大阪大学大学院医学系研究科 生体統御医学講座 麻酔集中治療医学教室

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    大阪大学大学院医学系研究科 麻酔集中治療医学講座 TOP>各種マニュアル>気道管理マニュアル>4・麻酔科医に必要なファイバースコープの知識(1)

    気道管理マニュアル

    ここでは基本的な気道確保の方法から、
    挿管困難症例に対する対応や分離肺換気
    の方法など麻酔管理上必要な特殊な気道
    管理の方法までについて解説する。

    4.麻酔科医に必要な
      ファイバースコープの知識(1)

    気道管理マニュアル

    麻酔科医に必要な気管支ファイバースコープの知識

    ここでは麻酔における基本的な気道確保の方法について解説する.ここでは麻酔における気道確保としてマスク換気と気管内挿管について解説する.

    目次

    I.  気管支ファイバースコープの操作
    II.  気管支ファイバースコープを用いた観察
    II-1. 喉頭
    II-2. 気管
    II-3. 右主気管支
    II-4. 右上葉気管支
    II-5. 中間気管支幹
    II-6. 右中葉気管支
    II-7. 右下葉気管支
    II-8. 左主気管支
    II-9. 左上葉気管支
    II-10. 左下葉気管支
    (注)このページの動画を再生するにはApple QuickTimeが必要です.

    I 気管支ファイバースコープの操作

    I-1. 気管支ファイバースコープの操作

    内科医や外科医が気管支ファイバースコープを操作する場合には通常写真のように左手でスコープを操作する.これは右手で鉗子などを操作することがあるためである.しかしながら麻酔科医が鉗子操作をすることは非常に稀であるから,麻酔科医の場合には気管支ファイバースコープは右手で操作した方がよいと考えている.利手の方が細かな操作が行いやすいからである.特にファイバースコープガイド下挿管の場合には細かな操作が必要であるから利手で操作する方がよい.
    親指でUP-DOWN用のレバーを操作し,示指で吸引ボタンを操作する.写真のレバーの部分に書かれているようにUP-DOWNレバーを押し下げる方向がUPの方向である.

    I-2. 気管支ファイバースコープの操作上の注意点

    (UP) (DOWN)
    1.  気管支ファイバースコープの視野内に作られている目印のマークの方向がUPの方向である(左の写真では視野の上部にあるマークがUPの方向になってい る).つまり,ファイバースコープの手元のレバーをUPに進めた時に見えていく方向を示している.また,通常ファイバースコープの構造としてUPと DOWNでは曲がる角度に差があり,UP方向の方がより大きく曲がるように作られている.

    2. ファイバースコープはこのUPとDOWNという上下方向にしか動かない.従ってファイバースコープを目的の方向に進めるには,まず目的の方向とUP-DOWNの動く方向が平行になるようにかつUPが目的の方向を向くようにファイバースコープを回転させ,その次にUPレバーを調整して目的の視野を得るようにしなければならない.稀にはファイバースコープのたわみ具合などによりDOWNの方向でなければうまく目的の視野が得られにくいこともある.このような場合にはDOWNの方向で調整してもよい.

    3. ファイバースコープの視野角は120-130度程度である.従って前方向はよく見えるものの側方の視野は思っている以上に狭い.側方にあるものを見る場合にはファイバースコープの先端をその方向に振らなければ視認することは難しい.

    I-3. ファイバースコープのサイズ

     気管支ファイバースコープには新生児・小児用の2.0-2.5mm径程度のもの,小児用の3.0-4.0mm径程度のもの,4.5-5.0mm径,6.0mm径程度のサイズのものがある.2.0mm径前後のものには操作用のチャンネルがなく,吸引操作や鉗子による操作はできない.
    サイズが大きいもの程操作用視野も広く,チャンネルの径も大きく種々の処置が行いやすい.採痰の場合には可能であれば処置用の6.0mm径のものが望ましい.
    ダブルルーメンチューブを用いて分離肺換気を行う場合,39Frおよび41Frのチューブの場合には4.9mm径程度のサイズのファイバースコープが使用可能であるが,35Frおよび37Frサイズの場合には3.0-3.5mm径のものしか使用できない.32Frの場合にはかろうじて3.5mm径のものが使用可能であるが,十分な潤滑剤が必要である.また,チューブ内に血液などが付着した場合には3.5mm径のものでも使用が困難になる場合がある.ファイバースコープがスムースに操作できない場合にはファイバースコープ検査時に気管内チューブの位置がずれてしまう危険性があるため細心の注意が必要である.32Frの場合には3.0mm径程度の細い目のものを使用すべきである.28Frサイズ以下のダブルルーメンチューブの場合には新生児用の極細のファイバースコープしか使用できないだけでなく,換気時の気道抵抗も非常に高いため,私は使用していない.

