生体統御医学

麻酔・集中治療医学

すべての道は麻酔科学に通じる
  • 急性呼吸不全の病態と最適人工呼吸療法の解明
  • 樹状細胞を中心とした免疫系へ麻酔薬が与える影響の検討
  • 虚血心の病態と、それに対する治療に対して麻酔薬が与える影響の検討
  • 脊髄後角抑制性痛覚伝導系の電気生理学的検討
  • 培養神経細胞を低酸素曝露した際の細胞内カルシウム動態の画像的検討
教授 藤野裕士
生体統御医学講座 麻酔・集中治療医学
当研究室は臨床業務が手術室麻酔、集中治療、疼痛治療の3部門からなるため、研究対象も麻酔薬の薬理、急性呼吸不全、疼痛メカニズムと大きく3領域に分かれています。これらの研究領域について、細胞あるいは小動物を用いて、基礎研究から臨床研究まで実施しています。

多方面から追求する麻酔科学

麻酔科学は患者に侵襲が加わった状態での管理を研究対象としており、対象は身体の全臓器に及びます。研究は対象もアプローチも様々です。

1.急性呼吸不全の病態と最適人工呼吸療法の解明

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は肺全体の炎症によるガス交換障害で、生命維持に用いる機械的陽圧人工呼吸による人工呼吸関連肺障害をいかに防ぐかが管理上の重要点とされています。安全な人工呼吸を行う上で全ての場合に適用できる指標がこれまでありませんでしたが、当研究室では経肺圧をもっとも有用な指標として提唱しその妥当性を示してきました。経肺圧を指標として用いることで気道内圧では評価できなかった自発呼吸による肺への影響を評価できるようになるなど、これまで混乱していた人工呼吸療法を再評価できるようになりました。

2.脊髄後角抑制性痛覚伝導系の電気生理学的検討

麻酔科医にとって痛みの管理は非常に重要な任務です。しかし、術後創が回復した後にも長期に続く慢性の痛みや、神経が傷つくことで起こる神経障害性疼痛は発症メカニズムが解明されておらず難治性でもあります。そこで当研究室では、神経障害性疼痛モデルマウスを用いて脊髄後角神経細胞における抑制性神経伝達の変化を電気生理学実験や免疫組織実験により検証し、行動実験によりメカニズムに沿った治療法の開発を目指し研究しています。

3.樹状細胞を中心とした免疫系へ麻酔薬が与える影響の検討

麻酔薬が中枢神経系だけでなく、免疫系にも影響を与えることは広く知られています。私たちは、抗原提示細胞として免疫応答の中心的役割を果たす樹状細胞やマクロファージへの麻酔薬の影響を調べています。特に昨今、ベンゾジアゼピンが中枢性ベンゾジアゼピンレセプターだけではなく末梢性ベンゾジアゼピンレセプター(Translocator Protein、TSPO)に作用することが注目されています。私たちの研究では、ミダゾラムがTSPOを介して抗原提示細胞の免疫応答を抑制することが発見されました。

4.虚血心の病態と、それに対する治療に対して麻酔薬が与える影響の検討

近年、高齢化に伴って重度の心不全患者の周術期管理を行う機会が増加しています。私たちは虚血心不全モデルのラットを用いて、周術期に用いる麻酔薬が血行動態・催不整脈性に及ぼす影響を研究しています。また当施設では、脳死心臓移植も行っており症例も増加しています。心移植では摘出した心臓の良好な機能維持が最重要課題です。これに対して脳死ラットモデルを用いて、麻酔科の観点から薬剤による脳死後の心機能保護の研究を行っています。