下部消化管・炎症性腸疾患

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炎症性腸疾患

1.疾患

 潰瘍性大腸炎、クローン病に代表される炎症性腸疾患は腸管内の免疫制御機構の破綻により発症する難治性の疾患です。 10-20歳代の若年層に好発し、本邦でもその罹患率は増加傾向にあります。

2.診断

 潰瘍性大腸炎の症状は、最初は便がだんだんゆるくなり、次第に出血を伴うようになってきます。やがては、痙攣性の腹痛と頻回の排便をもよおすようになります。下痢は徐々にあるいは全く突然に始まることもあります。症状が重くなると、発熱、体重減少、貧血などの全身への症状が起こります。また、腸管以外の合併症として皮膚病変、眼病変や関節の痛み、子供では成長障害が起こることもあります。潰瘍性大腸炎の患者さんの大腸粘膜は、軽い場合では粘膜の血管が見えなくなり、病気が進むと粘膜は赤くただれ、粘液の付着が増え、更に進むと、粘膜が剥げてびらんというただれや潰瘍が一面に出来てきます。

潰瘍性大腸炎の患者さんの大腸内視鏡写真:軽症例(左図)、重症例(右図)

 一方、クローン病の症状は患者さんによって非常に多彩で、侵された病変部位(小腸型、小腸・大腸型、大腸型)によっても異なります。その中でも特徴的な症状は腹痛と下痢で、半数以上の患者さんでみられます。さらに発熱、下血、腹部腫瘤、体重減少、全身倦怠感、貧血などの症状もしばしば現れます。またクローン病は瘻孔、狭窄、膿瘍などの腸管の合併症や関節炎、虹彩炎、結節性紅斑、肛門部病変などの腸管外の合併症も多く、これらの有無により様々な症状を呈します。

クローン病の患者さんの大腸内視鏡写真(左図)クローン病の患者さんの小腸造影写真(右図):回腸に縦走潰瘍(矢印)を認める。

3.治療

 治療の基本は、内科的治療で薬物療法や栄養療法・食事療法で多くの患者さんは寛解導入と寛解維持が可能です。しかし、劇症例、度重なる再燃例、腸管合併症例や癌化例では、外科的治療が必要となります。

 潰瘍性大腸炎に対する外科的治療はileal pouch anal canal anastomosis (IPAA)が標準術式としてほぼ確立し、合併症対策なども普及しつつあります。クローン病に対しては腸管温存を目的としたstricture plastyにより、切除に劣らぬ良好な治療成績が得られています。
 従来これらの手術は、おなかを大きく切って行われていました(開腹手術)。当科では潰瘍性大腸炎、クローン病いずれに対してもおなかを大きく切らない手術(腹腔鏡手術)の適応を拡大しつつあります。

潰瘍性大腸炎に対する腹腔鏡補助下手術:臍下の小開腹創(左図)から左手を挿入し、腹腔鏡下に手術を行います(中図)
切除する大腸は臍下の小開腹創から体外に取り出します(右図)

 私たちのグループでは1970年代からクローン病の外科的治療に取り組んでおり、これまでにのべ200名以上のクローン病患者さんに対し手術を行いました。手術を余儀なくされるような重症のクローン病では、術後も再燃率が高く、70%以上が4-9ヶ月の早期に残存小腸病変の再燃を来たします。その結果、再度手術を必要とすることも多く、累積再手術率は5年で16-38%、10年で26-61%と高率です(厚生省特定疾患難治性炎症性腸管障害調査研究班)。従って外科的治療を行う際にも、術後の再燃、再手術の予防が重要となります。
 当科では術後にも栄養療法を併用することによりクローン病の再燃、再発予防に良好な成績をあげています。

累積寛解率(左上図):術後どれくらいの期間病変が再燃することなく過ごせたかを示します。術後栄養療法を行ったグループでは術後5年目で63.1%が寛解を維持できているのに対し、術後栄養療法を行っていないグループでは術後5年目で寛解維持できているのは29.6%です。
累積非再入院率(右上図):術後どれくらいの期間再入院することなく過ごせたかを示します。術後栄養療法を行ったグループでは術後5年目の時点で70.2%が再入院することなく過ごせているのに対し、術後栄養療法を行っていないグループでは術後5年目の時点で再入院せず過ごせているのは35.6%です。
累積非再手術率(左下図):術後どれくらいの期間再手術することなく過ごせたかを示します。術後栄養療法を行ったグループでは術後5年目の時点で77.9%が再手術することなく過ごせているのに対し、術後栄養療法を行っていないグループでは65.8%です。
当科では、クローン病は術後の再燃、再手術の予防を念頭において治療することが重要と考えています。

4.取り組み

 臨床面では、難治性皮膚瘻に対する新規治療法として、自己の脂肪組織から取り出した細胞を用いた組織再生医療の実施準備を進めています。  具体的には、これまで大きな手術をしないと治療が難しかった難治性皮膚瘻に対して、美容外科で脂肪吸引として行われているのと同様の方法で得られる脂肪組織から取り出した細胞を生体糊といっしょに注入することにより、組織を再生させるという治療法です。

 研究面では、手術検体や種々のモデルマウスを使った実験により炎症性腸疾患のメカニズム解明、新規治療法の開発に取り組んでいます。
 腸管は消化吸収臓器のみならず免疫臓器としても生体内で重要な位置を占めており、そのために働く種々の細胞の役割、相互作用のメカニズムが新たに明らかになってきています。腸管内での免疫機構は全身の免疫機構とは異なり、侵入してくる病原体に対しては感染防御機構として働き、食物抗原に対しては免疫寛容機構が働いてアレルギー反応を抑制しています。これらの反応は腸管特有の細胞群によって制御されていると考えられています。
 当科では、IL-10遺伝子欠損マウスを用い、種々の新規治療法による効果、腸管内免疫制御機構の変化などの解析を行っています。

クローン病における腸管粘膜免疫の異常(左上図):クローン病の患者さんでは、通常私たちの体内では免疫反応を惹起しない食餌抗原や腸内細菌による刺激が腸管粘膜固有層において、Tリンパ球をTh1型に分化誘導します。Th1リンパ球の産生するIFN-γにより活性化されるマクロファージから分泌されるTNF-αなどのサイトカインにより粘膜障害を来たし、さらに粘膜固有層に対する抗原刺激が増大することにより慢性炎症の遷延を来たすと考えられています。
IL-10遺伝子欠損マウス(右上図):I L-10遺伝子欠損マウスはクローン病類似の慢性腸炎を自然発症するモデルマウスであり、加齢に伴い下痢、体重増加不良、脱肛などの臨床症状を呈します。
IL-10遺伝子欠損マウスに対する新規免疫調整剤の効果:悪性腫瘍、日和見感染、他臓器機能障害などの危険の少ない新規免疫調整剤Everolimus投与により、IL-10遺伝子欠損マウスの慢性腸炎は、肉眼的(左下図)、組織学的(右下図)に軽快しました。

5.関連情報

難病情報センター (潰瘍性大腸炎クローン病
医療情報サービス Minds(マインズ) (潰瘍性大腸炎)
特定非営利活動法人日本炎症性腸疾患協会

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