大阪大学大学院 医学系研究科 予防環境医学専攻 社会環境医学講座 環境医学教室  
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大阪大学
大阪大学大学院 医学系研究科
大阪大学 医学部付属病院
 
社会環境医学講座 環境医学教室 06-6879-3922,3923
 
研究内容
 
バイオマーカー研究
 

人間の健康や疾患の原因を探究することが目的の環境医学/衛生学では、疾患になった人だけでなく、健康な人に対しての研究の重要性が大きいのが特徴であると言えます。生体試料中のバイオマーカー測定は、簡便に、多くの、目には見えない、客観的な、分析しやすい情報が得られるため、環境医学/衛生学での有用な研究ツールになります。

 

@ 唾液ストレスマーカー
近年、ストレスは重要な研究課題とされてきています。唾液は、血液と違って侵襲なく採取できる生体試料であり、様々なストレスマーカーを含んでいるため有用な研究対象となります。よく測定されるのは、コルチゾール、アミラーゼ、分泌型IgAとクロモグラニンAの4項目です。コルチゾールは、副腎皮質から放出される糖質コルチコイドで、血中から移行してくる唾液中のコルチゾールの測定がストレス評価に利用されています。アミラーゼは、唾液腺から放出される酵素ですが、ストレスに起因するアドレナリンの刺激を反映します。分泌型IgAやクロモグラニンAも唾液腺由来のストレスマーカーで比較的多く研究に利用されています。4項目とも、ストレス負荷に対して、短時間で上昇するため、ストレス感受性やストレス状態からの回復の研究に利用できますが、コルチゾールは、他の3項目と比べ、反応が若干遅く、増加率が低くなります。また、クロモグラニンは肉体的なストレスより精神的なストレスに反応しやすいという報告もされていますので、検討の内容で、測定するマーカーを変えることは重要です。


  

A 口腔バイオマーカー
最近、健康の維持に口腔の健康が重要であることが理解されるにつれ、口腔も重要な研究課題となっています。歯周病は歯牙の喪失により、様々な口腔機能に影響を与えQOLを低下させるだけでなく、炎症を介して全身へ傷害をもたらします。慢性で進行のゆるやかな歯周病は、早期に発見することが容易であるために、検診が有用です。私たちは、歯肉溝(歯周ポケット)から採取した試料の検査を歯周病検診の検査として利用しています。主に利用しているマーカーが白血球成分ラクトフェリンと血漿成分α1-アンチトリプシンです。簡便な検体検査であるため、歯周病の検診の拡大に有用だと考えています。


  
 
 
ライフスタイル、遺伝感受性とゲノムDNA安定性
 

細胞核内の染色体DNAの安定性は生命体の存続には極めて重要です。
我々が研究している染色体DNAの安定性におよぼす環境の影響は、環境医学(Environmental Medicine)の主な分野の一つです。
本教室は、人間環境の変化とともに変化している様々なライフスタイル (Lifestyle)と環境変異原物質によるヒト細胞染色体DNA安定性への影響を継続的な研究しています。一方、ライフスタイル (Lifestyle) を含む環境要因の影響を受け、生体反応は遺伝感受性の影響で個人差があります。 ヒトの体を決める2万1787個の遺伝子の中で、どの遺伝子がどのように個人差に影響するのか、我々は興味を持ち、XRCC1,ALDH2 などの遺伝子をはじめ日々の研究に努力しています。同時に、環境化学物質の遺伝毒性、緑茶カテキンの染色体DNA損傷と修復についての研究も行います。

最近、東日本大震災による東京電力福島第1原子力発電所の放射能漏れ事故は、チェルノブイリ原発事故以来、史上最悪の事態とされています。現時点で、被害の拡大および長期化を想定し、人体への放射線影響について定量的に評価する取り組みをはじめています。具体的な手法としては、図のようなバイオマーカーを用いて、染色体DNA損傷および修復能の定量を行い、放射線被曝との関係について調べます。 これらの研究は、放射線による人体への影響をミクロのレベルで評価し、今後さまざまな被害を防止する上でも重要であると考えます。


 
 
