免疫アレルギー内科TOPページ » 研究 » 抗IL-6受容体抗体の難治性疾患に対する有効性の検証
岸本忠三大阪大学元総長、平野俊夫大阪大学医学部長らによるIL-6の発見、その受容体やIL-6の細胞内信号伝達経路の全貌を明らかとした基礎研究、様々な疾患発症や病態形成におけるIL-6の関与を明らかとした臨床研究を基盤として、IL-6の作用を阻害するヒト化抗IL-6受容体抗体「tocilizumab商品名アクテムラ(ACTEMRA)」が中外製薬との協同研究により開発されました。当内科で始められた臨床研究から世界41カ国での治験に拡がり、アクテムラはキャッスルマン病、関節リウマチ、若年性特発性関節炎に著効することが明らかとなり、国産初の抗体医薬として承認されました。2010年7月現在、関節リウマチに対しては、世界70カ国以上の国で承認を受け、関節リウマチに対する画期的な治療薬として拡がっています。
しかし、IL-6が病気の発症に関わっていると考えられる稀少性の難治性免疫疾患に対しての治験の予定は現在なく、当科にて臨床研究を行い、これらの疾患に対しても、アクテムラが新たな治療法となり得るのか検証しています(保健医療分野における基礎研究推進事業「未だ有効な治療法がない免疫、腫瘍性疾患に対する抗IL-6受容体抗体による新規治療法の開発」)。
また、関節リウマチに対する生物学的治療薬として、アクテムラ以外に、抗TNF阻害薬、IL-1受容体拮抗薬、T細胞活性化阻害薬、B細胞枯渇薬等開発されています(日本で承認されているものは、アクテムラ、抗TNF阻害薬、T細胞活性化阻害薬)。当科では、アクテムラが他の生物学的製剤と比較し、どのような特徴を有した薬なのか、その特性を明らかとするとともに、最大の効果をもたらし、安全に使用するための臨床研究も行っています。
現在まで、13疾患(反応性AAアミロイドーシス、再発性多発軟骨炎、強皮症、多発性筋炎、反応性関節炎、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、成人発症スチル病、血管炎症候群、ベーチェット病、リウマチ性多発筋痛症、remitting seronegative, symmetrical synovitis with pitting edema (RS3PE)、後天性血友病)に対してアクテムラの臨床研究(最長3年間)を行い、評価し得た疾患において、以下のことが明らかとなっています。
反応性AAアミロイドーシスに対して、アクテムラ治療後速やかな下痢症状の改善とともに、3回投与により腸管組織のアミロイド線維が消失した症例を経験しました。
Rapid improvement of AA amyloidosis with humanised anti-interleukin 6 receptor antibody treatment.
S. Nishida, K. Hagihara, Y. Shima, M. Kawai, Y. Kuwahara, J. Arimitsu, T. Hirano, M. Narazaki, A. Ogata, K. Yoshizaki, I. Kawase, T. Kishimoto, T. Tanaka. Ann Rheum Dis 2009;68:1235-1236.
IL-6は、アミロイド線維の前駆蛋白である血清アミロイドAの産生を促す主要なサイトカインであることより、アクテムラによるIL-6の阻害がこの効果をもたらしたものと考えられます。なお、この論文の組織像に関する図は、同雑誌のcover imageとして掲載されています。
2例の再発性多発軟骨炎に対して、アクテムラは上、下気道の症状を軽減、安定化させ、ステロイド薬の減量が可能となっています。
Sustained response to tocilizumab, anti-interleukin-6 receptor antibody, in two patients with refractory relapsing polychondritis.
M. Kawai, K. Hagihara, T. Hirano, Y. Shima, Y. Kuwahara, J. Arimitsu, M. Narazaki, A. Ogata, I. Kawase, T. Kishimoto, T. Tanaka. Rheumatology 2009;48:319-320.
再発性多発軟骨炎は大変稀な疾患で、Randomized controlled trialでの薬剤の評価が困難ですが、厚生労働省の難治性疾患克服研究事業では、ステロイド薬や免疫抑制剤で効果がない場合には、アクテムラの使用を奨めています(2009診断・治療指針案)。
通常の治療でコントロールが困難であった反応性関節炎(ライター病)に対して、アクテムラの2回の投与により関節症状は消失した。
Successful treatment of reactive arthritis with a humanized anti-interleukin-6 receptor antibody, tocilizumab.
T. Tanaka, Y. Kuwahara, Y. Shima, T. Hirano, M. Kawai, M. Ogawa, J. Arimitsu, K. Hagihara, M. Narazaki, A. Ogata, I. Kawase, T. Kishimoto. Arthritis Rheum 2009;61:1762-1764.
