ふぁっつ・にゅう

 

          福島県民健康調査2巡目の謎
  
  福島県民健康調査の2巡目の結果は、2つの点において多くの専門家にとって予想外であったと思われます。1点目が高精度スクリーニングによって先行調査ですべて拾い上げたはずだった甲状腺癌が再び多数検出されたこと、2点目が先行調査で結節が全く見つからなかった症例にも手術適応となるような癌が発見され、成長が遅いはずの甲状腺癌が2年間という短い期間で成長していたと思われることです。前者についてはすでにこのHPでも何回か説明しています。若年型の甲状腺癌は15歳から30代にかけて急速に頻度が増加しますので、検診対象者の年齢がその世代に近づいたためということで十分に理解できます。後者ですが、実はこれも臨床的なエビデンスを先入観なく見たら不思議でもなんでもないのです。ヒントとなるのは微小乳頭癌の経過観察のデータです。このデータでは1cm程度の微小乳頭癌は10年単位でしか増えません。従って、子供のころに発生していないと間に合わないという結論となるのですが、20−30代の若年者でもたいして増えていません。1cmになるためにはどこかで増えないといけないわけですが、そうすると発生初期の段階(おそらく10代)で急速に増えていると推測できます。同じことが高齢者でも起こっていて、若年型の癌の成れの果てと思われる高齢者の1cm程度の微小乳頭癌は全く増大しません。これに対して、高齢者で突然発生する患者を癌死させる高齢型の癌は最初に見つかるときはすでに微小乳頭癌の範疇を超え、サイズが1cmを超えています。したがって、高齢型もその発生初期では1cm程度まではかなり急速に増大していることになります。実際私自身年間1000例以上の甲状腺超音波検査をしていますが、たとえば5mm程度の癌が次に見たときは1cmになっていた、という例は1例も経験していません。逆に1.5cmだったのが2cmになっていた、というのは時々あります。このことも甲状腺癌はその発生初期では1cm程度まではかなり急速に増大していることを裏付けます。まとめると、甲状腺癌はまず10歳代に若年型が急速に増大します。しかし、これらは増殖能に限界があるので中高年では増殖のペースが極端に遅くなります。高齢者では高齢型が発生しますが、これも急速に増大します。全体的にみると、甲状腺癌は若年者と高齢者で活発に増大しているように見えるのです。甲状腺の専門医が「甲状腺癌は成長が遅い」という先入観を持っているのは、中年で高頻度に見られる若年型の成れの果てを見ているからです。甲状腺癌は実は増えるべきところでは他の癌と同じようにしっかり増大しているのです。多段階発癌説を信じたままであるとこの解釈が理解できません。多段階発癌説では若年型と高齢型を連続した1つのものとしてみており、子供のころに出た癌が年々悪性化して患者を殺す、という解釈をしています。従って、子供のころに急速に増大している、というデータを見たときに、どうして子供のころに増えているのが中年で成長を止めて、また高齢者で増えだすんだろう?と訳が分からなくなるのです。このデータを見て「福島の甲状腺癌は予想外のものだ、放射線の影響かもしれない。」と言っておられる方もいるようです。本当に多段階発癌説の弊害は大きい。芽細胞発癌説では何の疑問もない事実をを多段階発癌説という無理な仮定に当てはめることで無用な混乱を生んでいるのです。
(ここに記載している論点は最新の論文で読むことができます。Natural History of Thyroid Cancer Enodcr J Free PDF: https://www.jstage.jst.go.jp/article/endocrj/64/3/64_EJ17-0026/_article)



大阪大学医学系研究科甲状腺腫瘍研究チーム:ホームへ戻る