肝胆膵 膵臓癌

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膵臓癌

1.疾患

膵臓とは

 膵臓は上腹部の深い部位に位置する、横幅約15cm、高さ約3cm、厚さ約2cm、重量60~100グラムの臓器です(図1)。体の右側から順に膵頭部、膵体部、膵尾部と呼ばれますが、それぞれは明確に分かれているわけではありません。膵臓は膵液を分泌する外分泌腺細胞が大部分を占め、その他にインスリンなどのホルモンを分泌する内分泌細胞の小さな細胞のかたまり(ランゲルハンス島と呼びます)が全体にちりばめられたように存在しています。

図1

膵臓がんとは

 膵臓がんは、がんの中でも治りにくいがん(難治がん)の代表です。したがって、同じ消化器がんである胃がんや大腸がんなどと異なり、1年間における発生率と死亡率はほぼ同じで、胃がんや大腸がんに比べ発生率はかなり低いにもかかわらず、我が国のがんによる死亡原因の第5位を示しています。難治がんである原因として、膵臓がんには特徴的な初発症状がないために膵臓がんと診断された時には大半が高度の進行がんであることが多く、6割から7割は既にがんが膵臓の周囲の重要臓器に広がっていたり肝臓などの他臓器に転移したりして外科手術の適応にならないことや、たとえ切除可能であっても早期に再発を生じることが多いことが挙げられます。

膵臓がんの症状

 膵臓がんには特徴的な初発症状が無いのが特徴です。膵臓がんの症状は、その病巣の占拠部位により症状が異なります。膵頭部がんの主症状は上腹部痛、背部痛、黄疸です。他に食思不振、全身倦怠感、心窩部不快感、腹部膨満、体重減少など一般的な消化器症状があります。がんが大きくなると上腹部に腫瘤を触知するようになり、十二指腸の閉塞症状や消化管出血を来すことも稀ではなく、また、胆管が完全に閉塞すると黄疸が生じ糞便は白色便となります。一方、膵体部、尾部のがん(膵体尾部がん)では、膵頭部がんと比べ解剖学的に胆管系に影響が及びにくいので黄疸が出現しにくく、発見が遅くなり切除不能例で診断される場合も多く見られます。病気が進行しますと、膵頭部がんと同じように膵体尾部がんでも上腹部痛や腰背部痛が症状として現れます。この他に共通した症状として、体重減少、腹部膨満、便秘、下痢などがあります。これらの症状の場合は、胃や大腸などの病気を疑われて消化管の検査だけが行われることが多く、膵臓がんが見逃される場合があります。しかしながら膵臓がんのことを念頭にして詳しい検査をすると膵臓がんが発見される場合も多くあります。同様に、腰背部痛が症状の場合は、整形外科を受診することが多く、消化器の検査を行わずに膵がんが見逃される場合もあります。頑固な腰背部痛が続き、原因がはっきりしない場合は、膵臓がんを念頭に入れた検査を行う必要があります。
 膵臓は糖尿病に関係するインスリンというホルモンを分泌している臓器なので、消化器の症状と関係なく急な糖尿病の悪化などの症状があり、詳しく検査すると膵臓がんが見つかることもあります。急に糖尿病の症状が出現したり、糖尿病であってもそれまで良かった血糖のコントロールが悪くなった場合は、膵臓の検査をした方が良い場合があります。

2.診断

 膵臓がんを疑った場合、通常、血液検査として腫瘍マーカーの測定を、また画像検査として腹部超音波検査、腹部CT(コンピュータX線断層撮影、図2A、B)、腹部MRI(磁気共鳴画像、図3)などを行います。これらの検査は、ほとんど身体に負担無く行えますが、早期の膵臓がんを見つけることは困難な場合が多いです。腫瘍マーカーとして、CA19-9、CEA、Dupan-2、エラスターゼ1、SLX等が測定されます。ただし胆嚢炎や膵炎など他の病気でもこれらの測定値が異常値となることがあり、画像診断で膵がんが見つからない事もあります。逆に、画像診断で膵臓がんが疑われても腫瘍マーカーが異常値を示さない場合があります。

図2:A、B

図3

 最近では、PET(ポジトロン断層撮影、図4)も行い、膵臓がんがあるかどうか検査します。もしPETで異常が認められれば、CT等の画像診断や腫瘍マーカーでの異常が認められなくともがんが存在する可能性が高いと考えられますが、がんでなくてもPETで異常を認める場合もあり慎重な判断を要します。逆に、明らかに膵臓がんがあってもPETで異常として検出されない場合もあります。また、現在のところPETで異常が認められるにはある程度の大きさ(直径1cmくらい)が必要で、早期のがんの診断は難しいのが実情です。

