研究・業績

脳循環グループ

佐々木先生写真

脳卒中は我が国の国民病であり、現在でも毎年約12万人のかたが亡くなられ、約200万人の患者さんがおられます。また高齢者寝たきりの原因の約4割は脳卒中であり、脳卒中対策には予防、急性期治療、慢性期対策のいずれもが重要です。

当研究室(神経内科脳循環研究室)では、脳卒中を予防、治療することを目的として診療、研究、教育活動を行い、我が国における脳卒中研究、診療をリードしてきています。病棟および外来では脳卒中センターの主要部門として急性期脳卒中患者さんの診療を積極的に行っています。とくに急性期脳梗塞症例では組織プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)の静脈内投与による血栓溶解療法を担当し、tPAにより血管再開通の得られなかった症例や発症3時間以後の症例に対しても血管内治療を用いた血行再建治療を、脳神経外科と共に積極的に行っています。脳梗塞の病型診断病因の解明、治療効果判定にCT、MRI以外に頸動脈超音波検査経頭蓋超音波ドプラ血流検査、経食道超音波検査を行い詳細な診断を行い、それに基づいた治療手段を選択しています。また頸動脈ステント留置術など血行再建療法の適応の判定には脳血管造影検査 脳血流SPECT,PET検査を行い患者さんに最善の医療を提供できるようにしています。また当研究室では局所血栓溶解療法 頸動脈ステント留置術など血管内治療に携わる脳神経血管内治療専門医資格を有する内科医も多く存在し、大学関連施設で活躍中です。

当研究室のルーツは額田忠篤先生が脈管研究室を開始したところにあります。その後木村和文先生、松本昌泰先生がグループリーダーとして研究室を引き継がれ、日本における脳卒中研究、診療を40年以上にわたってリードしてきています。研究室OBには、多数の教授、病院長、脳卒中内科部長がおられます。その後、臓器別編成が進む中で神経内科脳循環研究室となり、現在研究室員15名で、引き続き脳卒中研究および臨床に励んでいます。

佐々木 勉

研究紹介

本研究室においては 脳卒中に関する基礎研究と臨床研究を行っています。基礎研究は 脳梗塞の基礎病態である脳虚血病態を解明し、あらたな治療手段 の開発を目指しています。脳とくに神経細胞は虚血に脆弱な細胞ですが、前もって軽度の虚血負荷を加えておくと内在性に保護機構を発動し、より重度の虚血に 対する耐性を獲得することを見い出し 虚血耐性と名付けて報告しました。さらに神経細胞ではどのような内在性保護機構が発動するのかを検討したところ転写 因子CREBの活性化が神経細胞保護作用の発揮に重要であり その活性化機構を明らかにして2011年Neuron誌に発表しました。また脳虚血に伴う脳 血管内皮機能不全、脳側副血行路に注目した研究も行いその成果を国際脳卒中会議で口演発表するとともに論文発表も行ってきました。

脳卒中の臨床研究では 脳卒中ハイリスク患者選別のためのサロゲートマーカーとして頸動脈内中膜肥厚(IMT)、無症候性脳梗塞を活用し、外来通院 患者を対象とした前向き調査研究を2001年からOSACA2研究として開始し、現在1200例以上の患者さんが登録 追跡されています。脳血管病変の成 因として炎症機転に注目し 高感度CRP、インターロイキン6などのバイオマーカーと脳血管イベント、頸動脈プラーク輝度、脳細動脈病変との関連を検討し てきています。最近論文発表された主な研究成果を以下に記載していますのでご参照してください。

脳虚血時のTORC1-CREB経路を介した神経保護機転の解明/佐々木 勉

転写因子CREBは空間認知・記憶などの脳の高次機能において非常に重要な役割を果たすとともに、神経変性疾患、脳虚血においては、その標的因子を介した細胞生存シグナルとして機能します。CREB調節機構においては、そのSer133リン酸化が標的因子の転写開始には必要であることに加えて、CREB特異的coactivatorであるCRTC familyのうちCRTC1が脳内で高発現しています。塩誘導性キナーゼ2(SIK2)はCREBを介した遺伝子発現を抑制しています。今回我々は、大脳皮質神経細胞において、脳虚血時にはCa2+/calmodulin-dependent protein kinase(CaMK)1/4の活性化により、SIK2が分解され、TORC1-CREBを介して下流の神経保護因子の発現を誘導する新規シグナル経路を同定しました。またこの経路は、NMDA NR2Aサブタイプ活性化、シナプス刺激時の内因性保護シグナルにおいても重要であることを示しました。

SIK2 is a key regulator for neuronal survival after ischemia via TORC1-CREB.
Sasaki T, et al. Neuron. 2011;69:106-19.