こころの科学と健康
 

1.はじめに
 「こころを科学する」とは何を意味するのだろうか。
 1990年、米国ではブッシュ大統領(当時)が「脳の十年」を宣言し、脳科学研究では分子レベルからシステムレベルにいたるまでのあらゆる分野における大規模な研究推進計画が始まり、欧州諸国もこれに続いた。研究者間では、既に1980年代後半辺りから、「人間の頭脳は脳を理解できるのか」や、「人工的な計算機(コンピュータ)が脳に取って代わる事はあり得るのか」などの議論が真面目になされるようになり、1989年には養老孟司氏によるベストセラーである「唯脳論」も出版された。その一方で、「人間の知能は、生まれ持った遺伝子が決定的な要因となり得るのか、それとも生育環境による影響が大きいのか」といった議論も進んだ。我々の認知、記憶および情動のような、主として心理学領域で論じられていた事柄が、次々と脳科学研究の題材に成り得るとして再び脚光を浴びるようになった。ようやく人間の精神活動、すなわち「こころのしくみとはたらき」までもが生物学的な言語(生命科学的現象論)や物理学的な数式(生物物理学的仮説)を用いて語れる日も夢ではなくなるという期待に多くの研究者が胸を膨らませた。またさらに、人工知能、ニューラルネットワーク、神経経済学(Neuroechonomics)、神経倫理学(Neuroethics)など、脳にまつわる新たな学問分野も登場した。ようやく、「こころ」=(イコール)「脳」、「こころの病」=(イコール)「脳の疾患」といった解釈が一般に広く浸透し、科学的知見として根付いたかに見える。
 しかし、このようなことを言える筋合いにはないので単に失笑を買うだけかも知れないが、「脳の十年」を経て得られたものは何だろうかと改めて問うてみた。これも私見に過ぎないのだが、つまるところ脳は複雑な階層構造を有し、認知・記憶・思考・情動といったさまざまな情報の並列処理を驚異的にエコなエネルギー効率で実現しているという事実を、最先端の技術を以て確認できたに過ぎないような気がする。「こころ」を生み出す「脳」のしくみについては未だ大部分がブラックボックスのままであり、解明すべき真実は今後の研究の進展に委ねるほかはない。
 ところで、よく考えてみれば「こころ」が「心臓」の場所に無いということについては、とうの昔から我々も知っていたはずである。要するに、「こころ」はどこにあるのか?の問いかけに対し、「脳」にあるという客観的事実を、我々は素直に受け入れる用意が整っていなかっただけではなかろうか。ならば我々は、ここへ来てようやく科学的な眼を養うことができて、それと引き替えに「こころ」は「脳」といういわば臓器における営みに過ぎないのだという、きわめて現実的かつ現時点で分かっている限りの科学的事実に納得を余儀なくされてしまったのかも知れない。
 科学とは自然界のあらゆる現象に普遍性を見出すものである。そして科学は、我々の生き方や個々の価値観を育む豊かな人間性や寛容の精神などとは必ずしも相容れない。前置きが長くなってしまったが、「こころを科学する」という命題は永遠のテーマとするにふさわしいと感じているが、現時点で幾つかの矛盾を包含している。そして、実現可能性について言えば、例えば、地球外スペース(宇宙)に人間を住まわせることよりもはるかに難しいことのように思える。「こころの健康」を守る予防医学的観点からは、こうした昨今の科学的偏重傾向をしっかりと見極めながら、新たな健康観や豊かなこころの維持・育成に向けた取り組みをめざして行きたい。



2.現在進行中の研究プロジェクト
*「眼はこころの窓」:眼球運動計測を用いた非侵襲的脳機能評価法についての研究
 昔から「眼は口程(くちほど)にモノを言い」などとも言われ、眼差しの外観はその時の心理・生理状態を顕著に表している。さらに、ヒトの脳の約3分の2は視覚情報処理とそれに伴う眼球運動を制御するために使われているとしても過言ではない。また、霊長類(サルなど)を用いた神経生理学的研究の成果により、眼球運動の発現と制御に関わる脳内神経回路の解明は格段に進んでいる。こうした背景にもとづき、本研究のねらいは、跳躍性(サッカード)眼球運動を行っている際の反応性の違いを利用して脳機能障害の病態評価を試みようとするものである。これまで客観的な病態評価が難しいことから、障害の程度や治療効果の判定に寄与する定量的な生体指標(バイオマーカー)を確立する必要性が高まりつつあるさまざまな精神疾患(うつ、統合失調症、強迫性障害、PTSDなど)を対象として、高精度(サンプリング周波数 > 1kHz)眼球運動計測を行い、反応時間・角速度・運動軌跡・瞳孔径・エラー発生率など種々のパラメータを用いた統計学的解析を行い、定型群(健常群)との違いを明らかにして行きたい。現在までに、大阪大学附属子どものこころの分子統御機構研究センターの協力のもと、広汎性発達障害(ADHD、自閉症、アスペルガー症候群など)を対象に行った研究では、視覚呈示に伴う順行性サッカード運動発現の際に認められた異常が、投薬治療や症状改善に伴って消失することが明らかになるなど、興味深い研究成果を得ている(第33回日本神経科学会大会にて発表:Neuroscience Research, vol.68, 2010参照)。




