寄附講座

認知症プレシジョン医療開発学

直観的医療から精密(プレシジョン)医療への転換
  • 発症分子メカニズムに基づくアルツハイマー病の再分類
  • 認知症の血液バイオマーカーの開発
  • complex diseaseを解明するmouse-to-human translational研究
  • ゲノム編集技術CRISPR-Casおよびその応用技術を用いた病態解明
  • 脳疾患におけるRNAスプライシング異常の解明

臨床から基礎まで地続きの研究や、計測工学との融合で認知症を克服します

なぜアルツハイマー病などの認知症の克服は難しいのでしょうか?その原因として「疾患が複雑」「疾患が不均一」「使いやすいバイオマーカーがない」がよく挙げられています。当研究室ではこれまでにない方法による病態解明とバイオマーカー開発を統合的に行いこれらの問題を解決します。

図1 アルツハイマー病の克服が困難な理由と、その解決のために求められていること

 

正確な診断のために

認知症専門医の診断をより正確にするだけでなく、非専門医の診療もサポートする、安価で使いやすいバイオマーカーを開発します。

革新的な治療法開発のために

臨床治験にふさわしい患者群の合理的抽出や、治療効果判定に使える血液バイオマーカーはまだなく、新薬開発の足枷になっています。認知症の血液バイオマーカー実用化は、革新的な治療法の開発も強力に後押しします。

その先にあるプレシジョン医療のために

大勢のアルツハイマー病患者さんが全員同一の仕組みで発症するのではなく、発症原因や脳病理には多様性があると考えられています。アルツハイマー病の状態や発症要因の多様性を分子レベルで解明し1,4、対応する血液バイオマーカーを開発すればアルツハイマー病をいくつかのサブグループに分類しなおすことができます。このサブグループは発症メカニズムも含め生物学的に均一になるため、それに応じた合理的な治療法の開発が効率的に行えます。

このような疾患の生物学的な再分類と、この再分類に基づく効率的な治療はプレシジョン医療とよばれ、がん治療分野では成功を収めつつあります。プレシジョン医療による治療の合理化は医療費を節約することも期待されています。


図2. プレシジョン医療における診断と治療の概念
左:現状では発症要因が異なる様々なアルツハイマー病患者さんを一律に治療する方法の開発は困難。
右:発症要因ごとに細分類すれば、強力で効率的な治療法の開発が可能になる。

 

臨床医学、基礎医学と計測工学の融合

血液バイオマーカーの開発やプレシジョン医療の実現のためには、充実した認知症臨床研究、革新的な計測方法と、この両者を結ぶ基礎医学が必要です。大阪大学精神科の良質な診療に裏付けられた臨床検体はバイオマーカー開発に大いに役立っています。認知症の臨床治験の実施やそのために必要な人材を育成するための行動神経学・神経精神医学寄附講座も昨年開講しています。台湾のベンチャー企業(MagQu社)のImmunomagnetic reduction(IMR)を革新的計測方法として導入し、バイオマーカー開発や改良も進めています。

また、森原剛史寄附講座教授らは、これまでにアルツハイマー病になりやすい体質を持つマウスからその原因遺伝子Klc1を同定しました。KLC1vEを基盤とする発症メカニズムを解明し、血液バイオマーカーも開発しています1。永田健一寄付講座講師はゲノム編集技術CRISPR-Casやその変法を駆使してアルツハイマー病の発症分子メカニズムを明らかにしています2,3。一方RNAのスプライシング機構の異常が脳疾患では予想以上に多いこと指摘されています。KLC1も含めたプライシング機構について最新の技術で解明していきます。

新しい基礎医学研究による充実した臨床医学と計測工学を融合が、プレシジョン医療を実現させます。

文献

1. Morihara T et al. Proc Natl Acad Sci U S A 111, 2638-43, 2014.
2. Nagata K et al. Nat Commun ;9, 1800, 2018.
3. Sasaguri H, Nagata K et.al. Nat Commun. 9, 2892, 2018.
4. Yamaguchi-Kabata Y et al. Hum Genet. 137, 521, 2018.