大薗教授

2011年春、教授室からメッセージを送ります。

 この度の東北関東大震災にあたり被災された方々に心からお見舞い申し上げます。一日も早く、皆様の心身の傷が癒える事と日本の社会の復興を願っております。阪大小児科も医療面での貢献を少しでもさせていただきたいと活動しております。

 さて、21世紀も10年を経過し、教授に就任してから10年目を迎える今年、今考えています事をお伝えしたいと思います。キーワードは、未来志向、ボーダレス、仲間です。

 「未来」を想像するとき、バラ色の幸せ満ちた社会を思い浮かべるより、暗く行き詰まったような社会を想像するのが、日本ではいつしか普通のことになりました。経済の落ち込み、人口の減少などで、下り坂の雰囲気があるからでしょう。学問の分野で言えば、日本からの医学系の論文発表が減少し、海外留学する人の数も減っています。しかし、このような暗い未来予想図が正しいという根拠はなく、いつの時代でも、一般的あるいは多数を占めるという意見ほど当てにならないものはありません。周囲の雰囲気に惑わされる事なく、自分の足下をしっかり固め、遠くを見つめる視線を持てば、明るい未来が開けてきます。小児科は、限りない可能性を持った小児に関わっていますので、本質的に未来志向の分野です。目の前の患児の病気を治すだけでなく、その子の未来を開く手助けをするのが小児科医です。「小児医療は未来医療」です。病棟には笑顔があふれています。そこには希望があります。ぜひ、一緒に小児診療を行い、小児科学を発展させましょう。間違いなく、阪大小児科には皆さんの前向きな姿勢を支えるパワーがあります。

 少し、阪大小児科医局の紹介をさせていただきます。大学の医局という言葉は、ずいぶんとイメージが悪くなり、私自身もまるで「名前を言ってはいけないあの人」のように、口に出すのをためらっておりました。この理由の一つとして、2004年に行われた初期研修の必須化と言う制度改革の一つの目的として、大学医局制度の解体が謳われ、大学医局を中心とした初期研修は時代おくれのように宣伝されたことがあげられます。実際、初期研修を行う場所として大学を選んでいた人がそれまで大多数であったのが、少数派となり、ほとんどの大学病院では研修医が定員数に達しません。しかし、研修の中身が浸透するに従って、大学での研修を選択する人も増え、何より、小児科医となるときに、大学に相談に来る人の数も増えております。阪大小児科は優れた実績と伝統を持ち、その一員となることに誇りを持っていただける組織であると自負しております。阪大小児科には40名程度の小児科専門医がいて、専門性の高い診療と研修を行っています。また、優れた研究ができることに魅力を感じる人も増えています。実際、現在でも毎年約10名の小児科医が入局しており、大学の優れた点を評価する医師は減少しているわけではありません。さらに、阪大病院で後期研修をされた方が引き続き大学において専門性を磨く確率が極めて高いことからも、阪大小児科の活動が高く評価されているものと考えています。研修制度の改革においては、医局のマイナス面ばかりが強調されていましたが、一人前の医師になるにはいろいろと困難に直面します。それを乗り越えるためにも、きめ細かい指導と励ましが必要で、多数の仲間がいる医局はその精神的なよりどころとなります。阪大小児科医局は、変革する時代に対応するのみならず、将来を見通す眼を持っており、若い医師が自分を磨いて成熟していくのに最適な集団です。医局はヒエラルキー構造ではなく、同じ志を有する仲間の集まりであることを強調したいと思います。

 若い人へのメッセージです。通常、物事を考えるのにあたり、ある特性を物差しとして他と区別をつけながら考えていくことが行われます。日本と世界、男と女、老人と若者、common disease とrare disease、等々、それぞれの特徴を頭に思い浮かべて仕分けしていきます。しかし、このような線引きは、柔軟な発想を阻害し、枠にとらわれた思考をもたらすリスクがあります。あなたが感じる制限あるいは窮屈さは、自分の心の中にある垣根によることが往々にしてあります。CNNのキャッチコピーではありませんが、 Go beyond borders, 境界を軽々と超えていく翼を持ちましょう。

 少し理屈っぽい教授がいるかもしれませんが、愛にあふれていますので、ともに歩んでみませんか。

平成23年4月
大薗恵一