社会医学

公衆衛生学

生活習慣病の予防〜地域での半世紀に渡る予防活動の実践と疫学研究、国際社会への貢献
  • 地域における生活習慣病の予防対策の実践と評価
  • 生活習慣病、特に循環器疾患病の環境・身体・遺伝要因・社会要因の疫学研究
  • 血栓形成性、血圧、血清脂質、耐糖能に関する疫学研究
  • 動脈硬化、頚部動脈硬化、動脈血管内皮細胞機能、睡眠呼吸障害等に関する疫学研究
  • 日本および環太平洋地域における大規模疫学調査の実施
教授 磯博康
社会医学講座 公衆衛生学
当研究室の源流は初代教授関悌四郎先生に遡ります。わが国の衛生状態の改善、急性感染症の低下、生活習慣病の増加と変遷に伴い、公衆衛生学の対象とする疾病も変化してきました。現在は循環器疾患をはじめとする生活習慣病の予防活動、疫学研究と、その世界展開に取り組んでいます。

生活習慣病の予防活動と疫学研究、国際社会への貢献

当研究室では、循環器疾患(脳卒中、虚血性心疾患、世界における死因のトップ)の予防活動と疫学研究に継続して取り組んできました。日本における循環器疾患の疫学研究は、戦後の公衆衛生上の課題であった結核の沈静化後、働き盛りの日本人への新たな脅威として流行した脳卒中への対策に端を発します。当研究室では1963年に地域における脳卒中対策を開始し、多大な成果を上げてきました[1,2](日本医師会医学賞 2015)。

循環器疾患の疫学は、1958年の世界7カ国における血中コレステロール濃度と心疾患リスクの関連の発見に始まり、フラミンガム研究他、世界中の栄養、生活習慣、社会要因・遺伝要因の研究へと発展しています。この世界的な潮流の中で、当教室では血中コレステロール低値が脳出血のリスクと関連することを発見し(図1)[3]、飽和脂肪酸の摂取量と脳出血のリスクの間に負の関連があることを明らかにしました[4,5]。日本食の特徴である魚の摂取(不飽和脂肪酸)が、脳卒中[6]、虚血性心疾患[7]リスクの低下と関連することも報告しています。

近年では生活習慣や社会要因と疾患の関連の研究も行っています。早食いと肥満[8]、果物摂取と糖尿病[9]ほか、循環器疾患との関連ではストレス[10]、生活の楽しみ[11]、ヘルシーライフスタイル[12]、身体活動[13,14]、座りがちの生活[15]、朝食欠食[16]、社会経済要因[17]、婚姻状況[18]などです。多様化する社会において、科学的なエビデンスに基づいた健康的な生活習慣の提示が求められています。

これらの関連はコホート研究という数万人規模の地域住民を10年単位で継続的にかつ精密に観察する手法により分かります。当教室では50年以上続くCIRCS研究をはじめ、日本を代表する大規模疫学研究であるJACC研究、JPHC研究に取り組んできました。さらに世界最大規模の出生コホートのエコチル研究、遺伝と生活要因の相互作用の検討も含めたJPHC NEXT研究といった新しいコホート研究を他機関と協力して開始し、次世代のよりよい健康を目的とした研究を進めています。

世界的な視野に立つと、中進国の経済発展に伴い、かつての経済成長期の日本のように、若い世代の生活習慣病が急増し、わが国における経験と技術が必要とされています(図2)。当教室ではこの問題解決に当たるべく、米国ハーバード大学や英国ロンドン大学との連携を強化すると同時に、中国やパラオ共和国でのフィールド調査も行いながら、厚生労働省やWHOと連携して世界的な生活習慣病予防のための研究と人材育成を組織的に推進しています。

【文献】

1. 磯. 日本公衆衛生雑誌 33:153-163, 1986.
2. Shimamoto et al. Circulation 79:503-515, 1989.
3. Iso et al. NEJM 320:904-910, 1989.
4. Iso et al. Circulation 103:856-863, 2001.
5. Iso et al. Am J Epidemiol 157:32-39, 2003.
6. Iso et al. JAMA 285:304-12, 2001
7. Iso et al. Circulation 113:195-202, 2006.
8. Maruyama et al. BMJ 21;337:a2002, 2008.
9. Muraki et al. BMJ 347:f5001, 2013
10. Iso et al. Circulation 106:1229-1236, 2002.
11. Shirai et al. Circulation 120:956-963, 2009.
12. Eguchi et al. Eur Heart J 33: 4 467-77, 2012.
13. Noda et al. J Am Coll Cardiol 46:1761-1767, 2005.
14. Kubota et al. Circulation, in press.
15. Shirakawa et al. Circulation 134:355-357, 2016.
16. Kubota et al. Stroke 47:477-481, 2016.
17. Honjo et al. Stroke 45:2592-2598, 2014.
18. Honjo et al. Stroke 47:991-998, 2016.