大阪大学大学院医学系研究科疼痛医学寄附講座

研究内容

当講座の研究は

  • 痛みの苦しみからの解放
  • 痛みと関連した障害を取り除く
  • 周りの人たちや社会への影響を減らす

という医療の原点とも言うべき「痛み」という症状を対象としています。

「痛み」があることはつらく苦しいことですし、「痛み」による影響は個人に対しても社会全体に対しても大きいので、多くの医療者や研究者は「何とかしたい」と思います。しかし、「痛み」は、常に主観的な体験であり、完全に客観化することは不可能なので、研究の対象としては不向きな面があります。そこで我々は、痛み治療の経験を基に知恵を絞り、さまざまな仮説を立てて一つずつ検証し、それらの結果を基に「医療において痛みを有する患者さんに何が必要か?」を考えてきました。

「痛み」の研究は、遺伝子レベルから社会学にいたるまで、非常に幅広い分野から成り立ちます。当講座は、医療分野だけにとどまらず、工学、経済学、心理学など幅広い領域の研究者と協力して研究を進めています。痛みの研究に興味のある方、自分の得意分野を生かしたいとお考えの方がおられましたら、是非一度連絡してください。当講座では、平成27年度からの博士課程大学院生を募集しています。また、他の施設に所属の方で痛みに関する共同研究に興味のある方もご連絡をお待ちしております。


各研究の概要

当講座では、平成22年に厚労省から出された「慢性の痛みに対する検討会からの提言」に基づき、疫学、実験心理学(心理物理、生理心理)、脳機能画像、の3つの分野で研究を進めています。

痛みの疫学的研究

痛みの疫学的研究では「社会において痛みがどのくらい大きな問題なのか」を明らかにします。

産業界の慢性痛によるコストの実態調査
産業界で痛みによるコストがどの程度のものなのかを明らかにする計画です。

痛みセンター診療価値尺度の作成
集学的アプローチを実践する痛みセンターで診療する価値のある患者を明確にするための研究です。

本邦のペインクリニック診療の実態調査
わが国のペインクリニックの診療実態を調査します。


痛みの脳機能画像研究

Discovery_MR750_product_right.jpg痛みの脳機能画像研究では、将来痛みの評価法としてfMRIをはじめとする脳機能画像を応用し、痛みの経験に関する脳部位を治療のターゲットとして利用することを目標として、「さまざまな痛みに脳のどのような領域が関与しているのか」を調べています。

resting-state fMRI (rs-fMRI) を用いた中枢機能障害性痛患者における自発脳活動ネットワークの研究
CRPSや線維筋痛症、幻肢痛など中枢神経機能の異常が関与していると考えられている痛みの患者さんで、複数の脳部位間で見られる安静時の同期的自発性脳活動が健康成人に比べてどのように変化しているかを、fMRIを用いて明らかにする研究です。

DMN&TNN.pngResting-state fMRIで同定されたdefault mode network (DMN) と、同じ被験者で認知課題 (2-back task) 遂行時に活動が低下した脳部位。DMNは安静時に活動が上昇する脳部位であり、このDMNの異常はさまざまな精神・神経疾患と関係していると考えられています。また、DMNの異常は痛みの分野でも注目されており、当講座においてもDMNの異常とCRPSや繊維筋痛症などの中枢機能障害性疼痛との関連を調べています。



慢性疼痛患者の rs-fMRIデータ収集プロジェクト “Project PINK”
関西の5大学(大阪大学、神戸大学、兵庫医大、滋賀医大、和歌山医大)の麻酔科が協力して、ペインクリニックで診療している慢性痛患者を対象にrs-fMRIを実施して多数のデータを収集し、慢性疼痛のbiomarkerを探索しようとするプロジェクトです。将来的には、国際的データ共有プロジェクトにおいて、データを公開する予定です。ちなみに、プロジェクト名の “PINK” は、 “Pain Imaging Network in Kansai” の略です。

さまざまな痛み刺激に対する脳活動の検討
与えられる部位や性質の異なる痛み刺激を用いて、さまざまな種類の痛み刺激に対する脳の反応を検討しています。これまでに、圧刺激で生じる筋由来の痛みと皮膚由来の痛みに対する脳活動を比較した研究や、人工的に筋肉痛を発症させて運動で生じる筋肉の痛みを感じている際に起こる脳活動を明らかにしました。


