大学院について

中川 崇 先生(平成11年度入局)

皆さん初めまして。現在、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)にてPostdoctoral Fellowとして基礎研究を行っています、中川崇と申します。今回は、私の今までの経験が、少しでも皆さんの大学院進学の参考になればと思い、このような文章を書かせていただきました。私は平成11年に大阪大学耳鼻咽喉科医局に入局し、その後大学病院、関連病院での臨床研修を経て、大学院で基礎研究を本格的に始めました。その後、米国に留学し、現在はMITにて「ミトコンドリアによる代謝制御機構の解明」を目指して研究を進めています。こう聞くと耳鼻咽喉科とは全く縁遠い研究をしているようですが、現在の研究に至るには、耳鼻科における臨床経験が深く関連し、影響しています。そもそも、私が入局先として耳鼻咽喉科を選んだ理由は、めまいから頭頸部癌まで、多種多様な疾患を網羅し、様々な手技に挑戦できる事に魅力を感じたからでした。その意味では、耳鼻咽喉科というのは、一つの診療科の中に内科から外科まで、ありとあらゆる要素を内包している診療科であり、この点は研究にも共通していている事だと思います。特に阪大耳鼻咽喉科は、その全国有数の規模を生かして、耳、めまい、鼻副鼻腔、音声、腫瘍とすべてのサブスペシャリチィーをカバーし、さらに基礎系教室とも連携し、臨床研究から、分子生物学的研究まですべてを網羅していました。私の場合は、研修医時代に多くの頭頸部腫瘍の患者さんたちを担当し、大変ではありつつも、最もやりがいを感じたこともあり、将来は頭頸部腫瘍を専門にしようと考えていました。ですから大学院で癌研究をしたいという事は決めていましたが、多くの人がそうであるように、具体的には何をしたいのか、はっきりとしたアイデアがない状態でした。頭頸部癌は、当時も今も、手術がメインの治療法ですが、進行がんでは、放射線療法、化学療法に頼らざるを得ない事も多くあります。幸い頭頸部癌の多くを占める扁平上皮癌では、これら放射線療法、化学療法が比較的奏功することもあり、阪大でもこれらを組み合わせた集学的治療を積極的に行っていました。しかしそれでも、完全に救う事のできない患者さんたちは、残念ながら存在し、最終的は癌と共存したまま、最後を過ごされていました。癌細胞というのは不思議なもので、化学療法や放射線治療が奏功すると、短期間で消失、縮小するもの、一度再発するとひたすらに再増殖していきます。そして、頭頸部のように生存に直接必須の臓器でなくとも、再増殖した腫瘍は、全身のエネルギーの多くを腫瘍の増殖に使い、カヘキシア(悪液質)を引き起こし、全身の衰弱へと至らしめます。癌細胞とういのは、利己的で自身の増殖の事を優先し、特殊な代謝経路を使うことによって、結果的にはそれが正常組織側の栄養失調を引き起こしている訳ですが、こういった事は、頭では理解できていても、実際にそのような患者さんを目の前にすると、どうしてその様な状況になるのかというのは、なかなか理解し難いものです。しかしながら、こういった素朴に思った疑問こそ、まさに今現在の自分研究の原点でもありました。もちろん、当時からこの様な問題提起を明確に持っていた訳ではありませんし、大学院、ポスドクでの研究ではこれらと少し離れた研究もしていました。しかしながら、臨床での原体験を通した、素朴な疑問が、こうした様々な回り道をしているときでも、自分の中の「解き明かしたい」テーマとして常に自分の中心ある事で、一つの方向性を形作っているのだと思います。

昨今の臨床研修義務化に伴い、医学生、若い医師の臨床指向がより強まっていると聴きます。大学院での研究というのは、確かに短くはないし、大変である事も事実ですが、臨床とは違う別の視点を持ち、将来の自分の行くべき道を形作るのに非常で役立つ過程だと思います。ですから、今後とも多くの若い方々が、大志を抱いて大学院に進学され、ご活躍される事をお祈りしております。(平成23年2月14日記す、平成23年4月より現職)

代表論文

  • Sirtuins at a glance. Nakagawa T, Guarente L. J Cell Sci. 2011 124(Pt 6):833-8.
  • SIRT5 Deacetylates carbamoyl phosphate synthetase 1 and regulates the urea cycle. Nakagawa T, Lomb DJ, Haigis MC, Guarente L. Cell. 2009 137(3):560-70.
  • Cyclophilin D-dependent mitochondrial permeability transition regulates some necrotic but not apoptotic cell death. Nakagawa T, Shimizu S, Watanabe T, Yamaguchi O, Otsu K, Yamagata H, Inohara H, Kubo T, Tsujimoto Y. Nature. 2005 434(7033):652-8.