大阪大学大学院医学系研究科
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分子病態生化学
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Department of Molecular Biology and Biochemistry, Graduate School of Medicine, Osaka University
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上皮細胞におけるWntの極性分泌制御

Wntの脂質修飾と分泌

Wntは小胞体やゴルジ体において脂質や糖鎖の翻訳後修飾を受け、機能発現が制御されています。Wntの脂質修飾についてはWnt3aについて解析が進められており、209番のセリンにパルミトレイン酸が付加されることが報告されています(図1)。この脂質修飾されるセリン残基は他のWntファミリーにも保存されており、Wnt3aと同様に脂質修飾されることが示唆されます。事実、私達はβ-カテニン非依存性経路を活性化する代表的なリガンドのWnt5aやWnt11もそれぞれ244番のセリンと215番のセリンにパルミトレイン酸が付加されることを見出しました(図1)。Wntのパルミトレイン酸の付加は小胞体に局在するアシル転移酵素Porcupineによって行なわれています。また、Wntの細胞外分泌に必須であるWntlessとの結合にパルミトレイン酸の付加が必要であり、パルミトレイン酸が付加されないWnt3aやWnt5a、Wnt11変異体はWntlessとの結合能が無く、細胞外に分泌されませんでした。したがいまして、Wntの脂質修飾は細胞外分泌に重要な機能を果たすと考えられます。

Wntの翻訳後修飾
図1.Wntの翻訳後修飾
Wnt3aの209番、Wnt5aの244番、Wnt11の215番のSにはパルミトレイン酸が付加される。また、Wnt3aの87番と298番のNには高マンノース型のN結合型糖鎖が付加され、Wnt5aの114番と326番のNには高マンノース型、312番のNには混成型のN結合型糖鎖が付加される。一方、Wnt11の90番と300番のNには高マンノース型、40番のNには複合型のN結合型糖鎖が付加される。
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Wntの糖鎖修飾と分泌

Wntは繊維芽細胞や血球系細胞の間質細胞に加えて上皮細胞に発現しています。繊維芽細胞を用いた解析から、小胞体からゴルジ体への輸送にTMED5(transmembrane emp24 protein transport containing domain 5)、ゴルジ体から細胞外への輸送にはWntlessが関与することは報告されていますが、詳細な分泌機構は明らかにされていません。一方、極性化された上皮細胞において膜タンパク質や分泌タンパク質がトランスゴルジ網(TGN)から頂端部、あるいは側底部へ異なる機構で選別輸送されます。これまでに、Wntシグナルが細胞極性の制御に重要な機能を果たしていることは示されていますが、Wnt自身が極性化された上皮細胞において頂端部、側底部のいずれに分泌されるかは解析されていませんでした。また、Wntはアスパラギン(N)結合型糖鎖が付加されますが、Wntの糖鎖構造と細胞内輸送との関連は不明です。そこで、私達はWnt3aやWnt5a、Wnt11の糖鎖構造と上皮細胞における極性分泌との関連を解析しました。質量分析法により糖鎖構造を解析した結果、Wnt3aの87番と298番のNに高マンノース型、Wnt5aの114番と326番の高マンノース型、312番のNに混成型、Wnt11の90番と300番のNに高マンノース型、40番のNには複合型糖鎖が付加されていました(図1)。

Wntの翻訳後修飾
図1.Wntの翻訳後修飾
Wnt3aの209番、Wnt5aの244番、Wnt11の215番のSにはパルミトレイン酸が付加される。また、Wnt3aの87番と298番のNには高マンノース型のN結合型糖鎖が付加され、Wnt5aの114番と326番のNには高マンノース型、312番のNには混成型のN結合型糖鎖が付加される。一方、Wnt11の90番と300番のNには高マンノース型、40番のNには複合型のN結合型糖鎖が付加される。

続いて、極性化されたイヌ腎臓上皮由来MDCK細胞においてWntの細胞外分泌を解析した結果、Wnt3aとWnt5aは主として側底部、Wnt11は主として頂端部に分泌されることが明らかになりました(図2、3)。さらに、Wnt3aとWnt5aはWntlessと共にクラスリンとアダプタータンパク質(AP)複合体のAP-1を介してTGNから側底部へ選別輸送されました(図2)。これまでに、細胞膜上でWntを解離したWntlessはクラスリン依存性エンドサイトーシスを介して細胞質に移行した後、レトロマー複合体によってゴルジ体へリサイクルされることが報告されていましたが、Wnt3aの側底部への分泌にはこのWntlessのリサイクル経路が必要でした。一方、クラスリン、ならびにAP-1やAP-2の機能発現を抑制してもWnt11の頂端部への輸送には影響しないことから、Wnt11はWntlessとの複合体形成を介さず、TGNから頂端部へ極性分泌されることが示唆されました。

