ふぁっつ・にゅう

 

                      多段階発癌VS芽細胞発癌VS癌幹細胞説

  5月26日の日本内分泌外科学会総会の講演を聞きに来ていただきました先生方、ありがとうございました。特別講演にも関わらず、講演後大いに議論になったので私の講演を初めて聞かれた方はびっくりされたかもしれませんが、私の講演はいつもあんな感じで学会によってはもっとすごいです。白熱したバトルを楽しみに聞きに来られる方も多いですので、これに懲りずにまた機会がありましたら聞きに来て下さい。ある方に言われたことがあるのですが、私の講演は最初聞くと、「この人宇宙人か?」と思うらしいです。2回目に聞くと少しわかった気になる、3回聞くと初めて納得するらしいです。ちなみに3回聞いてわからなったら多分ずっとわからないだろうな、とのことです。
 特に臨床家の先生方にとっては芽細胞発癌というのは非常にわかりにくい。良性のものが悪性化していく、と考える方がイメージとしてとらえやすいのだと思います。非常に面白い現象があるのですが、臨床系の先生方に講演すると「そんなばかなことがあるか!」とお叱りをうけます。ところが、基礎系の先生方の前で講演すると「当たり前のことを自分が発見したみたいに偉そうに言うな!(とは直接言われませんが意訳するとそういうことです)」とやはりお叱りを受けます。どちらにしてもお叱りをうけるという損な立場ですが両者が混在した状態で講演したらどうなるんだろう、と興味は尽きません。基礎研究をしている研究者で古典的な多段階発癌を唱えている人はほとんどいなくなりました。あえて挙げるとアメリカのYuri Nikiforovくらいではないでしょうか。多くの方がご存じのとおり、近年、多段階発癌説では説明できないエビデンスが臨床側からも出てきて、多段階発癌説を唱えるにしてもそれに合わせて何らかの改良が必要でしょう。このあたりの論点を学会で一度1個1個整理して、甲状腺癌という存在がそもそも何者なのかということを考える企画があると非常に有意義だと思うのですが、未だにそのような企画は実現していません。分子解析に詳しく、かつ、多段階発癌説をサポートしますよ、と積極的に言ってくれる研究者が国内にいないことが理由の1つです。Thyroid Cancer Exploreという雑誌の最新号で多段階発癌VS芽細胞発癌の企画がありましたが、あれは著者がめいめい勝手なことを述べているだけで、論点の整理ができていません。 
 この2つとは別に、癌幹細胞説を甲状腺癌の発生機序として語る研究者が増えてきています。これはある意味蝙蝠みたいなやっかいな説で、見方によって多段階発癌にも見え、芽細胞発癌にも見えます。私の感覚では、多段階発癌説に限界を感じているけれど芽細胞発癌まで踏み込めない研究者がこの説を重要視しているように思います。
 というわけで、最近の国際誌では甲状腺癌の発生機序をレビューするときは多段階発癌VS芽細胞発癌VS癌幹細胞説と書かれているものが多いです。私の予測では、Nikiforovが唱えているような多段階発癌説は今後姿を消し、癌幹細胞説とミックスしたような説に変化するのではないかと思います。


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