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難聴外来

1.担当医師

助 教 太田 有美 日本耳鼻咽喉科学会認定専門医
補聴器適合判定医
補聴器相談医
臨床遺伝専門医
自立支援医療指定医
助 教 森鼻 哲生 日本耳鼻咽喉科学会認定専門医
補聴器相談医
めまい外来の担当医も、難聴の患者様の診察に参加しています。

2.診療について

難聴外来は、主に成人の難聴の診断・治療にあたる外来です。

難聴には、音の振動を伝える部分である外耳から中耳に障害がある伝音難聴と、音を感じ取るセンサーの役割をしている内耳から脳に至るまでの音を感じ取る部分に障害がある感音難聴、さらに伝音難聴と感音難聴の両方が起こる混合性難聴の3種類があります。難聴がある場合、その原因がどこにあるかを探り、病態に応じた対処が必要です。伝音難聴は主に手術で治療することが多く、感音難聴の一つである突発性難聴は発症してから早期に点滴などで治療する必要のある疾患です。当外来ではこれらのすべてに可能な限り対応できるように心がけています。以下に私たちがよく扱っている代表的な疾患や治療法についてご紹介します。

真珠腫性中耳炎、慢性化膿性中耳炎

鼓膜が袋状にへこみ、その袋に耳垢がたまることにより炎症を起こし、周囲の骨を溶かしてゆくのが真珠腫性中耳炎です(写真1)。また急性中耳炎の繰り返しなどにより鼓膜に穿孔(穴)が生じ、そこから耳漏(耳だれ)を繰り返すのが慢性化膿性中耳炎です(写真2)。これらは伝音難聴をきたす代表的な疾患で、鼓室形成術という手術を行うことにより炎症による耳漏を食い止めたり、聴力を改善したりすることができます。特に真珠腫性中耳炎は放置すると進行して顔面麻痺やめまい、頭蓋内合併症を起こす危険もありますので、見つかったら早めに手術を行うことが必要です。

鼓室形成術について

平成22年に当科で行われた鼓室形成術は117例でした。対象となった疾患の内訳は真珠腫性中耳炎64例、慢性化膿性中耳炎37例、その他癒着性中耳炎などが16例でした。

真珠腫性中耳炎は再発がしばしば問題となりますので、手術を2回に分けて行うことが多い疾患です。1回目の手術では真珠腫を摘出して中耳の換気を改善するのが目的です。またその半年から1年後に2回目の手術を行ない、再発の点検と聴力改善のための手術を行います。真珠腫性中耳炎は病気の進み具合により、ステージⅠ〜Ⅲまでの3段階に分類されています(図1)が、当科では原則的にステージⅠでは1回で終わる手術を選択し、ステージⅡ以上では再発予防の観点から2回に分ける手術(段階的手術)を選択することが多いです。ただし患者さんによっては手術を2回受けられない理由がある方もいらっしゃいますので、その際には臨機応変に対応しています。また小児の場合は成人に比べて進行例が多く、再発後の進行も成人より早いのでほぼ全例段階的手術を選択しています。段階的手術の1次手術では、真珠腫の再発予防のために中耳にシリコン板を留置してその周囲に換気ルートが出来るように工夫しています(図2)。

耳硬化症や耳小骨奇形

音の振動を内耳に伝えている耳小骨のうち3番目の骨をアブミ骨と呼びます。この骨の底の板(底板)が体質により周囲の骨とくっついてしまい振動しなくなる(固着)のが耳硬化症です。また、耳小骨の奇形により先天的にアブミ骨底板が固着している場合があります。これらの疾患でも伝音難聴や混合性難聴をきたします。難聴の改善のためにはアブミ骨底板に穴をあけて(開窓して)ピストンを挿入し、残りの耳小骨と連結させることにより音の伝わりをよくすることができます。これをアブミ骨手術といいます。

アブミ骨手術について

アブミ骨手術には、アブミ骨をすべて摘出する方法(Stapedectomy)とアブミ骨底板に開窓する方法(Stapedotomy)がありますが、後者の方が手術後の内耳障害(感音難聴やめまい)をきたしにくいので、当科では可能な限りStapedotomyを行っています。写真3のように開窓したアブミ骨底板に人工ピストンを挿入し、2番目の耳小骨であるキヌタ骨にピストンを立てかけます。内耳障害がまれに起こることがありますが、通常は良好な聴力改善が得られるよい手術です。アブミ骨底板の開窓には症例に応じてスキータードリルやCO2レーザー(写真4)を用いており、内耳障害を極力減らす配慮をしています。人工ピストンの素材としては主にテフロンワイヤーピストン(写真3)を使用しています。ワイヤーの部分が金属であるためMRI撮影が可能かとの問い合わせが時々ありますが、通常の1.5テスラのMRIであれば撮影可能といわれています。耳小骨奇形の場合にはキヌタ骨の奇形を合併していることもしばしばありますので、キヌタ骨にピストンが立てかけられない場合もあります。このような症例のために当科ではツチ骨接合型ピストンを常に用意して手術に望んでいます。

両側高度難聴に対する人工内耳埋め込み術

両側とも補聴器で会話ができない程の高度難聴になった場合、人工内耳埋め込み術の適応となります。これは手術で内耳に埋め込んだ電極から直接蝸牛神経(聞こえの神経)を刺激することにより聞こえの感覚を取り戻す方法です。これにより日常的な電話が可能になる方もいらっしゃいます。また、幼児難聴外来の項でも述べますが、先天的に、または言語を覚える以前に両側高度の難聴になったお子さんの場合、人工内耳は音声言語を獲得してゆく上で大きな福音となっています。
 当科ではすでに500例を超える人工内耳埋め込み術の実績があり、これは西日本随一です。

