外科学

呼吸器外科学

地域医療に貢献し、世界に発信する 呼吸器外科学講座
  • 心房性利尿ホルモンANPによる肺がん転移・再発の抑制
  • 上皮間葉移行:肺がん遠隔転移のメカニズムの解明
  • 水素吸入による肺移植後虚血再灌流傷害軽減
  • 胸腺腫:世界基準は当科から
  • 再生医療:iPS細胞を用いた肺再生の研究
教授 奥村明之進
外科学講座 呼吸器外科学
旧第1外科、旧第2外科の垣根を越えて、呼吸器外科の単独講座として、平成19年(2007年)に開設された新しい研究室で、今年開講10周年を迎えます。

Bedside-to-Bench, Bench-to-Bedside ~双方向の医療・研究を実践

心臓ホルモンANPによる、がん転移抑制効果についての多施設臨床研究(JAMP study)

心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)は、現在は心不全の治療薬として利用されています。これまでに私たちは、非小細胞肺がん手術中より3日間ANPを低用量持続投与することによって心肺合併症を予防できることを示してきました。心肺合併症予防の為に投与されたANP群(手術+ANP群)を手術単独群(対照群)と比較した結果、術後2年の無再発生存率が良好な成績であったこと、さらには両群の年齢や性別、がん進行度等をマッチングさせた統計解析においても同様の結果が得られたことから、「ANPが何らかのがん転移・再発抑制効果を持つ可能性がある」と考え、基礎的見地から解明を進めたところ、ANPが血管保護作用を発揮することにより、がん細胞が血管へ接着するのを防ぎ、結果的にがん細胞の転移・再発を抑制していることが判明しました。現在JANP studyとして、肺がん患者さんに対し、ANP投与群、非投与群の2群に分けて、術後の肺がん再発などについて比較検討する、多施設臨床研究を行っています。(図1)

図1.JANP study

水素による肺移植後虚血再灌流傷害の軽減

肺移植後の治療成績を大きく左右する病態に「虚血再灌流傷害」があります。虚血再灌流傷害は、移植手術後急性期の移植肺の機能不全を引き起こすだけではなく、術後慢性期においても、移植肺の機能廃絶のリスクも増加することが知られています。しかしながら現在のところ治療法はなく、新しい治療法の開発が求められています。近年水素分子は活性酸素を除去する抗酸化物質であることが証明されました。生体内に除去する酵素が存在しない強力な活性酸素を水素が選択的に除去するだけでなく(直接作用)、細胞内シグナルに働きかけて、内因性の抗酸化物質を増加させるとも言われています(間接作用)。直接作用と間接作用の両方で、水素は効果的な抗酸化作用を示すと考えられています。当研究室では、肺移植の行程を模した動物実験モデル(ラット)で、水素ガスの吸入が移植後の肺の虚血再灌流傷害を軽減させることを証明しました。 水素分子は新たな医療ガスとして注目されており、心筋梗塞、蘇生後脳症、パーキンソン病など、虚血再灌流傷害、酸化ストレスが原因となる病気に対して、臨床試験が開始されています。当研究室では、大阪大学医学部附属病院集中治療部と共同で、世界に先駆けて肺移植術後患者さんに対して、水素ガスの吸入を行う臨床試験を開始しました。(図2)

図2.水素の抗酸化作用