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さっそくだけど、みなさんは、“環境医学”っていう言葉を知っていますか?あまり馴染みがないという人も多いかな。
「環境」には自然環境、社会環境、都市環境、といろいろあるけれど、一言でいえば、”人間の生活を取り巻く
すべてのもの”だよね。
身の回りの動植物や天候なんかは自然環境だし、どんな人達と生活をともにしてどんな仕事に就いてっていうのは
社会環境、それから、どんな家に住んでいてどんな交通機関を利用していてっていうのは都市環境だね。
そして「医学」は、人間一人ひとりや個々の病気を対象として、治療したり、どうして病気になるかを自然科学的に
追求する学問だ。
それじゃあ、“環境医学”っていうのは、一体どんな学問なのか、これから一緒にみていこう!
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講義1: 環境医学ってどんな学問? |
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実は、大阪大学の環境医学教室はむかし、衛生学教室って呼ばれていたんだ。 「衛生学」というのは、社会を構成する人間の集団を対象として、その生活条件と人の生理的機能との関係について科学的に考察し、行政と連携しながら生活環境の改善・向上に活かすことを目的とした学問のこと。
簡単にいうと、“人々がより健康でより長生きできるようにするためにはどうしたらよいか”を考える学問ということになるね。 疾病予防と健康増進、これが環境医学(衛生学)の目指すところなんだ。
ここで忘れてはならないのが、環境医学(衛生学)が社会医学の一分野であるということ。 人が集まって社会を構成し、それぞれの社会が、時間をかけて各々の歴史や文化を築き、また人々はそれに根付いた精神風土の中で生きているということを考えずして、疾病予防と健康増進は見込めない。 自然環境も社会環境も含めて「環境」、つまり、“人間”が生活する場だから、その“社会生活を営む人々”について考えないわけにはいかないよね。 勿論、自然科学的な知識や考え方は必要だけれど、同時に、社会科学的な知識や考え方も取り入れながら、多次元的に健康問題に取り組む。 これが環境医学(衛生学)の担うべき役割で、ここが、基礎医学や臨床医学とは大きく異なっている点だ。 基礎医学、臨床医学、社会医学、それぞれに担うべき役割がある中で、環境医学(衛生学)が責任をもって取り組むべきことは、人間と環境が接する部分で生じる問題を解決していくことなんだ。 そのための研究を行うのが環境医学教室なんだよ。
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講義2: 環境医学(衛生学)が扱うテーマは時代とともに変化する |
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さぁ、これまでのところで、環境医学(衛生学)の役割分担はわかってもらえたかな? それじゃ、次は、具体的にどんな課題があって、どんな研究成果をあげてきたかについて、詳しく見ていこう。
まず、環境医学(衛生学)では、本来満たされていて当然の生活条件の何かが、大多数の個人において満たされなくなることで(つまり、社会問題になって初めて)学問上の課題となって、研究が行われてきた。 それは、環境医学(衛生学)の研究対象となる課題は、常にたくさん存在しているものの、そのカバーするべき領域は限りなく広いから、“今、目の前にある最も必要性の高い課題”から研究していくことが求められた結果なんだ。 そういうわけで、社会の変化とともに環境医学(衛生学)の扱うテーマも時々刻々と変化し続けていくし、多様で複雑な社会になればなるほど、環境医学が責任をもって取り組むべき課題も多様になっていくんだよ。
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講義3: 環境医学(衛生学)のはじまりは19世紀のドイツ |
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(マックス・ヨーゼフ・フォン
・ペッテンコーファー
Max Josef von Pettenkofer)
さて、衛生学の創始者で、「近代衛生学・環境医学の父」と呼ばれているのは、ドイツのペッテンコーフェル博士だ。「ダーヴィンの進化論」が盛んだったその時代、彼は、「生存競争に充分耐えうるような健康を造る」ことを目指して細菌学に着手した。 そして、生活環境と疾病発生との関係を重視して下水道整備の重要性を説いて、下水道の普及と衛生行政の発展に多大な功績をおさめた。 当時は、交通や産業の発展とともに、人間の集団行動や移動が活発になった時代だったからこそ、急性伝染病の撲滅が、“今、目の前にある最も必要性の高い研究課題”(講義2参照)になったんだろうね。 その後、産業技術が益々発展してきて、工業発展と国民健康の破壊について考える必要性が高まってきた。 そこで、次第に、工場衛生学や職業病研究も盛んにおこなわれるようになっていったというわけだ。
ちなみに、日本でも、ペッテンコーフェルの時代から遡ること200年、豊臣秀吉の命によって太閤下水という排水設備が整えられていたんだってさ。 大坂という街の発展にも大きく寄与しただろうし、ものすごく画期的なアイデアだよね。
