肝線維化の分子機構と肝による生体防御

 肝臓は非常に再生能力の高い臓器でありますが、炎症による肝細胞死と代償的な肝再生が持続的に繰り返される状況下においては、その創傷治癒反応の一つとして肝臓内に線維化が生じることが知られています。我々のグループでは、分子生物学や遺伝子工学的なアプローチを用いて、細胞間相互作用やシグナル伝達といった観点から特に肝線維化や炎症の制御機構に関して研究を行っております。肝線維化の病態生理においては肝星細胞がその進行に中心的な役割を果たすと考えられており、これまで肝星細胞の活性化制御機構や他の細胞との相互作用について様々な報告を行って参りました。その中でも近年我々は血小板と肝星細胞の細胞間相互作用に着目し、肝星細胞によるI型コラーゲン(硬変肝に蓄積する主要な線維)産生を血小板が抑制することを見出し、また遺伝子改変マウスを用いた研究から血小板減少状態が肝線維化を増悪させる事を明らかとしました(1)。この結果は、新しい細胞間相互作用を見出したのみならず、慢性肝炎・肝硬変患者の単なる高頻度な合併症であると考えられていた血小板減少が肝線維化進展の新規治療標的となる可能性を示した非常に興味深い結果であると考えられます。また最近我々は肝細胞と肝星細胞の細胞間相互作用にも着目し種々の遺伝子改変マウスを用いることにより、重要な癌抑制遺伝子として知られるp53遺伝子が、肝細胞において線維化促進作用をもつCTGFの発現を誘導し、肝線維化においても重要な役割を担っている事を見出しました(2)。また臨床検体を用いた研究より、このp53-CTGF経路が慢性肝疾患・肝硬変患者の肝線維化進展に関与している可能性があることを明らかにしました(2)。これらの結果は、p53-CTGF経路が肝線維化の新規治療標的となる事を示唆しており意義深い結果であると考えられます。また我々は、肝を介した炎症の制御機構についても現在までに多数の報告を行って参りました。その中でも近年特に、炎症性サイトカインの細胞内シグナル伝達や急性期蛋白の産生において重要な役割を果たす分子であるSTAT3に着目して研究を行い、肝細胞STAT3が敗血症などの炎症に対して保護的に働いている事を報告致しました(3)。またその後この肝細胞STAT3を介して産生される急性期蛋白(APP)等が、炎症の制御のみならず、肝線維化に対しても保護的に働いている事を明らかにしました(4)。これらの結果から、肝細胞におけるSTAT3経路もまた肝炎症・線維化の治療標的になりうると考えられます。
 このように肝における炎症・線維化の制御機構に関しては、種々の細胞が関与しており、またその細胞間相互作用は非常に複雑であります(図)。今後こういった基礎的な研究をさらに発展させることでその制御機構の全貌を明らかにしていくと同時に、これらの研究結果を基にしたtranslational researchにも積極的に取り組んで行きたいと考えています。

肝炎症・肝線維化における細胞間相互作用


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  1. Kodama T, Takehara T, Hikita H, et al. Thrombocytopenia exacerbates cholestasis-induced liver fibrosis in mice. Gastroenterology;138:2487-98, 2498 e1-7, 2010.
  2. Kodama T, Takehara T, Hikita H, et al. Increases in p53 expression induce CTGF synthesis by mouse and human hepatocytes and result in liver fibrosis in mice. J Clin Invest; 121(8):3343-56, 2011.
  3. Sakamori R, Takehara T, Ohnishi C, et al. Signal transducer and activator of transcription 3 signaling within hepatocytes attenuates systemic inflammatory response and lethality in septic mice. Hepatology; 46: 1564-73, 2007.
  4. Shigekawa M, Tekahara T, Kodama T, et al. Involvement of STAT3-regulated hepatic soluble factors in attenuation of stellate cell activity and liver fibrogenesis in mice. Biochem Biophys Res Commun; 406: 614-20, 2011.