抗IL-6受容体抗体|大阪大学 免疫アレルギー内科

免疫疾患の診療

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抗IL-6受容体抗体について

関節リウマチの治療戦略は、抗サイトカイン療法の登場により、新たな局面を迎えている。日本においても2003年3月に抗TNFα抗体-infliximabが、2005年3月にTNF受容体・Fc融合蛋白製剤-etanerceptが承認されている。ここでは、これらの薬剤と同等以上の臨床効果を認め、第V相臨床試験が終了し、承認が待たれる抗IL-6レセプター抗体―トシリズマブ(商品名アクテムラ)について解説する。

関節リウマチにおけるIL-6の役割

IL6の働き

IL-6は、1986年に岸本らによって、その遺伝子がクローニングされ、IL-1やTNFaと並んで、炎症性サイトカインと呼ばれている。関節リウマチの病態には、様々なサイトカインやケモカインが関与することが報告されているが、RAの多くの症状はIL-6の作用により説明可能である。図に示すように、IL-6は、抗体産生を誘導し、高γグロブリン血症やリウマチ因子を出現させる。肝細胞刺激因子として、急性炎症蛋白であるC反応性タンパク質(CRP)や血清アミロイドA(SAA)を誘導する。SAAは、AAアミロイドの前駆タンパク質であり、二次性アミロイドーシス発症において、その過剰産生が問題となる。関節破壊やパンヌスの形成においても、IL-6は破骨細胞を活性化する。RAの関節外症状である全身倦怠感や食欲の低下、体重の減少、微熱なども血中IL-6の上昇で説明することができる。以上のことから、IL-6の機能を阻害する治療法が考えられ、IL-6シグナルの詳細な解析結果から、IL-6レセプターが標的として選択され、トシリズマブが開発された。

トシリズマブの構造と特徴

抗体のヒト化

マウス抗体は、ヒトの体内では、異物として認識され,マウス抗体に対する抗体(human anti-mouse antibody;HAMA)が産生される。インフリキシマブはマウスとヒトのキメラ抗体であることから、反復投与により20-40%の患者に中和抗体が出現すると言われている。トシリズマブは、遺伝子組み換え技術により、相補性決定領域(CDR)のみを残すことにより、頻回投与によるHAMAの形成を最小限に抑えることが可能になった。

臨床試験成績

臨床成績

オープン試験で行われた前臨床、第I/II相臨床試験の良好な結果を踏まえ、2001年春から、日本において後期第II相試験が行われた。164例の活動性のRA患者をプラセボ(53例)、トシリズマブ4mg/kg(54例)、8mg/kg(55例)の3群に分け、無作為二重盲検試験が行われた。トシリズマブを4週毎に投与し、投与開始後12週目における臨床評価を、アメリカリウマチ学会の評価基準で比較検討した。ACR20の達成率は、プラセボ群 11.8%、4mg/kg群 57.4%、8mg/kg群 78.2%と非常に良好な結果が得られた(1)。

ヨーロッパで行われた第II相試験では、359例の活動性のRA患者を、プラセボ+MTX(53例)、トシリズマブ単独治療群:2mg/kg(53例)、 4mg/kg(54例)、8mg/kg(52例)、トシリズマブ+MTX併用群: 2mg/kg(49例)、 4mg/kg(50例)、8mg/kg(49例)と7群に分けて無作為二重盲検試験で行われた。トシリズマブを4週毎に投与し、投与開始後16週目における臨床評価が比較検討された。ACR20の達成率は、プラセボ群 41%、トシリズマブ単独:4mg/kg群 61%、8mg/kg群 63%、トシリズマブ+MTX併用群4mg/kg群 63%、8mg/kg群74%だった(2) 。以上の結果は、すでに使用されているTNFa阻害薬の臨床効果と同等以上であった。安全性については、日本、ヨーロッパともに、有害事象は、比較的軽度であったが、感染症には十分な注意が必要であることが述べられている。

それでは、RAにおけるトシリズマブの関節破壊の進展抑制効果はどうだろうか?最近、日本における第V相試験で、その結果が報告された (3)。306例の活動性のRA患者を、既存のDMARDs群(148例)、トシリズマブ8mg/kg群(158例)の2群に分けて、52週後の関節変化をmodified sharp法により評価した。Total sharp scoreはDMARDs群6.1 vs. トシリズマブ群2.3 (p<0.01)、erosion score 3.2 vs.0.9 (p<0.01)、joint space narrowing score 2.9 vs. 1.5 (p<0.05)と統計学的な有意差を認め、トシリズマブの関節破壊の進展抑制効果が確かめられた。

SAAの転写調節機序をもとにしたトシリズマブの薬効解析

それでは、何故トシリズマブはこれほどの臨床効果を示すのだろうか?開発当初、サイトカインカスケードとしては、IL-6はTNFαの下流に位置すると考えられ、その臨床効果に疑問が持たれていた。そこで、トシリズマブ投与により、速やかに血清レベルが正常化されるSAAの転写調節機序の解析をもとに、その薬効機序の解析を行った。その結果、サイトカインの組み合わせ刺激によるSAAの相乗発現において、IL-6が必須であることが明らかになった(図)(4)。さらに、様々な分子生物学的な解析により、我々は、IL-6シグナル下流の転写因子であるSTAT3と、IL-1やTNFαシグナルの下流であるNF-kBp65が複合体を形成することを明らかにした。NF-kBシグナルは様々な刺激で活性化され、IL-1やTNFα単独を標的にしても、その阻害は不十分である。一方、トシリズマブは、特異的にSTAT3の活性化を抑制し、転写複合体の形成を阻害する(図)(5)。つまり、トシリズマブは、STAT3とNF-kBp65のクロストークを阻害することにより、その薬効を示している可能性が示された。

発現調節

トシリズマブは、先行しているTNFα阻害薬と同様に、RA患者の臨床症状を改善し、関節破壊の進展を抑制する。実際、筆者自身が関わった第I/II相試験、後期第II相試験よりフォローされているRA患者さんたちの機能予後は良好である。RAは、治らない病気から、的確な診断により積極的に治療を行い、関節破壊を防止していく疾患へと劇的に変貌している。トシリズマブの承認は、この方向性をさらに大きく加速していくものと思われる。

【出典】【参考文献】
1. Nishimoto N et al. Arthritis Rheum 50: 1761-1769, 2004.
2. Maini, RN et al. Arthritis Rheum 54: 2817-2829, 2006.
3. Nishimoto N et al. Ann Rheum Dis 66: 1162-1167, 2007.
4. Hagihara K et al. Biochem Biophys Res Commun, 314: 363-369, 2003.
5. Hagihara K et al. Gene Cells, 10: 1051-63, 2005.
6. Okuda Y et al. Arthritis Rheum 54: 2997-3000, 2006.
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2008/Feb