    II. 気管支ファイバースコープを用いた観察

    麻酔科医が気管支ファイバースコープを使用する主な目的は以下の3つである.
    1. 肺手術時の特殊チューブの位置決めや気管支ブロッカーなどの操作
    2. 挿管困難症に対するファイバースコープガイド下挿管
    3. 喀痰吸引や無気肺の解除など

    ここではまず,ファイバースコープガイド下挿管のために必要な知識をまとめ,続いて肺手術時に必要となる気管・気管支の解剖に関して解説する.
    肺手術では,肺葉切除術や肺全摘術だけでなく肺区域切除術が施行されることもある.このような場合には外科医から区域気管支の同定を依頼される場 合もある.外科医からの要望に応えられるだけの知識を身に付けておきたいものである.

    II-1-1.  喉頭の観察とファイバースコープガイド下挿管

    ファイバースコープガイド下挿管のためには喉頭の観察法およびファイバースコープそのものの操作法に熟練が必要である.挿管困難症例でいきなりファイバー スコープの使用を試みても簡単に挿管できる訳ではない.時間を設けて通常の症例の時にトレーニングしておくことをお奨めする.ファイバースコープの操作は 麻酔科医(特に指導医クラス)にとっては必須の技術であると考えている.
    一般的には喉頭の観察は経鼻的に行う方が経口的に行うよりも容易である.これはファイバースコープの進む道筋からみて全体のオリエンテーションが付きやすいからである.また,気管内チューブを挿入する際にも角度的に経鼻の方が進みやすい.しかしながら経鼻挿管の場合には鼻出血を来たし,その後の操作を難しくしてしまう可能性もあるため,私自身は口からアプローチが可能である(口から気管内チューブを通すことが可能である)限り経口のファイバースコープガイド下挿管を行っている.
    先に述べたように経口の場合には舌をうまくよけておかないとオリエンテーションが付きにくい欠点があるが,この点については「バーマンエアウェイT」(Tの 付いてないものが全く別ものであるので注意して頂きたい)を使用すればほとんど解決可能である.これを用いれば猪首の患者でもマスク換気に苦労することもなくなるので非常に便利である.
    左は「バーマンエアウェイT」(東機貿)の写真である.8,9,10cmの3つのサイズのものがある.いずれも横に溝が作 られているため,ファイバースコープがうまく気管内まで誘導できればこの溝を用いてエアウェアイだけを取り除くことができるように作られている.バーマン エアウェイTを用いるコツは,エアウェイが正中に位置するようにうまく調整することと,介助者がいれば下顎を軽く持ち上げることにより喉頭蓋を喉頭後面か ら浮かせることができるようになる.
    さて,ファイバースコープガイド下挿管には熟練を要するが,いくつかのコツを知っておくと比較的簡単に行える.
    1. 適切にベッドの高さを調整しファイバースコープ操作時にファイバーが必要以上に弛まないように注意する.ファイバーに弛みが生じるとファイバースコープに捻じれを生むことになり,結果としてUP-DOWN平面が矢状面からずれてしまうことになる.
    2. ファイバースコープのUP-DOWN平面を患者の正中矢状面と一致させるようにうまくファイバースコープを保持する.これによりUPレバーを操作した時に視野が正しくUP方向を向くようになると同時にUP-DOWNを行っても正しく正中を保持できるようになる.
    3. 分泌物が多い時にはファイバースコープを使用せず,吸引チューブで口腔内を吸引する.ファイバースコープの操作用チャンネルよりも吸引チューブの径の方が太いため吸引が容易である.
    4. 下顎の挙上は重要であり,熟練すれば介助者なしでも左の小指で患者の下顎を持ち上げながら操作できるようになる.この際には上述のバーマンエアウェイTを 使用する.バーマンエアウェイTがない場合には他のエアウェイもしくはバイトブロックを用いて下顎を挙上してもある程度の開口が保てるように工夫する.
    5. どうしても誘導が困難である場合には手術室の照明を暗くしてファイバースコープの光の方向を透かして観察するとおおよそのファイバースコープの向きが推定できる.
    意識下にファイバースコープガイド下挿管を行う場合の最大のポイントは表面麻酔である.慌てずに少しずつリドカインを撒布していけば最小限度の鎮静のみで 円滑に手技を進めることが可能である.ジャクソン式噴霧器やネブライザーを使用して4%リドカインを吸入させておけば,咳反射も十分抑制可能である.上喉 頭神経ブロックを行うこともひとつの手段であるが,私自身は必要としたことはない.鎮静薬を使用する場合には十分時間を置きながら注意深く titrationしなければならない.
    なお,ASAのdifficult airwayのアルゴリズムからは外れるが,私は通常ある程度開口できる症例ではマスク換気で調節呼吸ができることを確認し,その状態から経口でファイ バースコープガイド下の挿管を行っている.熟練すれば20-30秒以内に挿管を完了することが可能となる.自発呼吸を止めれば声門の通過は容易である.た だし,非常にオリエンテーションの付きにくい症例では自発呼吸を残した方が声門の位置を確認しやすいことを知っておくべきである.従って他の方にこの方法 をお奨めしている訳ではない.
    経口でファイバースコープガイド下挿管を行う場合,時としてファイバースコープはうまく気管内に挿入できたものの気管内チューブが披裂軟骨や喉頭蓋に邪魔 されてうまく気管内に進められない場合がある.このような場合には気管内チューブを反時計廻りに90度回転させてやるとよい.もしくは指を喉頭まで挿入し てチューブを誘導するとよい.無理にチューブを押し込もうとするとファイバースコープを損傷してしまう可能性もあるため注意しなければならない.パーカー式チューブを使うのもよい.また,あらかじめ気管支ファイバースコープの外径と気管チューブの内径に大きな差ができないように気管支ファイバースコープと 気管チューブのサイズを決めておくことも重要である.成人なら6mm径のファイバースコープに7.0mmもしくは7.5mmくらいの内径の気管チューブを 組み合わせるとよい.3.5-4.0mm径程度の細径のファイバースコープを用いる場合には特にチューブを進める時にファイバースコープを損傷しやすいので注意すること.
    最近はファイバースコープ越しにチューブを進めるのではなく,テルモ社製のガイドワイヤ(ラジフォーカス)を気管内に進め,これをガイドにしてGEB(ガ ムエラスティックブジー)とチューブを進めるようにしている.この方法だとGEBに適度の強度があるためチューブも進め易いし,ファイバースコープを痛め ることもない.(2009年の日本臨床麻酔学会で発表)
     

