アクセス トップページ

当科の紹介 患者の皆様へ 医療関係の皆様へ 研究紹介 自主臨床研究
学生および研修医の皆様へ
| 研究紹介 > 学位記 > 宮原由起 |

 

Negative feedback loop of cholesterol regulation is impaired in the livers of patients with Alagille syndrome.

宮原 由起
医学系研究科 情報統合医学 小児科学専攻
Clin Chim Acta, 440(2): 49-54, 2015

〔目的〕 

 アラジール症候群(AGS)は、JAG1遺伝子またはNOTCH2遺伝子を責任遺伝子とし、毛細胆管の減少による胆汁うっ滞の他、特異顔貌、椎体異常、心血管系の異常、眼科的異常を複数伴う稀な先天異常症候群である。AGSの特徴的な症状として著しい高コレステロール血症があるが、この病態についてこれまで十分に解明されていない。そこで本症候群における高コレステロール血症をきたす分子学的機序についてAGS患者肝検体を用いて検討を行った。

〔方法ならびに結果〕

 胆汁うっ滞がコレステロール値に寄与しているのかを検討するために、23名のAGS患者の血清コレステロール値と血清胆汁酸値を後方視的に集積した。血清コレステロール値は血清胆汁酸値と有意に正の相関を示し、胆汁うっ滞が高コレステロール血症に関与していることが確認された。
 次に肝移植を受けた5名のAGS患者の肝組織を用いて、肝組織中の胆汁酸とコレステロールの含有量を測定したところ、健常児肝と比較し肝内のコレステロールおよび胆汁酸の含有量は有意に増加していた。肝内コレステロール量を一定に保つためのホメオスタシスのdysregulationが起きていることが示唆されたため、肝細胞におけるコレステロール制御に関わる分子について検討した。LDLR、SR-BⅠ、HMGCR、CYP7A1、ABCA1、ABCG1、ABCG5、ABCG8、LXRαなどについて、定量的リアルタイムPCR解析を行った。成熟型SREBP2についてウエスタンブロット法にて蛋白定量を行った。
 コレステロール合成における律速酵素であるHMGCR、およびコレステロールを血液から細胞内へ取り込むトランスポーターLDLRとSRBⅠの発現レベルは増加し、コレステロールから胆汁酸への異化に必要な酵素であるCYP7A1の発現レベルは有意に低下していた。肝細胞から胆汁中へコレステロールを排出するトランスポーターABCG5およびABCG8、血液中へ排出するトランスポーターABCG1の発現は増加していた。
 これらの制御にかかわる核内レセプターの発現を検討したところ、胆汁酸をリガンドとするFXRはコントロールと比較し発現レベルに差は認めなかったが、その下流にありCYP7A1を負に制御するSHPの発現は増加していた。肝細胞内の酸化コレステロールをリガンドとしABCGsを正に制御するLXRαの発現も増加していた。 これらはいずれも肝細胞内での胆汁酸や酸化コレステロールが増加したために起きた生理的反応と考えられたため、次にHMGCR、LDLRの発現を制御するSREBP2について検討を行った。
 SREBP2はコレステロールを一定に保つための主要な因子である。ER膜上のコレステロールが減少すると、それを感知したSCAPが構造変化をおこし、SREBP2をER膜上にとどめているINSIGと離れ、SCAPがアンカー蛋白としてSREBP2をゴルジ体に運び、SREBP2はそこで切断を受け成熟型蛋白となって標的遺伝子であるHMGCRやLDLRを発現させ、細胞内コレステロール量を一定に保つように働く。AGSの肝内コレステロール含有量はコントロール肝と比較して増加していたが、SREBP2、SCAPのmRNA量は、AGSとコントロール間で発現レベルに差を認めず、成熟型SREBP2の発現レベルも差は認めなかった。

〔総括〕

 AGSの肝内コレステロール含有量は健常児肝と比較して増加していた。これはLDLR、SR-BⅠ、HMGCRの発現増加、CYP7A1の発現低下によることが示唆された。AGS肝ではコレステロール含有量が増加しているにも関わらず成熟型SREBP2は抑制されておらず、このことがコレステロール制御のdysregulationの一因と考えられた。

◎本人コメント◎

 臨床3年目より肝疾患を持つ子供たちの診療に携わってきましたが、この診療の中で生じた疑問の一つに、なぜAlagille症候群では高コレステロール血症をきたすのかというということがありました。これを直接、大学院の研究テーマにでき、患者さんを感じながら研究できたことは臨床医学を志す私にとって幸いなことでありました。成果としては、新たな疑問を生みだしたに過ぎませんが、小さな一石を投じることはできたのではないかと考えています。出産、育児という時間を左右する出来事で一時休学し、復帰を非常に悩んだ時期がありましたが、叱咤激励し続け、復学を後押ししていただいた先生には感謝し尽せません。また大薗教授をはじめご協力、ご助言いただいた先生方にもこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。