輸血感染症       2000年8月25日改訂

 

   日本赤十字社中央血液センター 田所憲治

 

1. 原因(輸血により感染を起こす可能性のある感染因子と病気)

病原体

種類

ウイルス HBV*&HCV*&HIV-1/2*&, HTLV-1parvovius B19$CMVEBV, HAV
スピロヘータ T. pallidum (梅毒)Borrelia属(回帰熱、ライム病)等
リケッチア R.tsutsugamushi (つつが虫病)R.rickettsi & japonica(紅斑熱)
細菌  Y.enterocoliticaPseudomonasSerratiaKlebsieraStaphylococcus, Salmonella, Brucella
原虫 Plasmodium属(マラリア)、Babesia属(バベシア症)Trypanosoma属(睡眠病、Chagas病)、Toxoplasma(トキソプラズマ症)等
寄生虫 Microfilalia (フィラリア症)
その他 Prion (Creutzfeldt-Jacob)

赤十字血液センターで全血液についての血清学的スクリーニング検査を実施

&赤十字血液センターで血清学的スクリーニング検査陰性の血液の検体をプールし核酸増幅検査(NAT)を試行的に実施

$赤十字血液センターが全血液について検査を試行的に実施

#赤十字血液センターが医療機関からの必要に応じて検査し、抗体陰性血を供給。

 

2. 頻度 

   売血時代には受血者の半数が黄疸を伴う肝炎になっていたが、自発献血へ移行,高単位製剤の導入、各種スクリーニング検査の導入・改善により1992年以降、HBV,HCVなどによる肝炎は数千人の受血患者の前向き調査では感染例は検出されないまでに減少した。

・  輸血による感染の可能性の高い症例(輸血血液の保管検体でウイルス核酸が検出された症例)とその頻度−1998年−

  情報源    
  医療機関からの自発報告 分画製剤原料血漿のNATが陽性の血液と同時採血の輸血用血液の受血者の遡及調査 ウイルス検査陽転者の前回献血血液の受血者の遡及調査

総数

頻度*

(1/万受血患者)

HBV 6 11 5 22 1/5.5万
HCV 0 3 4 7 1/17.4万
HIV 0 0 0 0 0

 *東京都の輸血血液単位数・受血患者と全国の総供給単位数より全国の受血者数を約122万人と推定した時の頻度

**輸血によるHIV感染は1997年に陽転者の前回血液の遡及調査で1例、1999年に分画製剤原料血漿NAT陽性血の遡及調査で2例の感染者が確認されている。

 抗体検査の開始後HTLV-1、梅毒感染の報告例はない。1992年に輸血マラリア感染が1例、1999年にバベシア感染1例が報告されている。輸血による菌血症、敗血症を疑われて報告された例が年間数例あるが1999年なでに確認された例はない。 

199710月から日本赤十字社血漿分画センターで実施していた分画原料血漿用のNATは手動で検査に時間がかかり結果が出た時には同一採血の輸血用血液が既に大多数輸血されていたため、上記のように陽性血の遡及調査で感染が判明する例があった。

日本赤十字社では199910月から全輸血用血液に対してHBV, HCV, HIVについての核酸増幅検査(NAT)を開始した。輸血用血液のNATは自動で採血後3日目までに結果が判明する。NAT陽性血は出庫前に廃棄され、その分感染が予防されるようになった。

NATの検体のプール数を20002月からは当初の500検体から50検体へと減らしたため検出感度が更に上昇した。

2000年からは輸血による感染例数が1998年よりもさらに低くなると予想される

 

3. 症状と治療

 ・輸血によらないそれぞれの感染症の症状、治療法と同じ。

 ・細菌が混入した血液の輸血は菌血症、敗血症を起こし時にエンドトキシンショックを起こすことがある。

 

4. 輸血による感染症への対策

1)血液センターで行っている輸血感染症対策

・献血者への「安全な献血」思想の普及,広報

・感染リスクについての問診の充実と署名の実施

・スクリーニング検査の充実: HBV,HCV,HIVについてのNAT検査の開始

・全国一元化したコンピュータによる献血履歴・検査履歴との照合

・献血後・輸血後に入手した血液・献血者の安全についての情報による血液の差し止め、医療機関への連絡等の安全対策

・感染症・副作用報告による感染の実態把握とそれに基づく安全対策の改善

・輸血による感染が疑われた時に原因調査を行うための全献血者検体の保管

 

2)医療機関で望まれる対策

術式の改善等による術中出血量の減少

自己血輸血の実施

厚生省の「血液製剤の使用指針」に準じた適正な輸血の実施(不要な輸血はしない)

インフォームドコンセントの実施

輸血後のHIV抗体検査、肝機能検査による感染の早期発見

輸血による感染が疑われた時の調査のための輸血前患者検体の保管

 

5. 文献紹介

1. 日本赤十字社輸血後肝炎の防止に関する特定研究班,研究報告書, 1993-1995

2. 高橋雅彦, 田所憲治:輸血感染症とその評価基準. 血液事業, 21:17-27, 1998.

3.木原正博:日本のHIV感染の状況. 日本輸血学会雑誌, 45: 522-5, 1999.

4. Schreiber GB, et al. : The Risk of Transfusion-Transmitted Viral Infections.  N Engl J Med, 334: 1685-90, 1996.

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9. 瀬尾順子ほか:献血者情報の重要性−ツツガムシ病症例からの教訓    血液事業, 22; 435-8, 1999.

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25. Roth JA, Siegel SE, Levine AS, Berard CW Kawabata M, Baba S, Iguchi K, Yamaguti,N, Russell H. : Fatal recurrent toxoplasmosis in a patient initially infected via a leukocyte transfusion. Am J Clin Pathol,  56:  601-5,  1971.

26. 狩野繁之, 鈴木守. : 日本における輸血マラリア−血小板輸血により発症したと思われる熱帯熱マラリアの1症例を中心に−   日熱医会誌 22;  193-9,  1994.