痛みの実験心理学的研究

痛みがどのような心理過程と関与しているのかを健康成人やCRPS症例を対象に研究しています。

恐怖条件づけを用いた運動に伴う痛みへの恐怖に対する研究
IMG_0343.JPG運動器の慢性疼痛では、患者が痛みを避けるために体を動かさなくなることが、痛みを悪化させると考えられています。このような運動と痛みへの恐怖の結び付けがどのような認知機構によって生じるのか、またどのような方法によって運動と痛みへの恐怖の結び付けを効率的に解消することができるのかを、生理心理学的手法を用いて研究しています。

CRPS患者における空間認知機能の異常に関する脳波を用いた研究
CRPS患者では、不動化や身体失認などの運動機能障害が見られることがあります。このような運動機能の障害が、どのようなメカニズムで生じているのかを、脳波を用いて研究しています。



集学的診療体制の確立・有効性の評価

慢性痛の診療は生物心理社会モデルに基づいた集学的診療がふさわしいとされています。しかし、日本では、そのような診療体制はまだ整備されていません。そこで、大阪大学医学部附属病院を含む全国19の大学病院が中心となって「痛みセンター設立事業」をおこない、日本における慢性痛の集学的診療体制の整備を進めています。

愛知医大牛田享宏教授を代表者とする厚生労働省の科学研究「慢性の痛み対策研究事業」
慢性痛評価法の標準化とリハビリ療法士・臨床心理士との集学的診療

【連携機関】
甲南女子大学看護リハビリテーション学部
大阪大学大学院医学系研究科人間科学部
大阪保険医療大学

リハビリテーションクリニックと連携した慢性痛患者に対する運動療法と認知行動療法の実施

【連携機関】
篤友会リハビリテーションクリニック
田辺整形外科上本町クリニック
行岡病院 

厚生労働省の科学研究「慢性の痛み解明研究事業」
認知行動療法の普及

【連携機関】
国立精神・神経センター
NPO法人 いたみ医学研究情報センター
大阪大学大学院人間科学研究科/人間科学部
大阪大学大学院医学系研究科生体機能補完医学講座

治療の反応性を予測するための評価法の開発

【連携機関】
大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学
大阪大学大学院人間科学研究科/人間科学部