シロスタゾールは高血圧自然発症ラットにおける内皮機能を保護し虚血性脳障害を減弱する/大山 直紀

アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬は脳梗塞二次予防のfirst line薬として使われています。近年、シロスタゾールがアスピリンと同等の脳梗塞二次予防効果を示し、さらに出血性合併症については有意に抑制することがわかってきました。私たちは、シロスタゾールに抗血小板効果だけでなく血管内皮機能保護効果があるとの仮説をたて、内皮機能のマーカーの一つである内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の機能を中心に仮説の検証を行いました。以前私たちは、加齢とともに徐々に血圧が上昇する高血圧自然発症ラットにおいて、血圧上昇と並行して脳血管のeNOS機能が低下し、虚血性脳障害が増悪することを報告しました(Oyama N, et al. J Neurosci Res. 2010; 88: 2889-2898)。

そこで、血圧上昇開始時期から血圧が上昇するまでの1か月間、このラットにシロスタゾールあるいはアスピリンを混ぜた餌と何も混ぜない餌を投与し、 各々のラットにおいて、脳血管におけるeNOS機能や虚血時の残存脳血流、虚血後の脳梗塞サイズを比較しました。シロスタゾールを投与したラット脳血管に おけるリン酸化eNOS蛋白量は、無投薬のラットに比べて有意に増加しており、eNOS依存性の脳血流反応性も改善していました。さらに、虚血時の脳血流 は明らかに増加し、虚血後の脳梗塞サイズも縮小していました。これらの効果はアスピリンには認められなかったことから、シロスタゾールが高血圧から血管内 皮機能を保護することで虚血性脳障害を減弱したものと考えられました。

Cilostazol, not aspirin, reduces ischemic brain injury via endothelial protection in spontaneously hypertensive rats.
Oyama N, et al. Stroke 2011; in press.

G-CSFはマウス虚血性脳卒中モデルで側副血管の発達を促進し、虚血性脳障害を軽減する/杉山 幸生

虚血性脳血管障害において、側副血管の発達(Arteriogenesis)を促進することができれば有効な治療法となります。Granulocyte-macrophage colony-stimulating factor(GM-CSF)は、Arteriogenesisを促進し虚血性脳障害を軽減することが報告されましたが、その臨床試験は安全性に疑問を呈する結果でした。今回我々は、その他のCSFが、側副血管の発達を促進し脳保護効果を発揮するか調べました。マウスの左総頸動脈(CCA)を閉塞し(CCAO)、その直後よりG(granulocyte)-CSF、M(macrophage)-CSFあるいはGM-CSFを投与しました。結果は、G-CSFはGM-CSF同様にCCA閉塞後の脳軟膜動脈吻合の発達を促進しました(図)。またCCA閉塞後に同側の中大脳動脈を閉塞した結果、GM-CSF同様G-CSFは梗塞体積を減少しました。M-CSFにこうした効果はみられませんでした。G-CSFは、本邦では既に血液疾患の患者さんに臨床使用されていますが、脳卒中患者さんに投与しても安全であることが報告されています。G-CSFのArteriogenesis促進効果を目的とした臨床応用が期待されますが、更なる基礎実験による検討が必要と考えています。

Granulocyte Colony-Stimulating Factor Enhances Arteriogenesis and Ameliorates Cerebral Damage in a Mouse Model of Ischemic Stroke.
Sugiyama Y, et al. Stroke. 2011;42:770-775.

心血管病新規発症と炎症マーカーおよび頸動脈内中膜複合体肥厚の関連/岡崎 周平

近年、動脈硬化の進展に炎症が密接に関与していることが明らかになってきています(右上図)。また頸動脈エコーで測定される頸動脈内膜の肥厚 (IMT) が心血管病発症と強く関連していることも複数の研究で報告されています。

今回、我々は動脈硬化のハイリスク患者において心血管病発症と炎症マーカーおよびIMTの関連について検討しました。我々が2001年より行ってい る前向きコホート研究であるOSACA2(The Osaka Follow-up Study for Carotid Atherosclerosis, Part 2) Study登録患者770名を対象とし、登録時の血清高感度CRP、インターロイキン(IL)-6、IL-18および頸動脈エコーによるIMT値を測定 し、心血管病(脳卒中、心筋梗塞、一過性脳虚血発作、不安定狭心症、心血管死)の新規発症について追跡調査を行いました。

平均追跡期間は4.3年で、心血管病の新規発症は104例に認められました。単変量解析では全ての炎症マーカーで心血管病発症との関連が認められま したが、既知の動脈硬化危険因子およびIMTで補正するとIL-6のみで有意な関連が認められました(IL-6低値に対するIL-6高値の危険率 1.87; 95%信頼区間 1.20-2.93)。また、IL-6とIMTを併用することで心血管病新規発症の予測能は向上しました(右下図)。

今回の検討から、血清IL-6高値は動脈硬化のハイリスク患者において将来の心血管病発症の独立した危険因子であり、心血管病リスクの層別化におい てIL-6とIMTの併用が有用であることが示されました。

Association of inflammatory markers and carotid intima-media thickness with the risk of cardiovascular events in high-risk patients.
Okazaki S, et al. Cerebrovasc Dis. 2010;30:180-7.