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講義4: 大阪大学環境医学(衛生学)教室のあゆみとこれから |
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それじゃあここで、大阪大学環境医学(衛生学)教室の歴史について簡単に振り返ってみよう。
まず、大阪府立医学校が大学となった福原義柄教授の時代(1869〜)には細菌学が、石原修教授時代(1926〜)には結核に関する追跡調査や、都市大気汚染に関する研究が盛んだった。 続く、梶原三郎教授時代(1933〜)には、生理学的研究、社会・統計学的研究、職業病の研究など、広範な研究が行われるようになった。 丸山博教授時代(1958〜)には、衛生統計、医学史、衛生学史の分野で研究活動が展開され、有害食品、アーユルヴェーダ研究会など、市民参加の研究会活動も広範に組織されるようになった。 後藤稠教授時代(1974〜)には、衛生学が環境医学と名前を変え、二硫化炭素中毒研究など産業衛生関連の研究が盛んになり、森本兼曩教授時代 (1987〜)には、ライフスタイル要因の健康影響をはじめ、精神心理的ストレスの脳神経・免疫・内分泌機構への影響、アレルギー・免疫毒性反応の制御機構の解明と健康影響、疾患感受性遺伝子の変異・環境要因など、分野を越えた研究が盛んに行われるようになってきた。
こうした歴史を振り返ってみても、環境医学(衛生学)が、自然科学の枠の中にとどまっていてはいけないってことがわかるんじゃないかな。 この先には、飽食の時代であるがゆえの疾病(肥満、糖尿病、高血圧、アトピー etc.)や、社会が複雑になったことに起因するこころの疾病(自殺・虐待・ひきこもり etc.)など、まだまだたくさんの多様な課題が待ち構えている。 これまで以上に、様々な領域に視野を広げ、社会科学とも強く結び付いて協力していかないと、時代のニーズに応えられるような、疾病予防と健康増進のための知恵は提供できなくなってくるはずなんだ。 だからこそ、研究領域も研究手法もさまざまな、学際的で多様な研究が必要不可欠だし、そんな多彩な研究ができるということが、この研究室の魅力でもあるよね。 学生さん、大歓迎します♪
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講義5: “生命・生活・生産・生きる力を衛る”衛生学 |
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ところで、「衛生」という言葉には、“生命・生活・生産・生きる力を衛る”っていう意味も込められていて、環境医学(衛生学)は、“めまぐるしく変化する時代をしなやかに生き抜くため、生命・生活・生産・生きる力を衛るため、昔の人々の生活の知恵を現代の科学で証明する学問”というふうに解釈することもできるんだ。
昔の人々の生活の知恵っていうのは、健康でいるための、いわゆる、おばあちゃんの知恵袋や諺、それから、健康で人生を全うする大切さを諭してくれる格言とかのことだね。いくつか例をあげてみよう。
「薬より養生」・・・病気にかからぬよう、平素より養上をこころがけることが大切
「早寝早起き病知らず」・・・早寝早起きの習慣をつけると健康になり病気をしない
「腹八分目に医者知らず」・・腹八分目にしておけば健康でいられる、暴飲暴食の戒め
「頭寒足熱」・・・頭部を冷やし、足をあたためるのが健康によい
「青葉は目の薬」・・・新緑の青葉の色は目の疲れをかいふくさせる効き目がある
「眼はこころの窓」・・眼はひとの心のありさまをそのままに映し出す鏡のようである
・養生の要は自ら欺くことをいましめて、よくしのぶにあり。 (貝原益軒「養生訓」)
・睡眠は死から借りた行為である。睡眠は生命を維持するために、死から借りるものである。
(ショウペンハウエル「意志と表象としての世界」)
・肥満は未開人にはみられないし、食べるために働き、生きるために食べている社会層にも現れない。(ブリア・サヴァラン「味覚の生理」)
・健康を保つ唯一の方法は、食べたくないものを食べ、嫌いなものを飲み、したくないことをすることだ。
(アメリカの作家、マークトウェイン)
・魂の病は身体のそれよりも危険であり、恐ろし。(キケロ「蔵言」)
・健康は身体のコンディションの問題ではなく、心の問題である。(エディ夫人「科学と健康」)
こうした諺や格言の中には、最近になって科学的根拠が示されてきているものや、これから証明されると予測されるものもあるけれど、中には、本来の意味とは違って使われるようになったもの、文化的・宗教的・政治的な習慣などから生じたもので、科学的根拠のないものもありそうだよね。 でも、歴史的経験と事実から謙虚に学ぶこともたくさんあるはずなんだ。 だからこそ、科学的根拠のあるものとないものをしっかり分けて、根拠があるものはその根拠とともに広く普及させ、逆に、根拠のない習慣が根拠なきままに広まらないようにする。 これも、これからの環境医学(衛生学)が、疾病予防と健康増進のために取り組むべき課題と言えるんじゃないかな。 さぁ、次回からは、この研究室でon-goingな研究について、もっと詳しく紹介していくことにしようかな。
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