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教授メッセージ


ベルツ賞受賞に際して
平成22年11月19日

受賞者を代表して、ここにお礼の言葉を述べさせていただきます。
このたびは第47回ベルツ賞を賜り、誠にありがとうございます。大変光栄に存じるとともに、その栄誉に身の引き締まる思いであります。

まず今回の選考に当たられました、常任委員であられる井村裕夫先生、高久史麿先生、豊島久真男先生、早石修先生、トーマス・ハイル会長、ならびに専門家の立場から論文を審査された篠山重威先生をはじめとした専門委員の先生方、またベルツ賞事務局の方々に心より御礼申し上げます。

今回のテーマであります「心不全」は、その患者数の多さと予後の悪さから、循環器疾患のなかでも、最も重要な疾患であり、その病態の解明と新規治療法の開発が強く望まれています。私は、一貫して心不全を研究テーマとしてまいりましたが、当初は、生体内でしか解析不可能な心機能異常といったダイナミックな病態に、生化学的、分子生物学的なアプローチをすることができず、詳細な分子機序の解明は不可能でした。そこで心不全の前段階として存在する心肥大の形成機序を解析しました。幸い伸展といった機械的刺激に対する心筋細胞応答機序を世界で最初に明らかにすることに成功しました。その後任意の遺伝子を改変したマウスが作成できるようになりましたので、私は、我が国で最初に遺伝子改変マウスの心機能の解析法を確立し、生体における心不全の分子レベルの解析を開始しました。その後、心不全の病態について、様々な角度から解析を加え、世界に先駆けて新しい機序を発表していきました。さらにそれで終わることなく、基礎研究の成果をいち早く患者に応用すべく、トランスレーショナル研究を行い、先進医療の実践を心がけてまいりました。

ベルツ博士は、我が国における近代医学の育ての親であり、私の母校である東京大学医学部の基礎を確立した大先達でもあります。そのような偉人の名前を冠した賞をいただくことは、私にとりまして、何よりも光栄なことであります。
ベルツ博士は、 「日記」の中で「日本では今の科学の成果のみを西洋諸国から受け取ろうとしたのであります。この最新の成果を彼らから引き継ぐだけで満足し、この成果をもたらした精神を学ぼうとしないのです。」と科学の成果のみを獲得するのではなく、精神を我が物とする重要性を説いています。またベルツ博士は、「医学は学問であるばかりでなく、技術であるということは、いくら繰り返しても多すぎることはありません。それでは一体、なんのために医者は勉強するのでしょうか?病気の人たちを治すためです!」と医学研究の理念についても言及しております。さてベルツ博士が警鐘を鳴らして100年余りがたちますが、果たして現代の日本に真の科学の精神が育ち、患者のための医学研究がなされているでしょうか。流行を追うことなく、自分なりの方法を確立し、独創的な研究を行うことが科学研究においては重要であり、さらにそれを患者に還元することが医学研究の使命であると思います。今後私は、患者を治すべく、独創的なより良い研究を行なってまいりたいと存じます。

最後に私事でありますが、今回のベルツ賞受賞は2回目になります。丁度25年前、1985年に私の恩師であります矢崎義雄先生の共同研究者としていただきました。矢崎先生が、研究を始めたばかりの私を共同研究者に加えてくださったのは、おそらく将来の発展を期待してくれてのことと、大変恐縮しながらも受賞させていただいたことを良く覚えております。今回25年ぶりにまたこの賞をいただいて、恩師の期待に少しは答えることができたのではないかとほっとしております。今回私は、7人を共同研究者としました。もちろん彼らなくして私の研究はなかったわけですが、少なからず彼らにも今後の期待をこめて共同研究者とさせていただきました。今後彼らがこの受賞を契機に益々研究に励んで大きく発展してくれれば、今回の受賞の意味は何倍にもなることと確信しています。

最後にベルツ博士の功績をたたえて、ドイツと日本の医学の交流とさらなる発展を祈念して、ベルツ賞という形で顕彰の機会を設け、それを半世紀近くも持続されておられるベーリンガーインゲルハイム社、それを支持しておられるドイツ大使館、関係各位に深く敬意を表し、受賞のご挨拶とさせていただきます。真にありがとうございました。