甲状腺がんの過剰診断Q&A 

  甲状腺がんの大部分は若年で発生し、若いうちは比較的速く成長ししばしば首のリンパ節にも転移しますが、その後徐々に成長を止めてほとんどが一生気づかれないまま経過します。これらのがんは早期診断・早期治療がふさわしくないがんです。無症状の子ども・若者に対して超音波検査を行うと、このような本来見つけなくてもよかったがんを見つけてしまいます。これが過剰診断です。若年者に甲状腺がんの過剰診断が起きると、本来必要なかった無駄な手術を受ける(過剰治療)ことになったり、若いうちからがん患者のレッテルを貼られることで様々な不利益を被ったりする害が出ます。


Q1. 詳しい検査すれば過剰診断は起きないのでは? 

A1. 個人個人については過剰診断かどうかは検査ではわからない。

 子どもに甲状腺がんがみつかった場合、その時点で明らかな転移等がある場合を除けば、そのがんが将来本人に悪さするかどうかはわかりません。過剰診断かどうかは、1)手術せずに延々と経過観察をして対象者が別の病気で亡くなった場合、あるいは、2)多数例手術してその後死亡率が全く変化しなかった場合(韓国の例です)、に初めて過剰診断であると断定できるのです。すなわち、個々のがんについてどれが過剰診断でどれが過剰診断でないか判断することは不可能といってよいでしょう。逆に言うと、仮にそのような鑑別方法があるならそもそも過剰診断の問題は起きないのです。

Q2.過剰診断は医療過誤なの? 

A2. 医療過誤ではない。

 過剰診断は患者にとって大きな問題ですが、医療行為に法律上全く問題が無くても過剰診断は発生します。なぜなら、従来がんは早期発見・早期治療が良いことであるとされてきたため、「見つけなくてよいものをみつけてしまった」「早く見つけすぎてしまった」ことを問題とするようなルールが無いからです。”治療すべきでないがん”の存在という予想外の事実に法律が追いついていないのです。また甲状腺がんの自然史の知見から、無症状の子ども・若者に超音波検査によるスクリーニングを実施した場合、多数の過剰診断例が発生することが予測されています。しかし、超音波で発見された甲状腺がんの中に極めて頻度は低いですが(100人に1−2人程度と推定されます)、実際に手術が必要てあった症例が混在します。そして、手術が必要だったのが誰なのかは手術してがんを取ってしまったらわからなくなります。つまり、集団で考えればほとんどの例が過剰診断であると言えますが、個人個人で考えれば全員が過剰診断でない可能性をわずかながら残すので、特定の個人が自分が過剰診断であることを主張するのは無理があるのです。この点でも医療過誤として扱うのは困難です。簡単に言えば、当たる確率が非常に高い宝くじを持っている人が、結果が発表される前に「俺は当たってるから金よこせ!」と言っているのと同じことになってしまうのです。、

Q3.過剰診断で引き起こされた過剰治療は医療過誤なの? 

A3. 医療過誤ではない。

 過剰診断である可能性が高いと思われるがんが見つかった場合でも、その後はガイドラインに従って粛々と治療が進められます。ただし、このガイドラインはあくまで若年者に比較して圧倒的に経過の悪い大人の甲状腺がんのデータを元にして作成されたもので、子どもや若者の甲状腺がんの治療指針としては不完全なものであり、必然的に過剰な治療となります。しかし、現状これしかない以上、現場の医師はこのガイドラインから外れた治療をすることはできません。すなわち、彼らには過剰な治療を止める権限が無いので医療過誤にはなりえないのです。A2,A3でお分かりのように、過剰診断の恐ろしさは、いったん発生してしまうと対象者を守る術がなく、一方的に害を被る状況に置かれてしまうということになります。

Q4.がんを見つけてしまっても診断しただけで治療しなければ問題ないのでは? 

A4. 見つけてしまったがんを治療せずに置いておくのは非常に困難。

 韓国で発生した甲状腺がんの過剰診断は超音波検査の数が減ったことで収束に向かいました。しかし、超音波検査数と手術数の比は変化していません。すなわち、過剰診断がはっきりとわかった現時点でもがんと診断された患者のほとんどが手術を受けているのです。大人でもこのような状況ですので、ましてやこれから50年、60年と生きていかなければならない子どもが、がんの不安に耐えつつ延々と経過観察を繰り返すのははなはだ困難であろうと思われます。


大阪大学医学系研究科甲状腺腫瘍研究チーム:ホームへ戻る