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大学院について

岡本 秀彦 先生(平成11年度入局)

大学院に関しまして

岡本 秀彦

現在、自然科学研究機構生理学研究所で研究に従事している、岡本秀彦です。すこしでも参考になればと思い、耳鼻咽喉科医が大学院に入って研究に従事しどのように感じたか、等を書かせていただきます。

実際に患者に触れ、治療を行う臨床業務は重要で、やりがいのある仕事です。しかしながら、まだまだ医学に発展の余地があるのも事実です。耳鼻咽喉科領域の疾患では、もちろん他科領域の疾患同様、寿命に直接関係する疾患も多くありますが、耳鼻咽喉科領域特有の疾患として、患者の生活の質(QOL)の低下が大きな問題となる疾患が、数多く存在しています。このような疾患に対して、治療の難しい場合が良くありますが、医学の発展に伴い失った機能を回復したりすることが、可能となってきております。代表例として、人工内耳があります。人工内耳の装着により、耳が聞こえなかった患者さんでも音が聞こえるようになります。私は、研究を通して医学に貢献し、障害に苦しむ患者さんのお力になりたいと考え、耳鼻咽喉科の大学院に入学しました。

私が大学院時代に行い、また現在も行っている研究は、細胞、分子レベルで研究を行うものとは違い、脳磁図という機械を用いて、生きているヒトの脳活動を全体として測定・解析するものです。もちろん、正常人だけでなく、患者さんの計測も可能ですので、臨床的なテーマとの親和性は、他の研究分野に比べると高いのではないか、と考えています。音情報が脳でどのように処理されているか、といったものが私の主要な研究テーマですが、それ以外にも耳鼻咽喉科学領域には、実に数多くの感覚器官が存在しており(聴覚、味覚、嗅覚、平衡覚)、ヒトの個々としての行動や、集団としての社会形成にはそれら感覚器からの情報が、とても深く関わっています。コミュニケーション(言語性、非言語性)、顔の認知、匂いによる情動行動など、すべて感覚器からの情報を基に形成されております。非常に複雑で、解読の難しい分野ではありますが、その分やりがいもあると考えております。

私の場合は少し珍しい例かもしれませんが、上の先生から指導されたり、実験のテーマを与えられたりするのではなく、大学院生時代から、自分で実験のテーマを考え、実験をデザインする必要がありました。そのため、はじめはなかなか結果が出せず、多くの失敗もしました。しかし、この失敗を通じて、どのような問題点に対して、どのようなアプローチを行い、どのように解釈するのか、といった一連の流れを論理的に考える訓練ができたのだと思います。そして、大学院を終了した後、しばらく臨床に従事しておりましたが、ドイツの研究所から誘いがあり約5年間、ポスドクとしてドイツに留学しておりました。留学を通して、日本では得難い経験をすることもできたと思います。大学院で研究を行って幅広い視野を得ることは、研究のみではなく、もちろん臨床の現場でも役に立つのではないか、と思います。例えば、患者さんを多角的に診ることで、いままでは「めまい」で一括りにされていた患者さんの中に「良性発作性頭位めまい症」が含まれる事が明らかになった、というのはごく最近の話です。このように正しい視点から見ないと見えない疾患というものが、まだまだ日常的にみる患者さんの中に隠れていると私は確信しています。大学院での研究を通して違った視点を持つことは、患者さんにとっても、本人にとっても有益な事だと思いますので、やる気のある若い先生方が大学院に入学されることを、心より願っています。

代表論文

  • Broadened population-level frequency tuning in human auditory cortex of portable music player users. Okamoto H, Teismann H, Kakigi R, Pantev C. PLoS One. 2011 6(3):e17022.
  • Listening to tailor-made notched music reduces tinnitus loudness and tinnitus-related auditory cortex activity. Okamoto H, Stracke H, Stoll W, Pantev C. Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 107(3):1207-10.
  • Sound Processing Hierarchy within Human Auditory Cortex. Okamoto H, Stracke H, Bermudez P, Pantev C. J Cogn Neurosci. 2010