肝細胞死の分子機構の解析

 肝障害の慢性化は肝硬変や肝癌の発生につながり、また過剰で急激な障害は肝不全による個体の死へと直結します。肝障害を引き起こす因子は肝炎ウイルス、アルコール、薬剤、自己免疫機序、脂肪沈着、虚血、鉄や銅の沈着など多様ですが、このような刺激により最終的に肝細胞がどのようにして生と死を決定するのか、そのメカニズムに興味を持っています。また、肝癌においては癌細胞が死を回避するメカニズムを獲得していることが予想されます。このような分子メカニズムを研究することは、劇症肝炎の治療や肝癌の治療に直結する可能性があります。

 私たちはBcl-2ファミリーのなかでBcl-xLおよびMcl-1が肝細胞の恒常性を保つ上で必須の分子であることを コンディショナルノックアウトマウスを用いて明らかにしました(1,2)。すなわちこれらを欠損させた肝細胞はアポトーシスによる細胞死に陥ることが分かりました。肝細胞は生理的にも種々のストレスにさらされていると考えられていますが、実際に私たちは生理的状態の肝細胞において、Bidというアポトーシスシグナルが常に活性化しているということを明らかにしました(3)。このようなアポトーシスシグナルはミトコンドリア上のBak/Baxの活性化に集約され、死の実行過程へと変換されます(4-6)。そのためBcl-xLおよびMcl-1は、常にさらされているアポトーシスシグナルから肝細胞を守るために必要不可欠な、まさにキーモレキュールだったのです。さらに興味深いことに、肝細胞のアポトーシスが持続すると、それだけで肝癌が誘発されることも明らかにしました(7)。このことは、慢性肝疾患に認められるアポトーシスの持続(ALTの上昇)が、発癌のリスク因子であると知られていることを支持する結果です。

 一方、ヒトの肝癌ではBcl-xLやMcl-1の機能の増強がみられ、microRNAや 脱アミド化による転写後制御を受けていることも明らかにしました(8-10)。これらの分子の活性化は腫瘍増殖に直結する分子イベントであり、抑制することにより腫瘍発育が遅延することも示しました(11,12)。生理的状態で肝細胞の恒常性の維持には必要不可欠なBcl-xLおよびMcl-1は、肝癌では逆に癌の生存を助け、増殖を促進させていたわけです。 現在、この肝細胞死の制御による肝障害・肝癌に対する新規治療の確立にむけて研究しています。また持続肝障害からの発癌機構の解明にも取り組んでいます。最近は肝細胞アポトーシスの分子機構だけではなく非アポトーシス型の細胞死(ネクローシス,オートファジー)についても研究を展開しています。

Bcl-2ネットワークによる肝細胞死の制御


Bci-2
  1. Takehara T, Tatsumi T, Suzuki T, et al. Hepatocyte-specific disruption of Bcl-xL leads to continuous hepatocyte apoptosis and liver fibrotic responses. Gastroenterology 127: 1189-1197, 2004.
  2. Hikita H, Takehara T, Shimizu S, et al. Mcl-1 and Bcl-xL cooperatively maintain integrity of hepatocytes in developing and adult murine liver. Hepatology 50: 1217-1226, 2009.
  3. Hikita H, Takehara T, Kodama T, et al. BH3-Only Protein Bid Participates in the Bcl-2 Network in Healthy Liver Cells. Hepatology 50: 1972-1980, 2009.
  4. Kodama T, Takehara T, Hikita H, et al. BH3-only activator proteins, Bid and Bim, are dispensable for Bak/Bax-dependent thrombocyte apoptosis induced by Bcl-xL deficiency: Molecular requisites for the mitochondrial pathway to apoptosis in platelets. J Biol Chem 286: 13905-13013, 2011.
  5. Hikita H, Takehara T, Kodama T, et al. Delayed-onset caspase-dependent massive hepatocyte apoptosis upon Fas activation in Bak/Bax-deficient mice. Hepatology 54: 240-251, 2011
  6. Kodama T, Hikita H, Kawaguchi T, et al. Mcl-1 and Bcl-xL regulate Bak/Bax-dependent apoptosis of the megakaryocytic lineage at multistage. Cell Death Differ. In press.
  7. Hikita H, Kodama T, Shimizu S, et al. Bak deficiency inhibits liver carcinogenesis: a causal link between apoptosis and carcinogenesis. J Hepatol. 57: 92-100, 2012
  8. Takehara T, Liu X, Fujimoto J, et al. Expression and role of Bcl-xL in human hepatocellular carcinomas. Hepatology 34:55-61, 2001.
  9. Shimizu S, Takehara T, Hikita H, et al. The let-7 family of microRNAs inhibits Bcl-xL expression and potentiates sorafenib-induced apoptosis in human hepatocellular carcinoma. J Hepatol. 52: 698-704, 2010.
  10. Takehara T, Takahashi H. Suppression of Bcl-xL deamidation in human hepatocellular carcinomas. Cancer Res 63: 3054-3057, 2003.
  11. Hikita H, Takehara T, Shimizu S, et al. The Bcl-xL Inhibitor, ABT-737, efficiently induces apoptosis and suppresses growth of hepatoma cells in combination with sorafenib. Hepatology 52: 1310-1321, 2010.
  12. Shimizu S, Takehara T, Hikita H, et al. Inhibition of autophagy potentiates the anti-tumor effect of the multi-kinase inhibitor sorafenib in hepatocellular carcinoma. Int J Cancer. 131: 548-557, 2012.
(2012年10月29日更新)