肝胆膵 肝移植

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肝移植

 近年の日本における肝移植の発展はめざましく、かつては小児患者のみしか施行し得なかった生体部分肝移植手術も成人患者へと応用され、その対象疾患も、代謝性・ 先天性肝疾患にくわえウイルス性肝硬変、肝細胞がんへとその適応が拡大されてきました。

 大阪大学 消化器外科では、肝胆膵・移植グループ(消化器外科ホームページスタッフ紹介参照、准教授:江口英利、助教:後藤邦仁、和田浩志、浅岡忠史、野田剛広、山田大作)が、肝移植診療に積極的に取り組み、院内各診療科(消化器内科、小児科、麻酔科、放射線科、救命救急センター、集中治療部、病理部)などと密に連携をとり、診断・手術・術後外来に至るまで、その診療を担当しております。長年にわたる肝胆膵外科での豊富な手術経験が肝移植医療にも十二分に生かされ、術後合併症の非常に少ない施設でもあります。

 また、大阪大学は、平成12年5月より脳死肝移植認定施設に認定されています。さらに、日本肝移植研究会(Japanese liver transplantation society, http://jlts.umin.ac.jp)の事務局も大阪大学・消化器外科内に設置されており、診療のみならず研究を含めた移植医療全般において、大阪のみならず本邦の中心的役割を担う施設の一つでもあります。

 本項においては、大阪大学における肝移植医療について、その疾患、治療、現在の取り組みについて述べるとともに、連絡方法などについても簡単に示します。

1.疾患

肝臓

 肝臓は身体の中で最大の臓器で、健康な人の肝臓の重さは体重の約1/50、成人で約1.3kgあります。肝臓は、蛋白、脂肪、糖、ビタミンなどの代謝、不要になった物質の解毒、また、胆汁を作って腸に分泌し食物の消化吸収を助けます。このように肝臓には複雑な機能が数多くあるため、その機能を人工的に置き換えることは現在の科学をもってしても不可能だと考えられています。肝臓の機能が大幅に低下すると、体内の代謝のバランスが崩れ、食欲不振、易疲労感、黄疸などが出現します。また、肝臓が固く変化し、肝臓への血液が流れにくくなるため(門脈圧亢進症)、腹水(お腹に水がたまる)、食道静脈瘤からの出血(吐血、下血)、脾腫(脾臓がはれること)による赤血球、白血球、血小板の減少、貧血、易感染性、出血傾向などの症状が出現します

肝移植を必要とする疾患

 肝移植は、肝機能が悪くなったために、上記の症状(黄疸、腹水、門脈圧亢進症、食道静脈瘤からの出血、脾腫)が出現し、進行性、不可逆性になると死に至る状況に陥ります。そのような状況になった場合、もはや肝移植をおこなうことで悪くなった肝臓を新しい肝臓と入れ替えてあげること以外、命を助けてあげることができません。このような肝臓の病気をしめします(表1)。ただし、患者さんの状態(肝移植の禁忌状態)によっては残念ながら適応から外れることがあります(表2)。

2.治療

肝移植とは?

 肝移植には、脳死者から肝臓の提供を受ける「死体肝移植(図1)」と、健康な成人から肝臓の一部の提供を受ける「生体部分肝移植(図2)」があります。欧米では、死体(脳死)肝移植がその主流ですが、脳死者からの臓器提供の極度に少ない日本では、生体部分肝移植が治療の中心的役割を果たします。

図1:脳死肝移植

図2:生体部分肝移植

 また、肝移植の手術方法は大きく2つに分けられます。もとの肝臓を取り去り、そこに新しい肝臓を移植する同所性肝移植と、もとの肝臓はそのままにして、新しい肝臓を別の場所に移植する異所性肝移植もあります。現在、世界で広く行われているのは同所性肝移植です。この方法では肝動脈と、腸から肝臓に流れ込む門脈、さらに肝臓から血液の出ていく肝静脈を吻合します。さらに、肝臓でつくられる胆汁の通り道である胆管の吻合を行います。通常、胆管と胆管の吻合をおこないますが、胆管と腸管との吻合をおこなうこともあります。
 平均手術時間は生体部分肝移植では平均すると約12時間で、術前の状態によっては、早いときには8時間、遅いときには24時間以上かかることもあります。肝障害により止血機能が悪いため出血量が多く、高度な麻酔技術が必要となります。大量に出血することがあるので、前もって多くの血液を用意する必要もあります。