反応性関節炎は血清反応陰性脊椎関節炎に含まれる疾患でありますが、脊椎関節炎の代表的疾患である強直性脊椎炎1例に対しても、アクテムラの継続的な投与が活動性(BASDAI)や機能障害(BASFI)を抑制することが明らかとなっています。
2例の強皮症患者さんの皮膚硬化度が、アクテムラの投与により軽減しました。
The skin of patients with systemic sclerosis softened during the treatment with anti-IL-6 receptor antibody tocilizumab.
Y. Shima, Y. Kuwahara, H. Murota, S. Kitaba, M. Kawai, T. Hirano, J. Arimitsu, M. Narazaki, K. Hagihara, A. Ogata, I. Katayama, I. Kawase, T. Kishimoto, T. Tanaka. Rheumatology in press
症例研究での結果を踏まえて、今後は、他施設共同比較対照試験へと進める予定です。
ステロイド薬の減量が困難であったリウマチ性多発筋痛症、RS3PEに対して、アクテムラは臨床症状を改善させ、リウマチ性多発筋痛症ではステロイド薬の減量が可能となった。
1) Tocilizumab ameliorates clinical symptoms in polymyalgia rheumatica.
K. Hagihara, I. Kawase, T. Tanaka, T. Kishimoto. J Rheumatol 2010;37:1075-1076.
2) Treatment of a patient with remitting seronegative, symmetrical synovitis with pitting oedema with a humanized anti-interleukin-6 receptor antibody, tocilizumab.
T. Tanaka, K. Hagihara, Y. Shima, M. Narazaki, A. Ogata, I. Kawase, T. Kishimoto. Rheumatology 2010;49:824-826.
リウマチ性多発筋痛症、同一疾患である可能性があるRS3PEは、高齢者に多い原因不明の慢性炎症性疾患ですが、IL-6が病勢の評価に最も鋭敏なマーカーであることが報告されています。現在のところ、ステロイド薬に代わる証明された治療薬がなく、ステロイド薬が減量できない、使用できない場合、アクテムラは第2の治療薬となる可能性が想定され、今後の研究で検証する必要があります。
また、ベーチェット病においてアクテムラが眼発作の頻度を抑制し、後天性血友病(凝固第8因子に対する自己抗体による出血を来す自己免疫疾患)において、アクテムラ投与により第8因子活性が安定し、ステロイド薬の減量が可能となっています。
IL-6は免疫調節細胞である制御性T細胞、Th17細胞の分化やTh1/Th2バランスに影響を与えることが示されており、抗IL-6受容体抗体は単にIL-6の炎症惹起作用を阻害するのみならず、自己免疫疾患の根本的な原因を是正する可能性があり、臨床的な有効性とともにそのメカニズムも探っていく予定です。
結核抗原刺激による末梢血T細胞からのinterferon gammaの産生に、抗TNF薬(レミケード、エンブレル)は抑制するが、アクテムラは抑制しない。
Minimal influence of tocilizumab on IFN-g synthesis by tuberculosis antigens.
A. Ogata, M. Mori, S. Hashimoto, Y. Yano, T. Fujikawa, M. Kawai, Y. Kuwahara, T. Hirano, J. Arimitsu, K. Hagihara, Y. Shima, M. Narazaki, S. Yokota, T. Kishimoto, I. Kawase, T. Tanaka. Mod Rheumatol 2010;20:130-133.
事実、抗TNF薬と比べ、アクテムラ治療中の結核の再活性化の発生頻度は少なく、本研究の結果は、結核菌などの細胞内寄生細菌に対しては、アクテムラは抗TNF薬より安全に使用しうる可能性を示唆します。
脾臓が大きい関節リウマチ患者では、アクテムラの血中濃度が維持できない。
Insufficient effect of tocilizumab on the patients with rheumatoid arthritis who have splenomegaly.
M. Narazaki, M. Kawai, A. Morishima, Y. Kuwahara, T. Ishii, T. Hirano, K. Hagihara, Y. Shima, A. Ogata, T. Kishimoto, T. Tanaka. EULAR meeting 2010.
アクテムラ8mg/kg、4週間隔の投与スケジュールでは、患者さんの20-30%において、トラフ(投与前の最低)値が1mg/ml以下となり、CRPが陰性化しません。このような患者さんでは、アクテムラの濃度が低いために、IL-6により誘導される炎症が完全に抑えることが出来ていません。様々な投与前の臨床指標を検索したところ、脾臓が大きい患者さんでアクテムラが維持できないことが明らかとなっています。
今後の課題として、
(1)難治性の免疫疾患に対して、症例研究から医師主導臨床試験、治験へと発展させ、アクテムラは画期的な治療薬となるのか検証する。
(2)アクテムラは症状が異なる疾患に有効であり、その根本の作用機序を明らかとする。
(3)他の生物学的製剤との差別化、アクテムラの特性を明らかとする。