日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業

研究プロジェクト概要

複合領域 「生体の計測と制御」

超音波診断と治療の革新的基礎技術の開発

グループリーダ 大阪大学大学院 医学系研究科 堀 正ニ

 

 

1. 研究の目的

 医療において超音波診断は必須の検査法となったが技術的挑戦は立ち遅れており、新しい疾患概念の提案に結びつくような従来の常識的限界を打ち破る医療技術の開発が望まれている。

本研究グループでは1.[信号処理技術のブレイクスルー]球面波音源や開口合成法の利用及び生体組織特性を考慮した信号処理系を駆使した画像診断法の開発、2.[3次元超解像技術による診断法]超音波検波法の改良による画素情報の高密度化に加えて超音波三次元画像の解像力と処理速度の飛躍的向上による画像情報を高度に利用できる環境の研究、3.[新しい超音波治療技術]ドラッグ・デリバリー・システム開発や低出力超音波の細胞機能と細胞周期調節に対する効果の検討など超音波エネルギーによる治療応用の可能性の研究というサブテーマに基づいて研究を進め、医療と工学における革新的技術の開発を目的としている。

これらの3テーマは、学術的には最先端超音波医用工学技術の開拓と臨床医学における新しいモダリティの提供であり、社会的に非侵襲診断と治療での「医療の高品質化」と「医療費の低減」をもたらすものと期待できる。

2.研究内容

[信号処理技術のブレイクスルー]

球面超音波による開口合成法の研究 - 超音波による生体内計測は医療の現場で幅広く応用されている。血管壁の肥厚や血栓、塞栓などの血管病変を超音波によって計測できれば治療に役立つが、血管という狭い空間での計測には超音波振動子の小型化が必要であり、超音波ビーム走査方式の限界により現状では満足な性能が得られていない。これを解決するために開口合成技術を応用した球面波による超音波計測を提案し、実際に装置を試作して血管内3次元計測の実現を目指している。

超解像超音波送受信の数学的研究 - 高速度超音波断層像と非侵襲的連続血圧計で、従来は不可能であった動脈硬化を検出する機能的組織診断を目標にする。動脈硬化によって引き起こされる疾患の予防には、動脈壁の形態的変化前に診断することが必要であると考えた。動脈硬化は弾性変化を引き起こし、さらには運動変化につながる。ゆえに動脈の運動解析が動脈硬化の診断になると考えた。そこで動脈硬化を詳細に機能的見地から診断する力学的・統計学的解析手法の開発を行っている。

 

[3次元超解像技術による診断法]

超音波組織診断法の開発 - 超音波反射波の空間的強度変化を用いて臓器の輪郭を描出していたのが従来の超音波検査法であるが、反射波強度の絶対値を計測することで、組織構築を推定することができる。更に周波数分析などの信号解析手法を導入し超音波が反射・散乱時に受けるひずみを解析することで超音波反射体である生体組織の性質を非接触に評価することができる。これらの情報を画像化することで診断に結びつく画像診断法の提供を目指している。

3次元超音波診断法の開発 - 従来からの3次元技法を応用した現存の3次元超音波は、処理が繁雑で3次元画像を得るまでの時間がかかりすぎるため、臨床現場でうまく機能していない。本研究は超音波特有の性質を利用して、超音波独特の3次元映像法を開発し、高速で簡便な3次元超音波診断装置を実現しようとするものである。これにより胎児診断の向上、さらにリアルタイム3次元超音波ガイド下胎児手術など、胎児医療の新しい道も開けるものと期待される。

 

[新しい超音波治療技術]

細胞増殖・機能に対する超音波の効果の研究 - これまで超音波は生体に全く安全であるという誤った認識から超音波エネルギーの生物学的効果は無視されてきた。現実には超音波照射は細胞に多彩な影響を与え、これを制御することで情報伝達物質やタンパク合成誘導物質の細胞内導入や発現を促し、これまでの投薬治療では困難であった細胞機能の精密な制御手段を開発研究している。

超音波によるマイクロカプセルDrug Delivery System (DDS)の開発 - 時間的・空間的に薬物放出制御の自由度が高く、さらに薬剤の分布状況や濃度の実時間観測が可能であり、物理学的設計であるために薬物適合範囲が広く、超音波を使うため安全性が高いという医療用として望ましい性質をもつ、超音波によって生体外から観察・制御が可能なマイクロマシン的選択的薬物送達系(DDS)を開発している。

 

 

3. 研究の体制等

本研究グループは多分野にまたがる分担研究者で構成され、非常に学際的であることが特徴である。大阪大学大学院 医学系研究科病態情報内科学講座、奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科像情報処理学講座、 同 先端科学技術研究調査センター、東京大学大学院 医学系研究科医用生体工学講座、 同 工学系研究科計数工学専攻、名城大学理工学部数学教室、愛媛大学医学部附属病院医療情報部、鈴鹿医療科学大学 医用工学部電子工学科に所属する研究者らが研究に参加している。