    写真左上の矢印が喉頭蓋である.写真右上は中央の奥に声門が見えている.写真左下は声門直下であり,ファイバースコープをやや下方に振ると写真右下のように気管が観察できる.この写真は実際に挿管困難であった患者のものであり,咽頭は軟部組織の増生で狭くなっており喉頭腔も観察しにくいものであった.通常の症例ではこの写真よりも容易に喉頭蓋などを確認することが可能である.

    II-1-2. ファイバースコープガイド下挿管の練習方法

    ファイバースコープガイド下挿管は挿管困難に対して最も有用な手段であるが,残念ながら指導医クラスであっても必ずしも熟達しているわけではない.その最大の理由は練習する機会がほとんどないことにあると思われる.
    我々の施設では近年,研修医や若手麻酔科医に対して積極的にファイバースコープガイド下挿管のトレーニングを行っている.肺手術ではファイバースコープは必ず使用するため,肺手術の気管挿管前にファイバースコープを気管内まで誘導するトレーニングを行っているのである.
    この際にはビデオカメラを用いてファイバースコープの視野を共有し,ファイバースコープを進める方向などを適宜指示している.また,トレーニングには右に示すようなバーマンエアウェイを用いている.この方法の利点は舌根沈下を防いで視野が確保できる点と,喉頭の方向に対するオリエンテーションが付きやすいことである.我々のトレーニングはあくまで麻酔導入後に挿管困難が判明した場合の全身麻酔下の経口ファイバースコープガイド下挿管を想定している.以下にバーマンエアウェイを用いた経口ファイバースコープガイド下挿管の画像を示す.先に示したバーマンエアウェイTを敢えて用いていないのは,どこにでもある道具で練習するためである.なお練習ではファイバースコープを気管内まで誘導するのみで実際のチューブの挿入は行なっていない.また,介助者がいる場合には介助者が下顎を軽く挙上させると喉頭蓋が咽頭後壁から離れるため声帯が見やすくなる.
    ファイバースコープを使用する症例では可能な限り我々が行っているような方法でファイバースコープガイド下挿管のトレーニングを行うことをお薦めする.所用時間は長くても5分も掛からない.適切な練習さえ行えばファイバースコープガイド下挿管は決して難易度の高い手技ではない.
     