脳微小出血(CMB)と血清炎症マーカーの関連について/三輪 佳織

脳微小出血(cerebral microbleeds, CMB)は頭部MRI gradient echo(GRE) T2*強調画像で認められる小さな円状の低信号であり、病理所見では小血管周囲にヘモジデリンを含んだマクロファージの集塊などが認められます。CMBは 高血圧や脳卒中の患者に多く認めるだけでなく、正常高齢者にも認められ、脳小血管病(small vessel disease)のひとつと考えられています。

一方、近年、動脈硬化の進展・破綻に炎症機序の関与が考えられ、複数の縦断研究において、血清炎症マーカーの高値は将来の心筋梗塞、脳梗塞の発症の 危険予測因子であることが指摘されています。さらに、血清炎症マーカーはsmall vessel diseaseであるラクナ梗塞や白質病変との関連も指摘されていますが、これまでCMBとの関連は明らかではありませんでした。本研究では前向きコホー ト研究であるOSACA2の対象者の中から、脳卒中、TIAの既往歴のない無症候性患者431人を対象にCMBの有無と血清炎症マーカー(hsCRP、 IL6、IL18)との関連を検討しました。CMBを認める群では、CMBを認めない群と比較して、いずれの血清炎症マーカー値も高値でした(図)。多重 ロジステイック回帰分析では、hsCRP、 IL6、 IL18の各1SD上昇の変化はCMBの存在に対し、年齢、性別、動脈硬化危険因子、eGFR、無症候性ラクナ梗塞、白質病変やIMTで調節しても、有意 な正の相関をみとめました(Odds比 [95%信頼区間], hsCRP:1.81 [1.35-2.46], IL-6:1.73 [1.18-2.61], IL-18:2.41 [1.44-4.52])。また部位別の検討でも、deep, lobar CMBのいずれも、各炎症マーカーと有意な関連をみとめました。この研究により、CMBにおいても炎症機転が関与していることが示唆されました。

Relations of Blood Inflammatory Marker Levels with Cerebral Microbleeds.
Miwa K, et al. Stroke. 2011;42:3202-6.

メンバー紹介

  • 佐々木 勉 講師 平成7年卒
  • 神経内科・脳卒中科 病棟医長
  • 大阪労災病院、国立病院機構大阪南医療センターで勤務
  • 医学博士、総合内科専門医、神経内科専門医、脳卒中専門医
  • 藤堂 謙一 助教 平成9年卒
  • 大阪労災病院、国立病院機構大阪南医療センター、国立循環器病センター、神戸市立医療センター中央市民病院で勤務
  • 医学博士、総合内科専門医、神経内科専門医、脳卒中専門医、脳神経血管内治療専門医、日本脳卒中学会評議員
  • 岡崎 周平 助教 平成14年卒 大阪大学
  • 国立病院機構大阪医療センター、国立循環器病研究センターで勤務
  • ドイツ ハイデルベルク大学医学部マンハイム校に研究留学
  • 医学博士、総合内科専門医・指導医、神経内科専門医・指導医、脳卒中専門医
  • 神吉秀明 平成19年卒
  • 国立病院機構大阪医療センター、国立循環器病研究センターで勤務
  • 認定内科医、神経内科専門医、脳卒中専門医
  • 村瀬翔 大学院生 平成20年卒
  • 淀川キリスト教病院、神戸市立医療センター中央市民病院で勤務
  • 認定内科医、神経内科専門医、日本脳神経血管内治療専門医、日本医師会認定産業医
  • 東田京子 大学院生 平成21年卒
  • 洛和会音羽病院、神戸市立医療センター中央市民病院、国立循環器病研究センターで勤務
    認定内科医、神経内科専門医、脳神経血管内治療専門医
  • 木村陽子 大学院生 平成22年卒
  • 国立病院機構大阪医療センターで勤務
    認定内科医
  • 渡邊光太郎 大学院生 平成22年卒
  • 国立病院機構大阪南医療センターで勤務
    認定内科医
  • 北野貴也 大学院生 平成24年卒
  • 大阪府立急性期総合医療センター、川崎医科大学脳血管医学で勤務

最近の業績

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