*「公平感(損得勘定)にともなう脳活動および機能局在に関する研究(共同研究)」
  NIRS: near infra-red spectroscopy(近赤外光分光法)の原理を用いた局所脳血流量変化の多チャンネル同時計測をもとに、社会経済活動の基本となる公平感(損得勘定)に関連する脳機能局在を調べ、さまざまな条件下での脳活動の変化を定量化する。本研究は、大阪大学社会経済研究所と共同で進めており、社会行動の原動力ともいえる人間の公平感を考慮せずして今日の市場経済は健全化しなくなってきているという現状に鑑み、より豊かで公平な社会の実現をめざすものである。

 

3.現在検討中の研究テーマ
*「こころを癒す技法とは(?)」(平成23年度 環境医学実習課題)
 よく耳にする言葉で「医療は人のためにあり人体のためにあるのではない」というのがある。そこで、改めて医療人としての資質は何であるかを問うならば、「苦しんでいる人を前にして自分はいかにお人好しでいられるか(福澤諭吉)」というような、個人の心性の部分に占める割り合いが重要であるように感じる。  従って、緩和医療の現場やデイケア施設の訪問を通じて、様々な患者とその家族が真に求めている医療とは何かを考え、模索するというのが本研究のねらいである。患者とともに、「生きていることの価値や喜びを再認識する」こと、それこそは「死生観」が希薄になりつつある現代人のこころを癒し、勇気づけてくれるものと思われる。たとえ疾患に対する専門知識を欠いていようと、また治療経験や話術に長けるという者でなくとも、一人の医療者として患者に真正面から向き合い、真に心を通わせることができれば、少なからず患者の魂を癒すことができるはず・・・。そこには、特別の技法(テクニック)など存在しないが、生と死の境にある普遍の法則(ルール)が見えてくるように思う。

* 非侵襲脳機能計測技術の応用に関する研究
  これまでに行ってきたあらゆる脳機能画像(イメージング)および計測技術を、脳活動や疾患の病態評価に応用する手法を確立するための研究である。脳科学分野での研究成果を生かしたメンタルヘルス領域での研究活動を模索している。機能的磁気共鳴画像(fMRI)をはじめ、PET(陽電子放出断層画像)による受容体または分子(リガンド)イメージング、近赤外光脳機能計測(fNIRS)、経頭蓋的磁気刺激法などの原理と使い方に習熟していることから、各々の利点を最大限に生かす計測手法により、精神疾患を中心とするさまざまな病態を客観的に評価できるバイオマーカーの開発と3次予防(再発予防、リハビリテーションなど)を念頭においた架橋的研究プロジェクトへの展開を検討している。

 
 
睡眠と健康(睡眠健康医学)
 

 現代社会では、睡眠障害に悩む人は多くいて、睡眠障害対策は重要な社会的課題になってきています。しかし、交替性勤務・24時間型社会・ストレス社会などの睡眠障害を誘う可能性のある社会的要因も、増えてきています。睡眠に関する問題の社会的重要性は、増大しつつあるといえるでしょう。 私は、重要なライフスタイルの要因である睡眠と、その健康影響への評価に関して、データの収集・分析に取り組み、「よく眠ることは、個人の健康につながり、さらには社会の健康水準の向上につながるのか」に関して、研究に取り組んでいます。


@ 睡眠の質(ピッツバーグ睡眠質問調査票による)と、ライフスタイル・健康指標(定期健康診断時のデータなど)に関する、継続的調査を某事業所のご協力をいただいて、解析しています。

A 認知症がある人ライフスタイル・活動性/睡眠のリズムに関し、アクチグラフ(睡眠・活動の精密・持続的計測センサー)で計測して、データの分析に取り組んでいます。

 
 
住環境と健康 (シックハウス症候群の疫学調査)
 

 近年、住宅などの室内空気が汚染されること等により、目、鼻、のど等への刺激、頭痛等の多様な症状が生じる、いわゆる「シックハウス症候群」が大きな問題となっています。シックハウス症候群の症状・住まい方・ライフスタイル・住居要因などに関する調査を行い、シックハウス症候群の発症・症状の増悪に関連する要因を探っています。


@ 全国規模でシックハウス症候群の症状・住まい方・ライフスタイル・住居要因などに関する疫学調査を行い(厚生労働科学研究)、これらの関連性の解析から、シックハウス症候群の発症・症状の増悪に関連する要因を探っています。

A 転居前後の症状・住まい方・ライフスタイル・住居要因などに関する調査を行い (林野庁 平成22年度地域材利用加速化支援事業 地域材実用化促進対策事業(室内化学物質の健康への影響検証))これらの関連性の解析から、シックハウス症候群の発症・症状の増悪に関連する要因を探っています。

 
 

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