外科学

乳腺・内分泌外科学

乳癌分子診断法の実用化の推進とセンチネルリンパ節転移予測法の開発
  • 遺伝子発現プロファイルに基づく予後及び薬剤感受性予測モデルの実用化の推進
  • 腋窩リンパ節転移予測モデルの実用化の推進
  • センチネルリンパ節転移予測法の開発
  • アジドプローブによる新しい断端診断法の開発
  • ゲノム情報によるターゲット遺伝子の同定と治療法の開発
教授 島津研三
外科学講座 乳腺・内分泌外科学
当教室の前身は微生物病研究所附属病院の外科です。1993年阪大病院と微研病院の統合・合併に伴い腫瘍外科学研究部(高井新一郎教授)と名称変更されました。1998年(平成10年)に野口眞三郎教授が着任し、乳癌分子診断法の開発に着手。2020年(令和2年)より私が診療科長を担当しています。

最先端のゲノム解析法を駆使した乳がん予後・薬剤感受性等の高精度分子診断法の開発を通した乳がん個別化医療の推進

当研究室では、女性で最も罹患率の高いがんである乳癌の診療と研究を行っています。それぞれの乳癌患者さんに最適の医療を提供するため(個別化医療の実現)には、個々の乳がんの生物学的特性を正確に診断し得る分子診断法の開発が必須であるとの信念の下、当研究室では、以前より以下に述べるように新規の分子診断法の開発に取り組んでいます。
個々の乳癌患者さんの再発リスクに基づいた適切な補助化学療法を施行するためには予後を正確に予測できる診断法の開発が不可欠です。私たちは、乳癌組織における95個の遺伝子発現プロファイル解析に基づく予後予測法として95-Gene Classifierを開発し実用化しました(商品名:Curebest 95GC Breast(シスメックス社))[1,2]。
本診断法によって再発の高リスク群と低リスク群を区別することができます(乳がん診療ガイドライン2015)。21GC(Oncotype DX)との併用により予後予測精度を更に向上することが可能です。

 

また、従来乳癌の化学療法の効果を高精度に予測法する方法が存在せず、そのため不適切な化学療法が頻繁に実施されてきました。そこで、私たちは、乳癌組織の23個の免疫関連の遺伝子発現プロファイル解析に基づく化学療法の効果予測法(IRSN23、特願14182820.2)を開発しました[3]。

本法によって、特に術前化学療法無効症例を高精度に診断することが可能となりました。次に、私たちは、再発のモニタリングに有用な高感度腫瘍マーカーの開発に取り組み、循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA:ctDNA)の高感度検出法としてOne-Step Methylation Specific PCR法を開発しました[4,5]。
また、現在、次世代シークエンサーを用いたより精度と感度の高いctDNA検出法の開発に加え、ホルモン療法/抗HER2療法耐性機構の解明やOSNA法の改良にも取り組んでいます。 以上の研究成果を発展させるべく、現在、これらの新規分子診断法の臨床的有用性を評価する前向きの臨床試験を実施あるいは計画しています。今後も当研究室は、臨床と研究の両面で日本をリードする乳腺外科学教室としてさらに発展すべく、研究員一同日々研鑽を重ねて参ります。

 

細胞・免疫関連の基礎研究

・乳癌細胞の可塑性を標的とした治療法の開発

乳癌を含む癌細胞は通常上皮系の性質を保持しています。ところが、癌細胞は自身の置かれた微小環境の影響を受けて、上皮以外の性質を持つようになる事(可塑性plasticity)が分かってきました。この現象は腫瘍の増大・転移・治療抵抗性と密接に関連するため、その制御によって乳癌の進展を阻止できるのではないかと考えられます。私達は、HER2陽性乳癌を題材として、可塑性の機序の解明および治療法に結びつく阻害薬の探索を行なっています。これまで、乳癌がTGFβというサイトカインによって幹細胞化すること[6]や、VEGFなどの血管関連サイトカインの影響により血管内皮様の性質を持つようになること[7]を明らかにしてきました(図)。今後は乳癌可塑性に対する阻害薬の探索を行い、新たな分子標的治療の開発につなげたいと考えています。

・乳癌と液性免疫との関連

癌免疫の中心的役割を果たすのは細胞性免疫ですが、乳癌患者では細胞性免疫による癌免疫の恩恵を受けることは多くありません。一方、私達は血清中のHER2に対する自己抗体値が高い患者では予後が良好であること[8]、更にその自己抗体値の高い患者では液性免疫が活性化されていることを突きとめ(Sato et al., submitted)、乳癌の排除には液性免疫も重要であることを明らかにしました。現在、乳癌微小環境において液性免疫を効率的に活性化させる因子を見出し、新しい乳癌免疫療法の開発に結びつけるべく研究を重ねています。

 

乳がん手術の乳腺切除断端の術中迅速診断の開発

現在、乳がんの乳房温存手術の際、術中に乳腺断端組織の顕微鏡による診断(術中迅速病理組織診断)を行い、がんが残っていないかどうかを確認しています。断端検査には一般的に数十分程度を要する為、短時間で簡便に実施できる新しい迅速術中診断技術を開発することが求められています。我々は、酸化ストレスの多い細胞(がん細胞など)で高発現するアクロレインに有機反応を起こして細胞に取り込まれるプローブを見いだし、手術中に摘出した“生”の乳がん組織に5分間浸すだけで、がん細胞が迅速に染色されることを見つけました(click-to-sense法)。このプローブは病理診断とほぼ同じ結果のがん組織の画像形態を確認することができます。がん細胞は細胞レベルで染色される為、捺印細胞の診断にも期待されており、現在、我々は、この技術と人工知能(AI)の画像診断技術との併用を用いて乳がん手術の際の乳腺切除断端の術中迅速診断に用いられることを目指しています。

図1 手術中に切除する乳がん部位を迅速に見極める新しい診断技術

図2 アジドプローブ染色とHE染色による乳がんの種類の比較結果

 

【文献】

  1. Naoi et al. Breast Cancer Res Treat 128: 633-641, 2011.
  2. Oshima et al. Cancer Lett 307: 149-157, 2013.
  3.  Sota et al. Ann Oncol 25: 100-106, 2014.
  4. Yamamoto et al. Breast Cancer Res Treat 132: 165-173, 2012.
  5. Takahashi et al. Clinical Breast Cancer 17(1):61-69, 2016.
  6. Chihara et al., Breast Cancer Res Treat. 166: 55-68, 2017.
  7. Hori et al., Breast Cancer Res. 21: 88, 2019.
  8. Tabuchi et al., Breast Cancer Res Treat. 157: 55-63, 2016.