     
     

    バーマンエアウェイを挿入することにより,マスク換気も容易になることも重要なポイントである.気道確保困難症例においてはマスク換気さえ維持できれば患者を危機的状況に追いやる危険性はない.麻酔科医はエアウェイの重要性をもっと認識しておくべきであると筆者は考えている.
    バーマンエアウェイを横にみながらファイバースコープを進めて行くと喉頭の方向に迷うことなく進むことができる.エアウェイの先端付近に近付いたら,エアウェイの背側に見えるスペースにファイバースコープ先端を進めるとその先に喉頭蓋を確認できる.(エアウェイを使用していないと,この辺りは舌根沈下によりスペースがなくなっており熟練者でなければファイバースコープを進める方向が判らなくなる.)喉頭蓋が確認できたら喉頭蓋の下にファイバースコープを進め,そこで少しだけUPしてやれば声門が確認できる.ここからはすこしずつDOWNをかけながらファイバースコープを進めれば気管内まで容易にファイバー スコープを進めることが可能である.はじめての研修医でも1-2分程度で手技が行えている.練習を重ねれば10-20秒程度で行えるようになる.純酸素で換気しておけばこの程度の時間の無換気は全く問題とならない.

    FOBガイド下挿管のビデオ(初級コース)

    このような症例ではバーマンエアウェイTのサイズの選択が適切であれば,エアウェイの先端から直ぐに声門を視認でき,FOB先端を容易に気管内まで誘導することが可能である.FOBの視野の正面に目標を捉えるようにしながらFOBを進めるとよい.声門を超えるところで少しずつDOWNするのがコツである.

    FOBガイド下挿管のビデオ(中級コース)

    舌咽頭肥大があるが下顎挙上により喉頭蓋は咽頭後壁から離れており,喉頭蓋の下を潜ることが可能であった.このような例では,喉頭蓋の下に入るまではFOB先端を少しDOWNさせながら進め,被裂軟骨の前に来たところでUPに転じながら声門方向へ進める.声門直前あたりから再び少しずつDOWNさせながら声門を超えると気管内へ進むことが可能となる.

    FOBガイド下挿管のビデオ(上級コース)

    58才女性.154cm,46kg.慢性関節リウマチによる環軸椎亜脱臼にてC0/2の後方固定が予定された.術前からハローベストが装着されていた.びまん性汎細気管支炎あり.開口は十分に可能.
    PropofolをTCIポンプを用いて投与(初期目標血中濃度2.0 μg/ml).目標濃度を徐々に3.0 μg/mlまで増加させ,就眠を得た後マスク換気可能であることを確認し,remifentanil 0.5 μg/kg/min で開始し(後に0.2 μg/kg/minへ),rocuronium 20mgを投与した.喉頭展開を試みるもCormack IVのため,当初の予定通りFOBガイドした挿管を行なうこととした.
    バーマンエアウェイT(8cm)を用いOLYMPUS社製P30(4.9 mm径)FOBにてトライした.喉頭蓋の視認は容易であったが,舌扁桃肥大があり,また下顎挙上を行なうことができない状態で,喉頭蓋は咽頭後壁に密着した状態であった.喉頭蓋の下にFOBを進めようと試みたが成功しなかった.
    そこで左の梨状窩方向へFOB先端を進め,側方から喉頭蓋の下方へ侵入する方法を試みた.何回目かのトライで被裂軟骨が一瞬視認できたため,ほぼ同じ経路からFOB先端を被裂軟骨に押し付けるような感覚で右回転の後FOB先端を少しUPさせてblindのまま喉頭蓋下へFOBを滑り込ませ,ここで左回転させながら少しずつDOWNを掛けつつ進めたところ声門を超えることに成功した.このような症例では,常に視野を確保しながら目標を視認し続けることが困難であるため,解剖学的構造を頭の中にイメージしながらブラインドで操作しなければ手技に成功しない.なお,びまん性汎細気管支炎のため気管内にも多量の喀痰が存在した.