人工内耳の適応について

成人の場合、原則として補聴器の装用効果のない90dB以上の高度難聴の方が人工内耳の適応となります。小児の場合には言語発達にかかわる重要な選択となりますので成人よりさらに細かい適応基準が設けられていて、社会的には、ご両親や医療機関のみならず、言語教育を行ってゆく聴覚支援学校などの療育機関との連携が重要とされています(図5)。さらに医学的な適応基準として、原則1歳6ヶ月以上、両側90dB以上の高度難聴、最適な補聴によっても言語獲得が不十分である、などが設けられています(図6)。

小児における人工内耳の装用効果

適応について熟慮した上で人工内耳埋め込み術を行えば患者さんへのメリットは非常に大きいものです。その一例として図7に重複障害を持たない難聴児の術後成績をお示しします。言語理解力についてのアンケートであるIT-MAIS、MAIS、言語の表出力についてのアンケートであるMUSSの両者とも術後1年で著明に改善しているのが分かります。これに対して、広汎性発達障害などの重複障害児ではIT-MAISやMAISは改善が認められるものの、MUSSの改善の程度は少ない結果となっており、言語の表出面ではある程度のハンディキャップを抱えることがわかります(図8)。しかしながら、重複障害児でも音による刺激が得られることで行動に落ち着きが出るなどのメリットがあります。

人工内耳手術の実際

手術では耳の後ろに約6〜7cmの切開をいれ、耳の穴(外耳道)の後ろにある乳突洞という部分の骨を削ります。その後乳突洞から内耳の入り口が見えるようにして(後鼓室開放)、内耳(蝸牛)に開窓(cochleostomy)します。そこから電極を内耳に挿入して固定します。また、日本で適応のある人工内耳は3社ありますが、どのメーカーにも対応できる体制となっており、患者さんと相談して種類を選択することができます。

<リハビリテーション>

人工内耳を使いこなすには、術後のリハビリテーションが必須で、根気よく続けていくことが重要です。当科には専任の言語聴覚士が2人おり、経験豊富であるため、それぞれの患者さんに合わせたきめ細かいリハビリテーションが可能です。特に小児のリハビリについては、言語の発達にもかかわりますので、小児のリハビリに精通した言語聴覚士の役割は大きいです。

外耳道腫瘍

外耳道癌は、外耳道の慢性的な炎症や耳かきなどによる物理的な刺激が発症の一因とされています。慢性的な耳漏、特に出血を伴う耳漏や耳痛といった症状を呈します。治療は腫瘍を含めた側頭骨切除術を行いますが、放射線治療や化学療法を組み合わせることもあります。最近5年間に当科で経験した外耳道癌症例は10例でした。

側頭骨外科手術

耳の内部の構造をぐるっと取り囲んでいる骨を側頭骨といいますが、そこにできる病変を摘出したりする手術です。具体的には外耳道の良性・悪性腫瘍に対する摘出手術や聞こえの神経(正確には平衡感覚の神経のことが多い)にできる良性腫瘍である聴神経腫瘍に対する手術、側頭骨の先端にあたる錐体尖に生じる真珠腫やコレステリン肉芽に対する手術などがあります。

突発性難聴などの急性感音難聴に対する治療

ある日突然片側の耳が聞こえなくなる原因不明の感音難聴のことを突発性難聴といいますが、これに代表されるような急性の感音難聴は早期に何らかの治療を行わないと聴力が改善しないことがよくあります。突発性難聴の原因としてはウイルスによる障害や血行障害などが推測されているので、ステロイドという炎症やむくみを改善するホルモン剤の点滴を行ったり、血行改善のための投薬を行います。大阪大学とその関連病院では独自の治療法としてデフィブラーゼという血液の粘度を下げて血行を改善する治療を以前より行っており、比較的良好な結果を得ています。その他の急性感音難聴としてメニエール病や外リンパ瘻などがありますが、外リンパ瘻は手術が必要となることもある感音難聴です。

顔面神経麻痺に対する治療

顔面神経が麻痺をおこすと顔面の表情筋の動きが悪くなり、ものが口からこぼれたり、眼が閉じなくなったりします。顔面神経は側頭骨の中を走行している神経ですので耳鼻咽喉科で扱うことの多い神経です。末梢性顔面神経麻痺に対しては突発性難聴同様にステロイドの点滴を行ったり、抗ウイルス薬を投薬したりします。しかし高度の麻痺の時には手術により顔面神経の走行している骨のトンネルを開放する手術(顔面神経減荷術)が必要となることもあります。

3.研究活動について

老人性難聴についての臨床研究を計画しています。加齢による難聴の進行は、環境因子と遺伝的因子の相互作用によると考えられるため、老人性難聴と動脈硬化や糖尿病、高脂血症といった生活習慣病との関連、酸化ストレス、遺伝子変異について今後検討をしていく予定です。高齢化社会の訪れとともに社会的にも老人性難聴はますます問題となってゆくと思われますので、この分野での今後の発展が切望されるところです。

侵害刺激受容体であり、耳鳴やめまいへの関与が示唆されているTRPVファミリー(特にTRPV1)の前庭神経節やらせん神経節での発現や役割を調べています。将来的にこういった基礎的研究と臨床が融合して耳鳴に対する新たな治療が確立されるよう検討していけたら非常に有意義なことだと思われます。