極性化された上皮細胞において膜タンパク質の頂端部への輸送シグナルの一つにN結合型糖鎖が報告されています。Wnt3aやWnt5aとWnt11の糖鎖修飾の違いを考えると、Wnt11のN末端側に付加される複合型糖鎖が極性分泌に関連すると考えられました。そこで、極生化されたMDCK細胞において複合型糖鎖修飾を抑制し、高マンノース型のみの糖鎖修飾にするとWnt11の頂端部への極性分泌が抑制されました。さらに、Wnt11のN40を含むN末端領域 (1-52アミノ酸)をWnt3aのC末端領域(50-352アミノ酸)に融合させたWnt11/3aのキメラタンパク質はWnt11と同様にN40には複合型糖鎖が付加され、その結果、Wnt11/3aは極性化されたMDCK細胞において頂端部へ分泌されました。同様にWnt3aやWnt5aのN末端側に糖鎖修飾部位を挿入したWnt3aL35NとWnt5aL68Nはいずれも複合型糖鎖が付加され、頂端部へ分泌されました。すなわち、Wnt11の極性分泌において、N末端側に複合型糖鎖が付加されると側底部よりも頂端部への輸送シグナルが優位に働き、Wntタンパク質が頂端部へ分泌されると考えられます。

これまでに、複合型糖鎖が付加されたタンパク質の細胞内輸送を制御する分子としてガラクトースと結合するガレクチンが報告されています。ガレクチンとWnt11の極性分泌の関連を解析したところ、ガレクチン3の発現を抑制するとWnt11の頂端部への極性分泌が抑制されました。したがいまして、TGNから遊離したWnt11を含む小胞はガレクチン3が含まれるエンドソームに融合した後、Wnt11がガレクチン3に結合することにより、頂端部へ分泌されると考えられます(図3)。しかし、Wnt11がTGNからガレクチン3が含まれるエンドソームに輸送される機構は不明であり、ガレクチン3やWnt11を含むエンドソームにおいてWnt11の極性輸送を制御する分子を同定し、上皮細胞におけるWnt11の分泌制御の全貌を明らかにしたいと考えています。

上皮細胞におけるWnt3aとWnt5aの極性分泌の制御
図2.上皮細胞におけるWnt3aとWnt5aの極性分泌の制御
小胞体においてWnt3aとWnt5aは糖鎖修飾とPorcupineによるパルミトレイン酸の脂質修飾を受ける。TMED5によって小胞体からゴルジ体へ輸送されたWnt3aとWnt5aはTGNにおいてWntlessと共にクラスリン/AP-1を介して側底部へ選別輸送され、細胞外に分泌される。一方、細胞膜上でWntを解離したWntlessはクラスリン依存性エンドサイトーシスを介して細胞質に移行した後、レトロマー複合体によってゴルジ体へ輸送される。
上皮細胞におけるWnt11の極性分泌の制御
図3.上皮細胞におけるWnt11の極性分泌の制御
小胞体においてWnt11は糖鎖修飾とPorcupineによるパルミトレイン酸の脂質修飾を受ける。TMED5によって小胞体からゴルジ体へ輸送されたWnt11はさらにN結合型糖鎖のプロセシングを受け、40番のNの糖鎖は複合型に変換される。TGNにおいてWnt11はWntless非依存性に頂端部に選別輸送され、Wnt11が取り込まれた小胞はガレクチン3が存在する小胞に融合した後、細胞外に分泌される。
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Wnt受容体の極性輸送

Wntシグナルの選択的活性化は7回膜貫通型受容体のFrizzled(Fz)と一回膜貫通型受容体のLRP6やRor2、Rykの組み合わせによって決定されます。LRP6はWnt3aに結合しβ-カテニン経路を活性化し、Ror2とRykはそれぞれWnt5aとWnt11に結合しβ-カテニン非依存性経路を活性化しますが、上皮細胞におけるWnt受容体の極性輸送については明らかにされていません。そこで、極性化されたMDCK細胞においてWnt受容体の輸送経路について解析しました。その結果、Fz2やLRP6、Ror2は側底側に局在し、Fz7やRykは頂端部、側底部の両者に局在しました。また、Wntlessの発現抑制によってWnt受容体の極性輸送には影響しませんが、クラスリンやAP-1の発現抑制によってFz2やRor2、LRP6の側底部への輸送が抑制されました(図1)。これはWntとその受容体は別々の小胞によって側底部へ輸送され、細胞膜への輸送時に両者の結合によるWntシグナル活性化が誘導されないためと考えられます。また、Wnt3aやWnt5aを頂端部から作用させてもWntシグナルは活性化されませんが、側底側から刺激するとWntシグナルが活性化されました。したがって、WntとWnt受容体が極性化上皮細胞の同じ領域に輸送されることにより、効率よくWntシグナルが活性化されると考えられます。

上皮細胞におけるWnt受容体の極性輸送の制御
図1.上皮細胞におけるWnt受容体の極性輸送の制御
7回膜貫通型受容体のFz2とその共役受容体のLRP6やRor2はクラスリン/AP-1を介して側底部へ極性輸送される。一方、これらのWnt受容体はWntless非依存性に側底部へ極性輸送されることから、Wntとその受容体は別々の小胞によって側底部へ輸送される。Wnt リガンドとWnt受容体を同じ側底部に輸送することにより、効率よくWntシグナルが活性化される。
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