胎児超音波3次元像の現状

  • (いま何が見えるか)

馬場一憲

東京大学大学院医学系研究科医用生体工学講座

  • はじめに

 わが国においては、95%以上の産婦人科病医院にお いて超音波診断装置が用いら

れ、胎児診断に重要な役割を果たしている 1)。しかし、得られるのは断層像であり、これから立体的な胎児の形 態を診断するには相当の熟練が要求され、見逃される異常も少なくない。3次元像は、断層像では見つけにくい 胎児の異常を明瞭に描出できるものと期待されるが、X線CTやMRIは、胎児に対する安全性の問題やキャパ シティの問題から全胎児を対象とするスクリーニング検査に用いることは困難である。そこで、注目されるのが 胎児に対する安全性がほぼ確立している超音波による3次元像である。

胎児の超音波3次元像が最初に発表されたのは、わずか 十数年前である2)。当時は、大きなコンピュータを用いても3次元像を構築するのに数分を要していたため、臨 床現場で用いることは困難であった。しかし、その後の電子工学を中心とする工学技術の急速な進歩に支えられ、 3次元像構築用のコンピュータを内蔵した超音波診断装置も出現し、一般臨床でも超音波3次元像が応用可能な 時代になった。

  • 3次元超音波の種類

現在、超音波の3次元像を得る方法には、コンピュータ 処理による方法、拡散音響

レンズ法、リアルタイム超音波ビームトレーシング法の 3つがある3)。このうち、写実的な胎児3次元像を提供できるのは、コンピュータ処理による方法とリアルタイ ム超音波ビームトレーシング法の2つであるが、我々は処理の高速性、臨床現場で使用する場合の簡便性、3次 元像の写実性などの理由から後者のリアルタイム超音波ビームトレーシング法(以下、RT超音波BT法)に注 目している。この方法は、超音波による画像構築の特異性を有用に活用し、3次元像構築の処理をリアルタイム に行いうる方法で、3次元超音波の歴史の中でも新しい方法である 4)。

  • RT超音波BT法による3次元超音波

図1にRT超音波BT法によって得られた子宮内胎児の 超音波像を示す。左が一般に胎児診断に用いられている断層像、右が3次元像である。断層像を理解するのは容 易ではないが、3次元像を見れば、胎児が左を向いてしゃがみこむような姿勢をしていることが分かる。RT

超音波BT法は、コンピュータグラフィックスでいうと ころのシェーディング(陰影付け)の処理を行わないにもかかわらず、胎児を立体感のある3次元像として高速 に描出することができる。図2は、妊娠5ヶ月の胎児の3次元像である。この時期は皮膚が薄いため骨が透けて 見えてしまっているが、踊りを踊っているような恰好をしていることが分かる。断層像では、このような胎児の 恰好はほとんど判断することができない。胎児は子宮内で、様々な動きを行う。図3は、胎児があくびをするよ うに一瞬口を大きく開けたところを捉えた3次元像である。RT超音波BT法は、画像構築を高速に、かつ連続 して何回でも行いうるため、このような胎児の一瞬の動きも捉えることができる。

  • 3次元像の臨床的意義 

超音波3次元像は、胎児の形態異常の診断、特に顔、四 肢、骨格の異常など、断層像では見逃されやすい異常の診断や多胎児の位置関係の把握などに有用である。胎児 を3次元的に表示するということは、胎児異常の診断という医学的意義だけでなく、生まれる前の児の写真を妊 婦さんやその家族に提供できるという社会的意義も小さくない。胎児の3次元像を見た母親は、胎児をより親密 に感じることができ、親としての自覚の高まりや出世後の良い母子関係の確立に役立つとする研究もある。

図1〜3の3次元像を得るための走査には約4秒をかけ ている。超音波が生体内を伝わる速度が遅いためである。 走査時間を短縮しようとすると、1つの3次元像を構築するための超音波ビームの数を減らすか、走査範囲を狭

図1 妊娠後期の胎児超音波像。左が断層像。右がRT 超音波BT法による3次元超音波で得られた3次元像。


めなければならない。前者では3次元像が荒くなってし まい、後者では表示される範囲が狭まるため全体的な形態の把握が困難になってしまう。図1〜3程度の範囲を 観察しようとすると、臨床的に許容される像の荒さからは、毎秒1〜2枚程度の3次元像を得るのが限界である。 しかし、超音波ビームの並列受信などの新しい高度な技術により、この限界を乗り越えてさらなる高速化、さら にリアルタイム化ができるものと考えられる。3次元超音波のリアルタイム化は、胎児の形態だけでなく、「胎児 行動」という精神・神経・運動などの複合的機能発達に関わる未知なる情報を得る手段を獲得するということを 意味する。胎児行動というのは胎児の機能発達やその障害の診断に役立つだけでなく、学問的にも非常に興味が 持たれている分野である。また、リアルタイム化された3次元超音波は、超音波ガイド下に行いうる様々な胎児 治療・手術における無侵襲的な目としての応用も期待される。

参考文献

1) 馬場一憲. 超音波像による産婦人科の飛躍, 永井書店(大阪), 1992.

2) Baba K, et al. Development of the system for ultrasonic fetal 3D

reconstruction. Acta Obst Gynaec Jpn. 38: 1385, 1986.

3) Baba K. Development of 3D ultrasound in obstetrics and gynecology:

Technical aspects and possibilities. In Merz E. ed. 3-D Ultrasound in

Obstetrics and Gynecology, Lippincott Williams &Wilkins (Philadelphia,

USA).

3-8, 1998.

4) Baba K, et al. Real-time processable 3D fetal ultrasound. Lancet.

348(9037): 1307, 1996.

図2 妊娠5ヶ月の胎児の3次元像。妊娠週数が早いた め、皮膚が透けて骨が見えて

いる。

図3 RT超音波BT法によって、一瞬の胎児のあくび 様運動を捉えた像。