800mW/cm2 (SPTA)であった。この条件で90秒までの照射では培養細胞の剥離は見られなかった。超音波の照 射時間を変化させたところ、照射時間20秒までは著しい変化が見られなかったが、照射時間30秒以上では遺 伝子導入効率の向上が認められた。

図2. 超音波照射時間によるreporter gene発現量(相対的生物発光量 Relative Light Unit0)の変化

  • 【新しい超音波治療技術】
  • 細胞増殖・機能に対する超音波効果

近藤寛也、増山 理、堀 正ニ

大阪大学大学院 医学系研究科

1. はじめに

超音波画像診断を施行するにあたって、超音波は生体 を透過し全く影響を与えないと信じられてきた。しかし一方では細胞や組織の破砕にも用いられており超音 波が全く生体に影響を与えないとは考え難い。診断に用いられるレベルの超音波強度では組織や臓器を障害 したとする報告は見られないものの、マイクロカプセルを崩壊させるのには十分であり、生体組織にも何ら かの影響を及ぼしていると考えられる。本研究ではこの低エネルギーレベル超音波の生体に与える影響を解 明し、超音波の照射により生体機能を制御する手法を開発することを目標としている。

2. 細胞内物質導入への応用

超音波の照射は対象物に対して様々な物理的影響を与 え得ると考えられるが、局所の周期的圧力変化により特に膜構造に対して何らかの影響を与えていると期待 できる。そこで、超音波照射によるリポソーム(DOPE liposome)の細胞内遺伝子導入(トランスフェクション)効率の変化について検討を行なった。Myoblastで あるC2C12細胞株に対してホタルルシフェラーゼ遺伝子をレポータとして導入した。C2C12細胞はスチロール樹 脂製培養皿上で培養し、トランスフェクション時に培養皿底面より超音波を照射した(図1)。

図1. 培養皿底面からの超音波の照射

導入遺伝子の発現はトランスフェクション48時間後に ルシフェラーゼ発光反応を用いて計測した。照射した超音波は周波数1MHzの連続波であり、強度は培地内で

リポソームによる遺伝子導入には細胞膜のfluid mosaicモデルから考えられるように、物理学的機序による過程と、リポソーム自身が細胞融合促進物質であ るため細胞膜構成成分の代謝回転と同様にエンドサイトーシスによる取込過程が考えられている。超音波に よる遺伝子導入効率の変化においても、これらの過程のどちらかもしくは双方に影響を与えている可能性が 考えられる。

超音波の照射が細胞膜の構築に与える影響を検討する ため、超音波照射による細胞膜透過性変化について検討を行った。細胞膜は脂質によって構築されているた め、生細胞は通常脂溶性色素では染色可能であるが、親水性色素では細胞膜を透過しないため染色できない。 液体培地に親水性蛍光色素である臭化エチジウムを溶解し、同一条件で超音波の照射を行なったところ、超 音波照射後5秒より一部の細胞が染色されはじめ、超音波照射により細胞膜の物質透過性が直ちに亢進するこ とが明らかとなった。超音波に対する暴露時間を1分間とした場合、20mW/cm2 (SPTA)以上の超音波強度においてこの物質透過性の亢進が認められた。

  • 3. 超音波照射の直接作用

 培養細胞系において低レベル超音波照射(>20mW/cm2 SPTA)が細胞膜に対して影響を与えていることがこれまでの検討で明らかとなった。細胞膜には機械刺激受 容体など様々なレセプターが局在すると考えられているため、低レベル超音波照射が何らかの受容体を介し てまたは直接細胞内小器官や機能タンパクに影響を与 えている可能性も考えられる。

 ストレス応答タンパクは様々な刺激においてその発 現が誘導されることが知られている。このストレス応答タンパクのmRNAの誘導について検討した。それぞれ のタンパクのmRNA量はノーザンブロット及び定量的PCR法にて測定し、GAPDHのmRNA量にて補正を行なっ た。その結果ストレス応答タンパクであるHeat Shock Protein 72 inducible, Heat Shock Protein 27, αCrystallinのm-RNA量が超音波照射後30分で被爆量に応じて変化しており、超音波照射によりストレス応答 の誘導がみられ遺伝子発現にも影響を及ぼしていることが明らかとなった。

 さらに超音波照射後の細胞増殖や細胞周期制御に与 える影響を検討するため、核酸合成の指標となる臭化デオキシウリジン取込み量の超音波照射による変化に ついて検討した。臭化デオキシウリジンを蛍光色素に

よりラベルし超音波照射48時間後の蛍光を非照射群と 比較すると、照射群は非照射群に比して有意に臭化デオキシウリジン取込みが多く、細胞分裂や核酸合成が 活発であることが示唆された。

  • 4. おわりに

培養細胞に対して超音波の与える影響を検討した結果、 通常の画像診断に用いられている程度の低エネルギー暴露においても、細胞機能を変化させうることが明ら かとなった。しかしそのメカニズムや生物学的意義は明らかではない。これらの超音波照射の影響は細胞膜 などの超音波感受性の高い構造領域の機能変化やシグナル変化が関与していると考えられる。今後本研究は、 膜タンパク、接着因子、細胞骨格などの構成要素に注目して超音波刺激による物理的かつ生物学的応答を明 らかにして細胞機能制御の手法として用い得る技術の確立を目指す。

 

図3. 超音波照射による蛍光色素の透過

上段は超音波非照射、下段は5秒間照射中央部の超音波 振動子に接触している部分に蛍光が見られる。(左側パネルは中央部の拡大)




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