図4

 膵臓がんの確定診断を行うためには、ERCP(内視鏡的逆行性膵管造影、図5)を行い、膵内の膵管に直接細いチューブを挿入し、膵臓がんによって生じる膵管の変化を調べます。また、その際に膵液を採取し、がん細胞があるかどうかを検査します。膵液中にがん細胞が見つかれば膵臓がんと確定診断ができます。別の方法として、先端に超音波プローブと細胞採取用の針がついた内視鏡を用いてEUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法、図6)という検査を行い、病変部位の細胞を採取し顕微鏡で診断する方法もあります。しかし、これらの検査を行っても、膵臓がんがあるにもかかわらず細胞が採取できない場合や、細胞が採取できていても膵がんの確定診断が行えない場合もあります。そのような場合、画像検査等で限りなく膵臓がんを疑う場合は、開腹して直接膵臓を調べて組織を採取する場合もありますし、時間をおいて他の腫瘍マーカーや画像検査を組み合わせながら再度検査を行うこともあります。
 こうした膵臓がんの診断プロセスを円滑に進められるよう、当院ではわれわれ消化器外科と消化器内科、放射線科の3診療科の合同会議において最適の診断および治療の方法を検討し、最終的な方針を決定しています。

図5

図6

3.治療

 膵臓がんの基本的な治療は、他の消化器がんと同様に、周囲の正常と思われる組織を含めたがん病巣の外科的切除です。しかしながら、はじめの「膵臓がんとは」のところで述べたように、膵臓がんと診断された6割から7割は診断時に既に切除手術の対象とならないほど進行しており、その場合は、姑息的な症状改善を目指した手術や処置とともに抗がん剤による治療や放射線による治療、またはその両者が行われます。

手術療法

1) 根治的手術

 膵がんの外科的切除が適応となる条件として、①肝臓や肺などの膵臓以外の臓器にがんが転移していないこと、②お腹の中にがんが拡がっていないこと(腹膜播種がないこと)、③重要な臓器を栄養する大きな血管にがんが拡がっていないこと、の全てを満たす必要があります。膵臓はお腹の中の奥深いところに位置し、重要な血管に近接しているという特徴があります。胃がんや大腸がんと異なり、簡単にその臓器だけを摘出できる部位ではありません。重要な血管として、腹部大動脈、腸を栄養する動脈(上腸間膜動脈)、肝臓などを栄養する動脈(腹腔動脈、総肝動脈、固有肝動脈)が挙げられます。一方、腸で吸収された栄養分を肝臓へ運ぶ血管(門脈)へがんが拡がる場合は、その部位を切除して血管をつなぎ合わせる事が可能ならば手術の適応となります。先に述べた①~③のどれか一つでも満たされない場合は、たとえ目に見える範囲で外科的にがんが摘出できても手術後すぐにがんが再発することが極めて多く、大きな負担をかける手術は患者さんにとってプラスにならないと考えられ、手術の適応が無いと判断されます。
 膵臓がんの切除法は、他のがんの場合と同じように基本的にはがんの部分だけ摘出するのではなく、がんが拡がっている可能性のある周辺の臓器やリンパ節を一緒に摘出する必要があります。切除範囲はがんの存在する部位によって異なります。がんが膵頭部にある場合は、膵頭十二指腸切除術が、体部や尾部に存在する場合は体尾部切除が行われます。膵臓の解剖学的な位置から、膵頭十二指腸切除術は消化器の手術の中で最も複雑な技術を要する手術であり、胃や大腸の手術や再建の手技と共に、膵切除と再建の手技や場合によっては血管外科の技術が必要です。手術時間は7~10時間かかります。なお、術後の合併症として、早期のものとして膵空腸吻合部の縫合不全などの消化管縫合不全が、長期的なものとして、糖尿病や消化吸収障害があります。この手術の経験が豊富な専門病院で行う方が、合併症も少なく、治療成績が良好であることが報告されています。

2) 手術後の経過

 膵臓がんに対する代表的な根治的切除法である膵頭十二指腸切除術後の平均的な経過としては、多くのドレーンやチューブが体外に出ています(図7)が、翌日から離床の練習を始め、経口摂取も術後数日で始めることができます。手術の際に留置したチューブなどを病状の回復に合わせて除去し、手術の後3~4週間くらいで退院が可能です。膵体尾部がんでは膵臓の左側を摘出し、同時に脾臓も摘出します(図8)。退院後は外来通院にて経過観察をしますが、手術後に体調が落ち着いた時点で、再発予防の抗がん剤を半年程度使います。

