ふぁっつ・にゅう

 


この画面は学会、メール等での質問に対応するためのページです。特に「最近、何か面白いことはありませんか?」と挨拶のように訊かれるので、「What new?」としてまとめました。ここの更新はできるだけ頻回にするよう努力する予定です(すみません。うそついてました。暇があったら更新します。)


 

                     若年者の甲状腺癌をどう扱うか

 韓国で講演してきました。芽細胞発癌説に対する韓国の研究者の反応は、熱狂的に歓迎してくれる方、全く興味を示さない方の2群にきれいに分かれていました。1人からは「あなたの講演を聴くまでは癌と胎児性細胞との関連について一度も考えたことがなかった。」と言われました。韓国の甲状腺の研究者の多くがアメリカ留学経験を持っており、アメリカのある意味先鋭的な多段階発癌説の強烈な信奉者となって帰国します。韓国の甲状腺癌の過剰診療の問題は誤った科学理論の盲信が背景にあると私は考えています。 しかし、他国のことばかり心配していられません。福島県民健康調査が開始されてから日本では若年者の甲状腺癌の数が極端に増加しており、国際的な注目を集めています。福島県民健康調査のデータを見て気づいたのは、検出されている癌の平均は1.5cmで決して小さいものではないですが、おそらく超音波検査をせずに見つけるのは困難であるという程度の大きさであることです。放射線の影響ではなくあくまで自然経過でこれほど高頻度で未成年の甲状腺癌が存在するとすると、そのほとんどはその後は触診等では検出できないレベルで成長を止め、成長を止めないごく一部の癌が今まで未成年の癌として見つかっていたということになります。隈病院の伊藤康弘先生の微小乳頭癌の経過観察のデータがこれを裏付けます。微小乳頭癌は40歳以下ではかなり増大(といっても所詮甲状腺癌ですのでスピードは極端に遅いですが)しますが、それ以降は成長を止めてしまいます。これは実際の患者でもしばしば経験することで、私の診ている子供の患者は来院時に既に遠隔転移や再発をきたしているのですが、放射線治療などしつつ経過を見ているとしばしば頸部リンパ節転移等が治療もしていないのに自然に消失します。ちなみに、もうかれこれ25年も診療していますが、未成年で受診された患者での死亡された方は誰もいません。
これらの状況を合わせて考えると、若年者の甲状腺癌は発生するとおそらく20−30代までは比較的速く成長しますが、かなりの症例が成長を止めたり、自然に退縮したりしているのではないかと考えられます。 実際にそうかどうかは福島県民健康調査がさらに年数を重ね、隈病院の微小乳頭癌の観察データと重なる年齢まで継続したら確定的になります。しかし、韓国の状況を見ると学問的には興味があってもそれが福島の子供たちのためになるかどうかは疑問が残ります。 現在は大人の基準を未成年にそのまま適応して診療していますが、髄様癌を除いて若年者の甲状腺癌の手術はもっと抑制的に行うべきではないでしょうか(ただし、放射線治療は非常に良く効くのでむしろ大人より積極的にすべきです)。このあたりの考え方も多段階発癌説を信じるか、芽細胞発癌説を信じるかで変わってきます。若年者の癌が最初は大人しくても遺伝子変異の蓄積で将来的に悪性化すると信じる多段階発癌説であれば癌を予防的に切除するのは正当化されます。しかし、若年者の癌が高分化な胎児性細胞に由来するself limitingな根の浅い癌であるとする芽細胞発癌説の立場からは少なくとも明らかな転移が検出されなければ手術は控えた方が良いのではないかと考えたくなります。多段階発癌説を信じるか、芽細胞発癌説を信じるかが福島の子供たちの運命を決めます。


大阪大学医学系研究科甲状腺腫瘍研究チーム:ホームへ戻る