主な研究業績

  1. Matuda Y, Kan S, Uematsu H, Shibata M, Fujino Y: Pain-related brain activity evoked by active and dynamic arm movement: delayed-onset muscle soreness as a promising model for studying movement-related pain in humans. Pain Med. 2015 Apr 30. doi: 10.1111/pme.12771.
  2. Adachi T, Nakae A, Maruo T, Shi K, Shibata M, Maeda L, Saitoh Y, Sasaki J: Validation of the Japanese Version of the Pain Self-Efficacy Questionnaire in Japanese Patients with Chronic Pain. Pain Med. 2014 Apr 9. doi: 10.1111/pme.12446.,2014
  3. Tsuji M, Yasuda T, Kaneto H, Matsuoka TA, Hirose T, Kawamori R, Iseki M, Shimomura I, Shibata M: Painful diabetic neuropathy in Japanese diabetic patients is common but underrecognized. Pain Res Treat 2013:318352,2013
  4. Uematsu H, Shibata M, Miyauchi S, Mashimo T: Brain imaging of mechanically induced muscle versus cutaneous pain. Neurosci Res 70:78-84,2011
  5. Maeda L, Ono M, Koyama T, Oshiro Y, Sumitani M, Mashimo T, Shibata M: Human brain activity associated with painful mechanical stimulation to muscle and bone. J Anesth 25:523-530,2011
  6. Sumitani M, Shibata M, Sakaue G, Mashimo T: Development of comprehensive diagnostic criteria for complex regional pain syndrome in the Japanese population. Pain 150:243-249,2010
  7. Uematsu H, Sumitani M, Yozu A, Otake Y, Shibata M, Mashimo T, Miyauchi S: Complex regional pain syndrome (CRPS) impairs visuospatial perception,whereas post-herpetic neuralgia does not: possible implications for supraspinal mechanism of CRPS. Ann Acad Med Singapore 38:931-936,2009
  8. Sumitani M, Miyauchi S, McCabe CS, Shibata M, Maeda L, Saitoh Y, Tashiro T, Mashimo T: Mirror visual feedback alleviates deafferentation pain, depending on qualitative aspects of the pain: a preliminary report. Rheumatology (Oxford) 47:1038-1043,2008
  9. Sumitani M, Rossetti Y, Shibata M, Matsuda Y, Sakaue G, Inoue T, Mashimo T, Miyauchi S: Prism adaptation to optical deviation alleviates pathologic pain. Neurology 68:128-133,2007
  10. 前田 吉樹、寒 重之、大城 宜哲、宮内 哲、柴田 政彦: 自発的運動でおこる痛みの恐怖条件付け 皮膚電位反応(SPR)による検証. 臨床神経生理学 40:515,2012
  11. 前田 吉樹、寒 重之、大城 宜哲、宮内 哲、中江 文, Seymour Ben、柏岡 秀紀、柴田 政彦: 教示は運動に伴う痛みの恐怖条件付けの消去に強く影響する. PAIN RESEARCH 29:114,2014
  12. 寒 重之、大城 宜哲、高島 千敬、田中 壽、渡邉 嘉之、小野田 慶一、山口 修平、柴田 政彦: 中枢機能障害性疼痛患者における自発脳活動ネットワークのresting-state fMRIによる検討. PAIN RESEARCH 29:130,2014
  13. 高橋 紀代、西上 智彦、柴田 政彦、坂本 知三郎: 慢性疼痛患者に対する集学的診療における運動療法の効果とリハビリテーション科医師の役割. The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 51:S264,2014
  14. 西上 智彦、山田 恵子、史 賢林、高橋 紀代、柴田 政彦: 慢性疼痛患者に対する集学的診療によって判断する運動療法の適応について. 日本慢性疼痛学会プログラム・抄録集 68,2014
  15. 橋本 亮太、水野 泰行、柴田 政彦: 線維筋痛症に対する心理的アプローチ. Practice of Pain Management 5:72-80,2014
  16. 加藤 直樹、高木 啓至、高島 千敬、橋田 剛一、佐藤 睦美、坂井 孝司、柴田 政彦: CRPS患者の関節可動域改善に関与する因子の検討. Journal of Musculoskeletal Pain Research 5:S82,2013
  17. 寒 重之、大城 宜哲、高島 千敬、田中 壽、渡邉 嘉之、小野田 慶一、山口 修平、柴田 政彦: 機能性疼痛障害患者におけるresting-state networkの検討. Journal of Musculoskeletal Pain Research 5:S23,2013
  18. 圓尾 知之、中江 文、前田 倫、史 賢林、モリス・シェイン、高橋 香代子、横江 勝、清水 豪士、柴田 政彦、齋藤 洋一: 痛みの評価尺度Short-Form McGill Pain Questionnaire 2(SF-MPQ-2)の日本語版作成とその信頼性・妥当性の検討. 臨床神経生理学 41:436,2013
  19. 柴田 政彦、植松 弘進、溝渕 敦子、中江 文、松田 陽一、藤野 裕士、齋藤 洋一: 難治性疼痛患者の診療. 日本ペインクリニック学会誌 20:209,2013


研究助成

日本医療研究開発機構 (AMED)

研究分担者
平成27年「複合性局所疼痛症候群 (CRPS) の汎用的で客観的な重症度評価技術の開発」

厚生労働省

研究代表者
平成23~25年「痛みに関する研究と情報提供システムの構築に関する研究」
平成26~28年「慢性痛に対する認知行動療法の普及と効果解明に関する研究」
研究分担者
平成17~19年「CRPSの診断基準作成と治療法に関する研究」
平成21~23年「脊髄障害性疼痛症候群の実態の把握と病態の解明に関する研究」 
平成22~24年「難治性慢性疼痛の実態と病態の解明に関する研究」
平成25~26年「慢性の痛み診療の基盤となる情報の集約とより高度な診療の為の医療システム構築に関する研究」
研究協力者
平成26~28年「痛みの慢性化プロセスを特徴づける脳活動可塑性機構の解明」

文部科学省

平成23~25年「脳機能画像を用いた運動時痛の解明と治療法の開発」
平成26~28年「CRPS患者の運動障害における脳機能異常」
平成27~29年「運動と痛みの結びつけにおける認知・神経メカニズムの解明」

その他

日本損害保険協会
平成23~25年
「外傷後の痛みの慢性化に着目した新しい運動療法の開発/情動に伴う脳活動の視覚的フィードバックを用いた画期的な治療法」
平成24年
「不眠と慢性疼痛の相互作用の基盤としての脳内機能的結合ネットワークにおける異常・障害に関する脳機能画像研究」
鈴木謙三記念医科学応用研究財団
平成24年
「機能的核磁気共鳴画像法 (fMRI)を用いた下行性疼痛抑制系機能に関する評価法の確立」