肥満に伴う慢性肝疾患および自己免疫性肝炎における免疫病態の解明

 肥満に伴うメタボリック症候群の肝臓における表現型である非アルコール性脂肪性肝疾患は成人日本人の実に十人に一人が罹患しているともいわれています。なかでも非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は肝硬変、肝がんへと進展しうる病態として注目されています。
一方で、肝臓を場とする自己免疫疾患である自己免疫性肝炎は、緩やかな経過をたどるものから、急速に進行し肝硬変へといたる症例もあり、治療に苦慮する症例も少なくありません。
肝臓はその解剖学的な位置から、門脈を経由して腸管から流入する細菌成分や食餌性抗原に常に暴露される状況におかれています。 Lipopolysaccharide (LPS)に代表される細菌成分は、肝実質細胞、非実質細胞を問わず肝臓内の種々の構成細胞をToll-like receptor (TLR)を介して刺激する可能性があります。 しかしながら、通常の状態では、免疫学的な均衡が維持されており、肝臓内に炎症は惹起されません。なにがしかの免疫抑制的な機序が働いているものと考えられています。しかしこのような免疫学的な均衡維持機構が破綻すると、肝臓を場とする炎症が引き起こされ、慢性に経過すると肝線維化や肝がんの発生へとつながっていきます。我々は、このような視点から、脂肪肝炎の免疫学的側面や自己免疫性肝炎の病態に関する研究を展開しています。
 Invariant Natural Killer T (iNKT) 細胞は免疫細胞の一種で、自然免疫と獲得免疫との橋渡し的な役割を果たすことにより、抗腫瘍免疫においてだけでなく、微生物感染に対する防御反応や免疫学的な均衡の維持においても重要な役割を果たすことが明らかになってきています。
 我々は、iNKT細胞が脂肪肝炎の病態進展において重要な役割を果たしていることを報告しました(1)。また、iNKT細胞が消失するとIL-17の産生を介して肝臓に炎症が惹起されることを見出し、自己免疫性肝炎の病態への関連を示唆する結果を得ています。
 NK細胞やNKT細胞といった自然免疫に属する細胞は、肝臓において他臓器に比べて豊富に存在しており、抗腫瘍免疫といった視点でみると宿主側にとって恩恵をもたらす面がある一方で(2-5)、肝炎や肝障害といった面では逆に宿主側に有害となることもあり、それらを制御することで、肝線維化や肝発がんといった慢性に経過する肝疾患の進展を防御し、病態を緩和することが可能ではないかといった観点から研究を進めています。

NAFLD/NASHにおけるiNKT細胞の果たす役割


NAFLD/NASH
  1. Miyagi T, Takehara T, Uemura A, et al. Absence of invariant natural killer T cells deteriorates liver inflammation and fibrosis in mice fed high-fat diet. J Gastroenterol 45: 1247-54, 2010.
  2. Miyagi T, Takehara T, Tatsumi T, et al. CD1d-mediated stimulation of natural killer T cells selectively activates hepatic natural killer cells to eliminate experimentally disseminated hepatoma cells in murine liver. Int J Cancer 106: 81-89, 2003.
  3. Miyagi T, Takehara T, Tatsumi T, et al. Concanavarin A injection activates intrahepatic innate immune cells to provoke an anti-tumor effect in murine liver. Hepatology 40: 1190-1196, 2004.
  4. Uemura A, Takehara T, Miyagi T, et al. Natural killer cell is a major producer of interferon gamma that is critical for the IL-12-induced anti-tumor effect in mice. Cancer Immunol Immunother 59: 453-63, 2010.
  5. Takehara T, Uemura A, Tatsumi T, et al. Natural killer cell-mediated ablation of metastatic liver tumors by hydrodynamic injection of IFNα gene to mice. Int J Cancer 120: 1252-1260, 2007.
(2012年11月23日更新)