実験動物の 不適切な麻酔方法

 

ジエチル エーテル(エーテル)吸入麻酔

ペントバル ビタールナトリウム単独投与

医薬品以外 (安全性試験がなされていない)の薬剤による麻酔

 

解説


はじめに


実験動物の 麻酔は種々の目的で施行されるが、その多くは倫理的な動物実験の施行における苦痛軽減を目的としたものである。とくに我が国の動物愛護法では動物実験を “できるだけ苦痛の少ない方法によってしなければならない”と規定していることから、最新の情報を入手し、適切な麻酔施行を行わなければならない。しかし、古い文献を参照して、すでに臨床的には使われない麻酔法を実験動物に施行する動物実験はあとをたたない。

実験動物医 学教室では適切な麻酔法のうち一般的な方法に関する情報を提供しているが、さらに最新の研究成果、ならびに不適切な麻酔方法に関する情報を提供することとし た。

ただ不適切とするのは当初はacademic joiurnalpaperがでて、注目を浴びると、それが学会のシンポジウムなどで取り上げられ、それを引用したreviewなどがでて教科書が出版されるという段取りとなる。どの時点で不適切とするかがなかなか難しいものだが、解説の欄、でどの段階での不適切性が考えられるかを説明する。

 

ジエチル エーテル(エーテル)吸入麻酔

本剤は吸入 麻酔法が発見された時に用いられた歴史的に麻酔学上極めて重要な薬剤である。多くの吸入麻酔薬の作用機序等は本剤を中心に研究されてきた。

しかし、本 剤は引火性があること気道刺激、それにともなう気道分泌物過剰および喉頭痙攣などの副作用があることが報告された。欧米の最近の専門教科書では本剤による吸入麻酔は不適切であるとしている(Fish et al 2008, Flecknell 2010)。これらの短所を克服すべく、ハロセン、 セボフルレン、イソフルレンなどが新たに開発され、臨床的には十分普及している。またその薬理作用なども十分研究がすすんでいる。

臨床的に使 用されなくなったためもあり、本剤は麻酔薬としては既に市販されていない。試薬、工業用薬品として販売されているが、それらについては労働安全衛生法、消 防法などにより規制されている。

麻酔に医薬 品以外を用いることは倫理的に許されない。また麻酔が苦痛の軽減のためであれば、健康被害が知られている化学物質を麻酔の目的に使用することは適切ではない。

 

ペントバル ビタールナトリウム単独投与

本剤はこれ まで広く麻酔薬、催眠薬として使用されてきた。とくに実験動物では注射麻酔薬として多くの教科書に記載されたことから、十分な薬理作用を理解せずに記載さ れた用量を投与してきたものと思われる。実際1980年代までの麻酔学、獣医麻酔学の教科書には本剤による全身麻酔についての記載があり、実験動物学の教科書にも多く記載されている(黒澤 2009)。

しかし、本 剤には鎮痛作用はほとんどなく、その強力な催眠作用により、意識喪失の状態にすることによる外科麻酔が得られるとされてきた。しかし、意識喪失の状態が得 られる用量は致死量に極めて近く、さらに本剤の呼吸抑制作用のため、外科麻酔が得られる程の投与量では死亡事故が多発することが知られてきた。

とくに近年 は3Rsの考え方が普及し、できるだけ実験動物使用数を少なくしなければならないという立場から、麻酔死するような麻酔方法は不適切であるとされ た。とくに近年出版された実験動物麻酔学の教科書(Fish, et al 2008, Flecknell, 2010)では本 剤の単独投与による全身麻酔は不適切であると明言されている。

また、他の注 射麻酔法も多く開発され、その鎮痛作用、副作用、広い安全域などから本剤より適切な麻酔法が普及している。したがって、できるだけ苦痛の少ない方法の原則 にしたがって、他のより適切な注射麻酔法を用いるべきであり、本剤の単独投与による外科麻酔は不適切な方法とされるようになった。

なお本剤は 動物の安楽死薬として広く使用されているだけでなく、その薬理作用等からも安楽死薬としての的確性は十分備えているものとして、安楽死薬として推奨されて いる(AVMA, 2007)

 

医薬品以外 (安全性試験がなされていない)の薬剤による麻酔

医薬品の開発には動物実験は欠かせない。とりわけ安全性試験には多数の実験動物が使用されてきたことは実験動物のユーザーであるバイオメディカスサイエンティスト の共通の認識である。またこの事実は動物実験が必要不可欠であることの重要な根拠となっている。実験動物の苦痛をできるだけ軽減しようとする際にはこの基本に沿って、より安全と証明された医薬品を用いることは当然である。とくに欧米ではこの考え方が定着し、法律、行政指導、および各種指針に明記されるようになってきた(NRC 2010 ここで研究目的で使用する試薬と苦痛軽減などに使用する医薬品を混同してはならない

 

参考文献

Flecknell, P. Laboratory Animal Anaesthesia 3rd Ed. Academic Press 2010

Fish, R. E. et al Ed. Anesthesia and Analgesia in Laboratory Animals 2nd Ed. Academic Press 2008

AVMA  Guidelines On Euthanesia 2007 URL: http://www.avma.org/issues/animal_welfare/euthanasia.pdf

黒澤努 10.2 麻酔と安楽死 in 現代実験動物学 笠井憲雪et al Ed. 朝倉書店 pp184-196 2009

USNational Research Council NRCof the National Academy Guide for the Care and Use of Laboraotory Animals. The National Academy Press Washington D.C. 2010