の症状が生じます(図3)。mTORC1阻害剤として、シロリムス(ラパマイシン)3等の全身投与で本症の腫瘍は抑制されますが、全身投与では副作用が憂慮されます。そこで、金田講師らの研究グループは、より安全性の高い治療薬としてmTORC1阻害剤の外用治療薬の研究開発を進めることにしました。


図3 結節性硬化症の病態メカニズム クリックで拡大表示します

本研究の成果

金田講師らは、分子量の大きな有効成分を効率よく吸収させるよう、製剤化を検討することからはじめました。厚生労働省難治性疾患実用化研究事業、日本医療研究開発機構(AMED)革新的医療技術創出拠点の支援を受けて、大阪大学医学部附属病院薬剤部及び大阪大学医学部附属病院未来医療開発部と協力し、基礎研究や臨床研究を行ってシロリムス外用剤をGMP下で製造し、この製剤を用いて、結節性硬化症患者の顔面皮膚病変を対象とした医師主導治験(第ⅠⅡ相試験)を実施し、シロリムスゲル剤が本症の血管線維腫等の皮膚病変に安全かつ極めて有効であることを明らかにしました。本研究はノーベルファーマ株式会社に引き継がれ、同社は第Ⅲ相治験と長期試験を実施し、この度世界に先駆けて承認を取得しました。なお、本開発品は厚生労働省の医薬品の先駆け審査指定品目に第1号として指定されています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究の意義)

結節性硬化症に伴う顔面の血管線維腫などの皮膚病変は特徴的な症状であり、患者のQOLを著しく低下させるにもかかわらず、これまで安全かつ有効な治療方法がありませんでした。今回のシロリムスゲル剤は本症の皮膚病変に対して局所投与が可能な唯一の薬剤であり、痛みもなく簡便に使用できかつ安全性の高い本薬剤の承認により、難病に苦しんでいる、とりわけ小児や発達障害のため治療法がなかった患者の方々へ新しい治療法を提供することが可能になります。さらに、小児等の軽症の病変に使用することにより、病変の進展・増悪を抑制することができます。簡便で安全なため、仕事を休んでの通院や入院の必要がなく術後の処置も要らない本薬剤による治療により、患者のQOLの改善のみならず、労働生産性の向上にも役立つことが期待できます。

また、本研究は、厚生労働省難治性疾患実用化研究支援を受けて、大阪大学医学部附属病院薬剤部及び大阪大学医学部附属病院未来医療開発部と協力して行われたアカデミア主体の研究成果です。アカデミア主体の医師主導治験により安全性と有効性を確認し、それを企業が引き継ぎ検証試験を施行し、厚労省先駆けの審査指定(特にコンシェルジェ制度)及び希少疾病用医薬品指定制度を利用することにより製造販売承認申請から6ヶ月に満たないスピード承認となったなど、新規制度の利用や産官学の連携が極めてうまく進んだケースであり、今後同様の薬剤の開発のモデルとしても役立つことが期待できます。

研究者のコメント

<金田講師>
シロリムス外用薬の開発は10年ほど前に始まりました。腫瘍が目立ってきても、幼小児や精神発達遅滞を伴う患者さんには、よい治療法がなく、腫瘍の増加を黙って見ているしかできませんでした。そんな時に、患者さんの家族から、「塗り薬でぱっと治ったらうちの子にも使える。」そう言われたのがきっかけでした。複数の製薬会社に開発をお願いしましたが、良い返事が頂けませんでした。どこも作ってくれないなら自分達で作るしかない。そう思って始めたのです。国から多くの研究資金をいただきましたが、それでも資金の少ない私たちアカデミアは、アメリカのP社の社長宛に患者の窮状を訴える手紙を出して、協力をお願いしました。(もちろん資金や物質的な援助はありませんでしたが)、P社からは、無償で薬の情報に関して多くの協力を頂きました。短期間で治験を終える為に、多くの患者さんが熱心に治験に協力してくれました。多くの人々の善意と希望でできた薬です。これでようやく患者さんとの約束が果たせる。臨床試験で皮疹が消えて、「もうこれで誰も僕を馬鹿にできないぞ」と喜んだ少年と同じ思いをもってくれる子供達が増えてくれることを期待しています。

用語説明

1 結節性硬化症tuberous sclerosis complex
TSC1遺伝子、TSC2遺伝子の異常により、下流のmTORC1が恒常的に活性化し、てんかん、発達障害や、脳、皮膚、腎、肺をはじめとする全身の種々の臓器に過誤腫とよばれる腫瘍性病変を生ずる常染色体優性遺伝性の疾患。症状としては、てんかん発作や、言葉や読み書きなどの発達に遅れが出る、人とうまくコミュニケーションが取れなくなる(自閉スペクトラム症)、心臓の横紋筋腫、脳腫瘍、腎臓の血管筋脂肪腫や嚢腫による腹腔内出血や、リンパ脈管筋腫症(LAM)による労作時呼吸困難(息苦しい)や気胸、歯の表面にくぼみの多発、など様々である。これらの症状のうち皮膚症状は90%以上の患者に出現し、中でも顔面の血管線維腫(図2)は重篤になると患者のQOLを著しく障害し、患者や患者家族などからの治療の希望が多い。これら症状の程度は年齢によっても異なり、個人差も大きいのが特徴である。

2 mTORC1 (mammalian target of rapamycin complex1mTOR複合体1)
TOR(エムトール、エムトア)は、ラパマイシンがターゲットにする細胞内タンパク質で、細胞外の栄養状態や細胞内のエネルギーによって、細胞の成長や増殖を制御するリン酸化酵素。mTORには2種類の複合体(mTORC1mTORC2)が存在する。

※3 シロリムス(ラパマイシン)
放線菌ストレプトミセス・ヒグロスコピクス によって産生される分子量914.172 mg/molのマクロライド系の抗生物質の1つである。FKBP12と複合体を形成することによって、タンパク質の合成、リン酸化、オートファジー、エネルギー代謝等において中心的な作用を有するmTORC1を阻害する。臨床的には抗腫瘍作用、免疫抑制作用を持ち、海外では臓器移植後の免疫抑制剤として使用されている。日本では、リンパ脈管筋腫症(LAM)の薬として承認された。最近はアンチエイジングや認知機能改善の観点からも注目を浴びている。

特記事項

本研究成果は、2017 年1月に米国科学誌「JAMA Dermatology誌」に掲載されました。

【タイトル】“Efficacy and Safety of Topical Sirolimus Therapy for Facial Angiofibromas in the Tuberous Sclerosis Complex: A Randomized Clinical Trial”

【著者名】Mari Wataya-Kaneda, MD, PhD1; Ayumi Nakamura, BPharm2; Mari Tanaka, MD, PhD1; Misa Hayashi, MD1; Shoji Matsumoto, PhD2; Koji Yamamoto, PhD3; Ichiro Katayama, MD, PhD1

【所属】  1. 大阪大学 大学院医学系研究科 皮膚科学
      2. 大阪大学医学部附属病院 薬剤部
      3. 大阪大学 大学院医学系研究科 臨床統計疫学寄附講座

 

本件に関して、3月 26 日に大阪大学大学院医学系研究科(吹田キャンパス)にて記者発表を行いました。

【発表者】金田眞理(大学院医学系研究科 皮膚科学 講師)
     片山一朗(大学院医学系研究科 皮膚科学 教授)
     中村歩 (医学部附属病院 薬剤部 製剤品質管理室/未来医療開発部 未来医療センター 製造グループ)

3月26日NHK、3月27日朝日新聞DIGITAL、4月4日読売新聞にて報道されました。