HGFの臨床応用は、まず遺伝子治療という形で行われます。すなわち、HGFの遺伝子を体内に打ち込むという治療法です。体内の細胞に導入された遺伝子は、発現してHGFの蛋白質を産生します。このHGFが血管を再生させ、動脈硬化により血流不全に陥った臓器を救うのです。今春からはまず、閉塞性動脈硬化症、バージャー病に対してHGF遺伝子を用いた遺伝子治療が実施される予定です。具体的には、遺伝子の筋肉注射を下肢に4カ所行い、一ヶ月後にもう一度注射します(詳しくは
実際の手順参照)。今回の遺伝子治療では、ベクター(遺伝子の運び屋)を使わないで、最も単純な形であるプラスミドという形で導入するため、一般的に危惧されているベクターを用いた時の副作用の心配はありません。もちろん、プラスミドだけの注射に関しても100%安全という保障はできませんが、今までに行った種々の動物実験結果などから、副作用の可能性は少ないのではないかと考えています。ただし、HGFは血管を増やすことから、癌あるいは糖尿病性網膜症を進行させる可能性があり、癌あるいは進行性の糖尿病性網膜症を有する患者さんにはできません。これは検査の段階で調べられます。
既に米国ではVEGFというやはり血管を再生させる遺伝子を用いて同様の方法で遺伝子治療が行われています。その効果は非常に優れたもので、血流不全のために冷たかった足が暖かくなったり、足の痛みがとれたり、足の潰瘍が治って下肢切断が免れた症例が報告されています。従って同じ作用をもつHGFにも大きな期待が寄せられています。