肝移植術後の経過

 移植後は、全身状態が落ち着くまで集中治療室(ICU)で回復を待ちます。手術後数日間(状態のよってはもっと長いこともあります)、人工呼吸器による呼吸管理が必要となります。人工呼吸器で呼吸管理をする間はお薬で眠っていただきますが、呼吸循環機能が安定し、移植肝が働きはじめると薬による鎮静を中止し、気管内挿管チューブを抜去し(抜管)人工呼吸器を取り外します。
 術後は、動脈圧、心電図を連続的に測定するためのいろいろな回路や線が体についています。腹腔内には出血や貯留液を排出させるためのドレーン(チューブ)が挿入されています。尿や胆汁を体外に誘導するために、尿道カテーテル(膀胱内に留置するチューブ)や、胆管チューブ(胆汁を体外にだすチューブ)も挿入されています。胆管チューブを除いて、ドレーンは術後数日から約10日で抜去しますが、合併症など術後の状態によっては抜去の時期が遅くなったりします。また、しばしば再開腹手術が必要なこともあります。移植後肝臓が充分に働かなければ、血漿交換などの肝臓の補助的治療が必要になる場合も出てきますし、まれではありますが再移植が必要になる場合もあります。
 また、肝移植は、一般の消化器の手術に比べ複雑な手術で、肝機能も日々変動するため、採血、レントゲン撮影などの検査も多く、また経皮的肝生検(肝臓の組織の顕微鏡検査)によって移植した肝臓の状態を確認するために、必要に応じて行います。
 手術後は、腸などの消化管が動き出すまでは経口摂取ができませんので、静脈カテーテルや鼻から小腸へ留置された栄養チューブより水分や電解質、栄養が補給されます。一般に術後4~7日目頃より、消化管の働きが回復し食事摂取が可能となります。順調にいけば、移植後1~2カ月程度で退院となります。

肝移植の症例数と成績

 日本での脳死肝移植は、臓器移植法が施行されてから現在(2014年4月1日)までに、183例の移植が行われています。その結果は、欧米に比しても十分に良好な成績が収められています。2010年7月の改正臓器移植法案が施行されて、より多くの脳死臓器移植が行われるようになりました。しかしそれでもなお、脳死肝移植希望登録者に対し、提供数が極めて低い現状にあります。
 生体肝移植は、すでにわが国では6500例以上行われ、日本での肝移植医療の主流となりますが、その成績は、欧米での脳死肝移植の成績とほぼ同等です。また、タクロリムス(プログラフ、グラセプター)、シクロスポリン(ネオーラル)などの免疫抑制剤の登場により、拒絶反応の頻度も減少してきています。
 ただし、移植を受ける前の状態も重要で、肝不全が非常に進行し、腎不全などの合併症が重症化すると、肝移植を施行しても術後の生存率がやや悪くなりますので、「肝移植が必要な状態である」と診断されれば、なるべく早く移植を受けた方が良いと考えられています。
 大阪大学では、2014年4月1日までに211例の生体部分肝移植と18例の脳死肝移植を行ってまいりました。その中で、成人症例の原因疾患はウイルスウイルス性肝硬変、肝細胞がんが最も多く自己免疫・炎症性肝疾患が続き(図3)、成人生体肝移植は年々症例数が増加しており(図4)、移植後生存率は3年で約80%で(図5)、生体肝移植・脳死肝移植ともに良好な成績をおさめております。

図3:成人肝移植レシピエントの原因疾患

図4:大阪大学肝移植症例数の年次推移

図5:成人肝移植術後生存率

術後合併症

 肝移植の成績は徐々に向上してきていますが、だからといって100%安全な治療手段ではありません。自分の臓器ではない非自己の肝臓が移植されて体内に存在することより、かならず拒絶反応が誘起されますので、手術の後「一生涯」免疫抑制剤を服用し続けなければなりません。そのための感染症や仮に免疫抑制剤を服用していても、未だ原因が十分に解明されていないために予期せぬ拒絶反応が起こることもあります。また、術後早期には、肝移植手術において、つないだ血管や胆管に問題がないか、出血がないか、移植した肝臓がうまく機能するのかなどがポイントになります。さらに、術後1週間目ぐらいからは拒絶反応と種々の感染症に対する警戒が必要です。
 先ほど述べましたように、肝移植の術後は、感染症や拒絶反応には十二分に注意しないといけません。感染症は、免疫抑制剤の投与によって免疫能が低下するため起こります。すなわち、免疫抑制剤を投与すると拒絶反応は抑制されますが、細菌やウイルスに対する免疫能の低下も起こるため、感染症が増えてきます。逆に、免疫抑制剤を少なくすると感染症は減りますが、拒絶反応の危険性が高くなります。そこで、拒絶反応と感染症予防の間でうまくバランスをとるように管理してゆく事が大事になります。
退院した後も、免疫抑制剤の投与による感染症にかかりやすい状態(易感染性)がしばらく続きますので、移植後1年間は2週間に1回の外来通院によるコントロールが必要です。