図7

図8

 膵がんの手術後の特徴として、消化酵素不足による消化不良とリンパ節郭清や神経叢切除による頑固な下痢を生じることがあります。食事の度に2~3回の排便を生じ、ひどいときは一日に10回以上の排便があります。その程度に合わせて止痢薬を投薬しますが、アヘンチンキなどの麻薬系の止痢薬が必要となる場合もあります。下痢がひどい場合は、体重減少や尿量減少に注意し、輸液等による水分補給が必要です。しかしながら、このような頑固な下痢も通常術後半年から1年で改善し、止痢薬の投与は必要なくなります。

化学療法

 根治的な手術が不可能な場合や手術の後に再発が認められた場合は、抗がん剤による治療が行われます。保険で認可された抗がん剤として塩酸ゲムシタビン(商品名:ジェムザール)とS-1(商品名:ティーエスワン)という薬があります。これまで使われていた5-FU、アドリアマイシン、マイトマイシンといった抗がん剤に比べて、膵臓がんによる疼痛などの症状を和らげる効果が優れ、治療成績(生存率)を延長する効果が認められています。これらの抗がん剤は通常、外来通院での投与が可能です。さらに最近、保険で認可された抗がん剤としてエルロチニブ(商品名:タルセバ)という抗がん剤もあります。この薬はゲムシタビンと併用して使われますが、注意すべき副作用もあるために、併用するかどうかは患者さんごとに判断します。

放射線療法

 がんが局所のみに拡がっていて手術が不可能で場合は、放射線療法が行われることがあります。膵臓がんが存在する部位に対して体外から1日1回の少量の放射線照射を行い、総照射量として約50Gyの照射を約5週間かけて行います。通常、放射線治療中は抗がん剤も併用します(化学放射線療法)。これは塩酸ゲムシタビンやS-1や5-FUには放射線の効果を増強する作用があると言われていること、および全身に散らばっているかもしれないがんに対しての抗がん剤の効果を期待して併用するものです。ただし放射線療法はあくまでも局所の治療なので、既に膵臓以外に明らかにがんが拡がっている場合には適応は無いと考えられます。
 放射線療法の副作用として、体外から照射する場合は、どうしても膵臓がんの周囲にある胃や腸にも放射線が照射されますので、それによる炎症や潰瘍出血などが生じる事があります。

4.取り組み

膵臓がんに対する大阪大学消化器外科の治療方針

 われわれの施設では、難治がんの代表である膵臓がんに対して積極的な取り組みを行っています。大学病院という性格上、新しい治療法の確立をめざし、患者様の承諾を得た上で多くの臨床試験として治療を行っています(図9)。これらの試験で得られた結果は、今後の膵臓がん治療の基本となっていくものと考えます。

図9

実施している臨床試験・取り組み (こちら)

大阪大学消化器外科での膵臓手術症例数(平成25年)

 当院における平成25年の手術症例数は表1の通りです。特に難易度の高い膵頭十二指腸切除術は、年間の手術症例数が多い病院(high volume centerと呼ばれ、年間20例以上が目安となります)で手術を行った場合は治療成績が良好で術後合併症も明らかに少ないと報告されており、経験が豊富な専門病院で手術を受けることが薦められます。当院では同手術を年間22件行っており、全国でも有数の症例数を誇っています。

 

図10

膵臓がんの治療成績(全国・当院)

 膵臓がんの予後は悪く、全国調査(膵臓学会による2007年膵癌登録報告)では、膵臓がん全体(切除不能および切除された膵臓がんを含む)の生存期間中央値は僅か10.2ヶ月、3年平均生存率は11.7%と報告されており、切除が可能であった通常型膵臓がん症例でも、術後生存期間中央値は18.2ヶ月、術後3年生存率は23.2%と報告されています。このように予後の悪い膵臓がんに対する取り組みとして、大阪大学消化器外科では、上述の通り切除可能膵がんに対しても臨床試験として術前化学放射線治療を行っており、生存期間中央値/3年生存率はそれぞれ、20.4ヶ月/30.4%と良好な結果を得ています(同等の進行度の全国調査結果は17.0ヶ月/18.6%)。特に術前化学放射線治療を行って切除まで予定通り行うことができた症例では、それぞれ28.8ヶ月/44.5%と極めて良好な結果となっています。

図表の見方

図1:膵臓の形態と膵頭部、体部、尾部(「膵癌取扱い規約(第6版)」より改変して引用)
図2:膵がんのCT像。(A)がんの部分を黄色の矢頭で示す。(B)CT画像を利用した脈管の立体構築像。矢頭の部分は膵がんにより脈管が圧排されている様子を示している。
図3:膵がんのMRI画像
図4:膵がんのPET/CT画像
図5:膵がんのERCP画像
図6:膵がんのEUS画像
図7:膵頭十二指腸切除術後の再建方法とドレーン挿入部位
図8:膵体尾部切除術の膵切離部位とドレーン挿入部位
図9:大阪大学消化器外科の膵がん治療方針
図10:膵疾患手術症例数の推移

 

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