アクセス トップページ

当科の紹介 患者の皆様へ 医療関係の皆様へ 研究紹介 自主臨床研究
学生および研修医の皆様へ
| 研究紹介 > 学位記 > 木村武司 |

 

Limited immunogenicity of human induced pluripotent stem cell-derived cartilages.

木村 武司
医学系研究科 情報統合医学 小児科学専攻
Tissue Engineering Part A, 22(23-24): 1367-1375, 2016

〔目 的(Purpose)〕 

 関節軟骨は再生能が乏しい組織であり、一旦傷つくと自然に治癒することが困難である。日本では自己培養軟骨細胞を移植することで傷ついた軟骨を修復する治療が既に実用化されているが、採取と移植の2度の手術が必要で得られる組織も限られていることが課題である。軟骨は免疫原性が低く拒絶反応を起こし難い組織であり、海外では小児ドナーから採取された軟骨を用いた同種他家移植も行われている。移植に当たって免疫抑制の必要はなく既に7000例以上に移植され良好な成績が報告されているが、ドナー数は限られている。そこで今回、我々はヒトiPS細胞由来の軟骨が新しい移植用の細胞/組織の供給源となり得るかどうか評価するために、ヒトiPS細胞由来軟骨細胞や組織の免疫原性について解析を行った。

〔方法ならびに成績(Methods/Results)〕

 ヒトiPS細胞から軟骨組織(hiPS-Carts)を誘導し、そこから細胞外マトリックスを取り除いた細胞の部分(hiPS-Chon)を分離した。比較として、ヒトの軟骨組織を取り出して培養した細胞(hPC)をもちいて、免疫原性について検討を行った。
 まず主要な免疫反応の元となるHLAの発現についてフローサイトメトリー、免疫組織化学、qRT-PCRでそれぞれ調べた。すると、体中の多くの細胞に発現しているHLA-ABCは、hiPS-Chonではあまり発現しておらず、免疫細胞に主に発現しているHLA-DRDPDQについても発現していなかった。
 実際に移植する際には細胞ではなく、細胞外マトリックスをまとった軟骨組織の状態で移植することを想定している。HLA型が不一致であるhiPS-Carts/hPCとリンパ球と混合しin vitroでリンパ球の増殖反応をフローサイトメトリーとELISAによって検出したところ、hiPS-CartとhPCのどちらにおいてもリンパ球の増殖は惹起されなかった。NK細胞についても共培養後の活性化マーカー(CD69)を解析したが、hiPS-CartsによるNK細胞の活性化は見られなかった。また、軟骨細胞にはリンパ球の増殖反応を抑制する働きがあることがこれまでに報告されており、予め刺激を加えたリンパ球との共培養を行ったところhiPSC-CartsはhPCと同様にリンパ球の増殖を抑制した。

〔総 括(Conclusion)〕

 ヒトiPS細胞から作製した軟骨組織は、形態的にはヒトの体から採取した軟骨組織と類似しているが、移植時の免疫反応についても同程度の低反応性が期待できるかは不明であった。今回の研究成果により、ヒトiPS細胞から作製した軟骨組織は、ヒトの体から採取した軟骨組織と同程度に免疫反応が少ないことが明らかとなった。あくまでin vitroでの成果であり今後動物モデルでの検討も必要であるが、新しい軟骨組織の供給源としてiPS細胞が利用できる可能性が示された。またHLA不一致でも移植することができる可能性があり、今後の幅広い臨床応用が期待できる。

◎本人コメント◎

 私は京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の妻木範行教授の元で指導を受けました。CiRAは言わずと知れた山中伸弥教授が所長を務める、世界から注目を集める研究機関です。当初はおっかなびっくりでしたが、たくさんの方に助けて頂き充実した研究生活を送ることができました。この研究はiPS細胞を用いた軟骨再生医療に関わる成果としてまとめたもので、in vitroでの免疫反応を評価する実験系の構築に苦労しました。最先端の環境で学ぶチャンスを与えてくださった大薗教授をはじめ小児科のスタッフの方々、それからいつも助けて頂いた妻木教授と妻木研メンバーにこの場を借りて御礼申し上げます。今後はもう一つの研究テーマである疾患特異的iPS細胞を用いた研究を進めたいと考えています。