再手術および再移植

 術後の腹腔内出血や、吻合した血管が閉塞したり、吻合した胆管がうまく癒合しなかったり、あるいは膿瘍が発生した場合などに、再開腹術が必要となることがあります。また、移植手術には特に問題が無くても、直後から肝臓がうまく働かず、出血傾向・黄疸などの様々な障害が発生することがあります。このような合併症に対しては、もう一度肝移植をする以外に助からないこともあります。

拒絶反応

 仮に親族であっても、他の人(非自己)の臓器を移植した場合、人間の体は移植された臓器を異物と認識して自分の体から排除しようとします。この反応が拒絶反応です。拒絶反応を抑えるために、術直後よりタクロリムス(プログラフ、グラセプタ)、サイクロスポリン(サンディミュン、ネオーラル)、 MMF(セルセプト)、ステロイド(プレドニゾロン、メドロール)等の免疫抑制剤を投与します。しかし、これらの薬剤を投与していても、術後1~2週目に約30%の方に急性拒絶反応が現れます。風邪に類似した症状(発熱、全身倦怠感)とともに上腹部痛が出現することもあります。肝機能検査ではビリルビン値、肝酵素、アルカリフォスファターゼ値の上昇が見られます。これらの症状は拒絶反応の時にだけに起こるとは限らず、他の病気でも起こってきます。吻合血管の閉塞、胆管の縫合不全、ウイルス感染、薬剤性の肝障害などがないか診断する必要があります。そのために超音波診断、CT、胆管チューブ造影などの画像診断とともに、肝臓を直接穿刺し肝組織を顕微鏡で調べるために肝生検が必要となります。拒絶反応が現れても、ステロイドなどの投与によって、約90%が治療できます。急性拒絶反応は多くは移植後3カ月以内に起こりますが、移植後1年以上たってからも現れることもあります。

免疫抑制剤の副作用

 免疫抑制剤にはいろいろな副作用があります。精神障害、満月様顔貌、高血圧、腎機能低下、糖尿病、肝機能の低下、骨が弱くなる、がんの発生率が高くなるなどがあげられます。最も困った副作用は免疫能が低下し細菌、真菌あるいはウイルス等の感染症にかかりやすくなることです。
 副作用が出れば拒絶反応のあらわれない範囲で投与量を減量しますが、一旦感染症がおこると健康な方に比べて重症化しやすいので、抗生物質や抗ウイルス剤、抗真菌剤(カビに対する薬)等の薬剤による治療が必要です。これらの感染症は移植してから1年以内に起こることが多いのですが、1年以上経過しても起こる場合があるので注意を必要します。拒絶反応を抑制し、感染症を起こさない適度の免疫抑制剤の投与が生涯必要ですので、肝機能や合併症の有無を把握するために定期的に検査を受けていただきます。また、御自分で体の調子についていつも注意していただき、異常があればすぐ連絡していただくこと(退院時に連絡先などについてはご説明致します)が、早期に治療を開始する上で大切です。

費用

 2004年1月の法改正以後、肝移植の保険適応が拡大されました。以前は15歳以下の小児、成人では進行性胆汁うっ滞症(原発性胆汁性肝硬変、硬化性胆管炎など)、代謝性肝疾患、バアドキアリー症候群に限られていたものが、成人の非代償性肝硬変を含め多くが保険適応となりました。ドナーの費用はレシピエントに請求され、レシピエントの保険が適用されます。具体的には以下の通りです。
 「対象疾患は、先天性胆道閉鎖症、進行性肝内胆汁うっ滞症(原発性胆汁性肝硬変と原発性硬化性胆管炎を含む)、アラジール症候群、バッドキアリー症候群、先天性代謝性肝疾患(家族性アミロイドポリニューロパチーを含む。)、多発嚢胞肝、カロリ病、肝硬変(非代償期)及び劇症肝炎(ウイルス性、自己免疫性、薬剤性、成因不明を含む。)である。なお、肝硬変に肝細胞がんを合併している場合には、遠隔転移と血管侵襲を認めないもので、肝内に径5cm以下1個、又は径3cm以下3個以内が存在する場合に限る。」(保医発第1215001号)
 保険適応外の場合(自費)の自己負担分は、おおよそ約500万円から1500万円です。ただし、病状によって血液透析、血漿交換などの高額医療や長期の集中治療が必要な場合にはそれ以上かかる事があります。

生体部分肝移植 肝提供者について

①提供者の条件

生体肝移植は、健康な方の肝臓の一部を提供して頂き、レシピエントの方に移植する治療法です。肝臓の提供は、肝切除という手術が必要となります。100%安全にできる保証はありません。従って、必要な条件がすべて整った場合にのみ肝臓の提供が可能となります。以下に述べる3点が重要ですが、詳しくは日本移植学会生体肝移植ガイドライン(http://www.asas.or.jp/jst/news_top.html)をご参照ください。

