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Systematic cellular disease models reveal synergistic interactions of trisomy 21 and GATA1 mutations in hematopoietic abnormalities

坂野 公彦
医学系研究科 情報統合医学 小児科学専攻
Cell Rep, 15(6):1228-1241,2016

〔目的〕 

 ダウン症候群は21 番染色体が3 本あることによって引き起こされる、最も高頻度な染色体異常である。多くの合併症を有するなかで、とくに白血病のリスクが高いことが知られており、ダウン症候群新生児の約10%が一過性骨髄増殖症(TAM; transient abnormality of myelopoiesis)と呼ばれる類白血病状態を呈し、その3-4 割が急性巨核芽球性白血病へと進展する。最近、疾患集団の全ゲノム解析により、X染色体上の転写因子GATA1 の短縮型変異と21 トリソミーの両者が存在することがTAMの病態形成に必要十分であることが報告された。一方で21 番染色体上のどの領域やどの遺伝子が病態発症と関わるのか、またGATA1 変異とどのような相互作用をするのかについては、染色体数や各遺伝子の状態を正確に表す実験モデル系がなかったため、研究が進んでいなかった。
 そこで今回われわれは、ダウン症候群患児由来のヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)とゲノム編集技術という2つの方法を用いることで、TAMの病態発症メカニズムを明らかにすることを目的とした。

〔方法ならびに結果〕

 まず、健常児由来の血球、ダウン症候群患児由来の血球(GATA1遺伝子正常)、そしてTAM発症中のダウン症候群患児由来の芽球(GATA1短縮型変異)に、山中4因子を導入し、それぞれヒトiPS細胞を作製した。さらに、TALEN, CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術を応用し、21 番染色体が2 本(ダイソミー)および3 本(トリソミー)の各々において、GATA1 遺伝子正常、短縮型変異、欠失の3 種類のヒトiPS 細胞を作製し、それらを血球分化させ表現型を比較した。さらに、21番染色体上で推定されていたTAM責任領域(4-Mb領域)やその領域内の単一もしくは複数の遺伝子を、1コピーのみを欠いた部分21トリソミーiPS細胞も同様に作製し、21番染色体やその責任領域・遺伝子が果たす役割や、GATA1短縮型変異との関連について検討した。
(1)21 トリソミー(4-Mb 責任領域の3コピー)は血液前駆細胞を増加させる。
まず、GATA1 正常の3 種類(21ダイソミー・21トリソミー・部分21トリソミー)のiPS 細胞から血球分化して得られるCD43+細胞(血液前駆細胞に相当)は、21トリソミーで有意に増加し、4-Mb 責任領域の欠失(部分21トリソミー)でその効果がキャンセルされることがわかった。
(2)GATA1 短縮型変異は異常巨核球分化(CD34+CD41+細胞)を引き起こす。
次にGATA1 正常、短縮型、欠失の3 者を比較すると、CD34+CD41+という未熟な巨核球の細胞表面マーカーを発現する細胞が、GATA1 短縮型iPS 細胞から有意に産生され、中でも21トリソミーGATA1 短縮型で最も多く産生された。
(3)各血球分化細胞群の遺伝子発現量解析の結果から、 21 トリソミー(4-Mb 責任領域の3コピー)はGATA1 短縮型の発現を増加させること、またレンチウイルスを用いた過剰発現実験にてGATA1 短縮型の発現上昇により異常巨核球CD34+CD41+細胞が増加することがわかった。
(4)以上に加え、より詳細に1つの21番染色体のみ責任遺伝子を単独もしくは複数欠失させたiPS 細胞からの血球分化解析結果に基づき、血液前駆細胞増加の責任候補遺伝子としてRUNX1、GATA1 短縮型の発現量増加の責任候補遺伝子としてERG, ETS2, RUNX1の3 遺伝子を同定した。

〔総括〕

 TAMの病態発症メカニズムにおいて、21番染色体上の4Mb責任領域(特にRUNX1)が3コピーあることが血液前駆細胞数の増加につながり、GATA1短縮型変異があることが異常巨核球の産生を引き起こし、さらに4Mb責任領域(特にERG, ETS2, RUNX1)が3コピーあることがGATA1短縮型の発現増加を引き起こすことがわかった。これらの現象が相乗的に働くことにより、TAMの病態が生じていると考えられた。以上の結果は、遺伝子異常+染色体変化に伴って生じる腫瘍発生の病態解析に広く応用できるものと考えられる。

◎本人コメント◎

 この度は、大薗先生、北畠先生をはじめ、多くの先生方にご指導頂き、本当に有難うございました。この論文は、ダウン症候群のお子さん、そしてそのご両親のご協力があったからこそ完成できた、と言えると思います。ある重症TAMのダウン症候群のお子さんは、残念ながら生後1か月弱で亡くなられました。しかしそのお子さんの血液細胞はiPS細胞になり、TAMの原因の解明に力を与えてくれました。亡くなられて数年後、ご両親にお子さんのiPS細胞を見て頂きました。「細胞の形でずっと生き続けられています。とても綺麗なiPS細胞です」とお伝えしました。顕微鏡をのぞきながら、大変喜んでおられたご両親の姿はこれからも忘れることはないと思います。有難うございました。