■自発性 肝臓の提供は、手術を必要とするため入院中や退院後も合併症が起きる可能性があります。まず、誰からも強制されずに御自分の気持ちで提供したいと思っていらっしゃるかどうかが大事です。御自分の体の一部分が、家族または血縁の体の中で、その方の命を助ける事はすばらしい事ですが、自分の気持ち以外の何かに強制されて行う事ではありませんし、臓器の提供だけが愛情の表現でもありません。まず、心の中で自分自身とだけ向き合ってドナーとになりたいかどうか良く考えてください。
■続柄 生体肝移植では、肝臓の提供が可能なドナーの条件は、原則として20歳以上65歳未満の3親等以内の血族(両親、祖父母、曾祖父母、子、孫、曾孫、兄弟姉妹、伯父(叔父)、伯母(叔母)、甥、姪)あるいは配偶者としています。
■正常な肝臓 肝臓の提供者となるためには、正常な肝臓の持ち主であること(ウイルス性肝炎・脂肪肝や他の肝臓病が無いこと)、肝臓を部分的に切除し移植することによって移植患者が救える可能性が高いこと(提供できる肝臓の大きさや血管の異常など)が実施に必要な条件となります。このために、血液検査や超音波検査、 CT、MRI等の検査を行います。次に、安全に肝切除が出来るかどうか全身の検査を行い、貧血、心血管系の疾患や呼吸器疾患などの病気が無く安全に肝臓の部分切除ができることを確かめます。血液型は、一致または輸血が可能な組み合わせが望ましいですが、不適合の場合にも移植可能な事もあります(血液型不適合肝移植)。

②提供者の危険性

 提供のための肝切除術は、肝左葉外側区域切除、肝左葉切除、肝右葉切除、肝後区域切除です。肝左葉切除、肝右葉切除、肝後区域切除の場合は、丁度、肝切除線の上に胆嚢が重なるために、胆嚢も摘出します。しかし、胆嚢が切除されても、機能的にはほとんど問題はありません。また、肝臓は仮に60%切除されたとしても、1~3カ月後には残りの部分が再生し、約1年後には元の大きさにもどり、機能的には十分に再生すると考えられています。次に、手術のときは、500~1500ml程度の出血が予想されますが、手術前に予め貯血しておいたご自身の血液を手術後輸血することで、対処できるものと思われます。これ以上の出血がある場合は他人からの輸血が必要になるかもしれませんが、現在では輸血によっておこる感染症については検査されていますが、それでも肝炎やHIV 等の危険がまったくないとはいえません。ただし、我々の施設では、今まで必要としたことは1例もありません。肝切除後の合併症としては、術後の出血、胆汁瘻、腸管の癒着、創感染などがありますが、数週間の処置により、治癒する場合がほとんどです。最後に、残念ながらわが国でこれまで施行された5000例以上の臓器提供者の肝切除において、死亡した症例が1例だけあります。二度とこういうことが発生しないように、細心の注意を払うことが必要になります。

③肝提供者の入院期間・費用

■入院期間 入院は、通常手術の数日前です。術後は、合併症がなければ手術後10日から2週間で退院が可能となります。合併症が出た場合は、治療に応じて延長することがあります。復職は、早い方で術後1ヶ月くらいから、重労働の場合には2から3ヶ月の休職が必要です。
■費用 この治療法に関してドナーの医療費は、レシピエントに請求されます。但し、肝移植ができなかった場合の検査費用は、ドナーの負担となります。

3.取り組み

 現在、肝移植に関して複数の臨床研究・臨床試験に取り組んでおります (こちら)。 また、その成果については、国内外において高い評価を得ており、数多くの英文論文を発表し、移植医療に発展に貢献しております。

肝移植に関するご相談・お問い合わせ

【患者さんへ】

 肝移植に関してわからないこと、知りたいことがあれば、下記あてにお電話にて、ご遠慮なくお問い合わせください(午前9時~午後5時)。 肝移植担当・移植コーディネーターもしくは担当医(肝胆膵・移植)が対応させていただきます。 また、肝移植に関するパンフレットも準備しておりますので、ご参考にしてください(図6)。

図6:患者さんへのパンフレット

1.大阪大学大学院 消化器外科学 直通:06-6879-3251
2.大阪大学附属病院 代表:06-6879-5500
3.大阪大学附属病院・移植医療部 直通:06-6879-5053

【患者さんのご紹介方法】

 大阪大学附属病院・地域医療ネットワーク(直通:06-6879-5080)にお問い合わせください。 また何か質問などございましたら、上記連絡先(1.2.3.)まで、ご連絡ください。 肝移植担当・移植コーディネーターもしくは担当医(肝胆膵・移植)が対応させていただきます。

 

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