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教授挨拶

 大阪大学大学院小児発達医学教室では約3年前より新しい大学院研究制度を発足させました。現在10名たらずの大学院生(医学科卒業以外の方も含まれます)を中心にアクティブな研究活動を行っていますが、以下のような特徴があります。

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1:ベンチワーク中心の大学院研究制度
臨床dutyをできるだけ削減してベンチワーク(実験)に専念できるような環境を作るということを原則としています。
2:研究指導体制の強化
各グループの枠を越えて上級医が大学院生の指導を行っています。加えて、大阪府立母子保健総合医療センター研究所、大阪バイオサイエンス研究所、大阪府立成人病センター等を協力機関として大学院生の研究能力の向上、手技の習得、共同研究の推進を計っております。また、一ヶ月に一度のプログレスミーティングを行い、研究の進捗状況をチェックするとともに、プレゼンスキルの向上に努めております。
3:学術セミナーの充実
大阪小児先進医療研究会等を通じて国内外から一流の講師を招聘し、学術講演会を頻回に催しています。世界のサイエンスの最先端が身近に感じられる環境を整えることでグローバルな視野を持った研究者の育成を目指しています。

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“臨床研究を主体とする大学院生”とは?

 一方、当教室は臨床教室であり、臨床研究による社会貢献も使命であると考えられます。しかしながら、近年臨床研究の分野では、evidence-based medicineが当然とされ、研究が大規模となり、いかに質の良いevidenceを作るかが中心課題であります。すなわち、臨床研究にも多くの努力を割く必要がありますが、このためにも大学院生のパワーが求められます。前述の実験を主体とする大学院生とは異なり、病棟、外来で診療を行いながら、prospective clinical studyおよびtranslational researchを推進する大学院生を必要としています。大阪大学は大学院大学であり、充実した大学院教育が特色のひとつとなります。臨床を中心とした医師でありたいと考えている人もこの新しい大学院制度の下で、大学院生として力を発揮しませんか?
 当教室ではこのように基礎研究と臨床研究の両方に重点を置きながら小児医学の発展に寄与していきたいと願っております。そしてこのような大学院制度はこの目的を遂行するための主要な取り組みであります。基礎/臨床研究に少しでも興味のあるかたは、より詳しい内容について大薗あるいは各グループチーフまでお気軽にお問い合わせください。なお、大学院の入学申し込みは、7月と12月の年2回となっております。

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大学院および医学博士について

 一人前の医師となるよう教え、育てるという広い意味の教育は、大学のみならず臨床現場でも行われています。主として臨床現場で行われる実践をともなう教育を研修と呼んでいますが、研修も教育の一環です。研修を重ねて、当該領域で必要な医療が行える能力を有するかどうかの指標として、専門医制度があります。これは多くの場合、当該領域の専門家から構成される学会が認定するものです。平成16年度に導入された初期研修の必須化に伴い、専門医指向と呼ばれる専門医資格を取得することを第一目標とする若い医師の傾向が強まっています。

 一方、従来、医師のキャリアップの目標として、医学博士の獲得があります。これは、大学院に入学して研究を行って獲得する課程博士と、一定の基準の研究歴と論文作成により獲得する論文博士にわけられます。医学博士を獲得することが何のためか分からないことを揶揄して、「足の裏の米粒のようなもの」、そのこころは取らないと気持ちが悪いなどとよく言われます。また、臨床系の大学院においては、しばしば大学院生が大学の臨床現場においての活動を主体としてきたので、「ただ働き」というような批判もあります。このような昔の雰囲気の反動でしょうか、医学博士(学位)より、専門医と最近よく言われるようになっています。

 でも本当でしょうか?本当に医学博士を獲得することは価値のないことなのでしょうか?大学院は、学部を卒業後、更なる高度な学問、研究を行う場であり、いわゆる最高学府です。ここで、学部教育と大学院教育の違いを考えてみましょう。学部教育は、医学部においては職業訓練の意味もあって、医師としての知識を身につけることが優先されます。勿論、考える力をつけることも大事で、鑑別診断等は高度な頭脳の使い方を要求されます。しかし、あくまでも既成の知識体系の上に成り立つものです。一方、大学院教育は、something new を見いだすための訓練の場で、従来の知識体系の先に何らかの新しいものを付け加えることが要求されます。すなわち、未知なるものを探求する研究と言う観点から考えると最高学府としての大学院は、学部教育と全く別次元のものと捉える必要があります。

 では、something new を見いだすことがそれほど大切なことなのでしょうか?ここでは分かりやすく、臨床現場でおこる例を考えましょう。例えば今日の医療で尊重されるのは標準治療で、そのための道しるべが、種々の疾患の治療ガイドラインです。治療ガイドラインは、一応エビデンスに基づいていますが、あくまでも、治療ガイドライン作成時点でのエビデンスです。医学医療は日進月歩なので、新しいエビデンスが示され、およそ2-5年ごとに治療ガイドラインは書き換えられなくてはいけません。このような状況を考えると、明らかに現在の治療ガイドラインにしがみつくよりも、将来の改訂を予想できるような取り組みが大事ですし、さらに望むなら、改訂のためのエビデンスを得るような姿勢が重要なのです。言い換えるなら、人の示したものに従うだけの人になるのか、より優れたものを提示するように努力する人になるのかということです。

 より優れたものを提示できるには、かなりの能力とシステム化された教育が必要です。従来、大学院教育の内容があいまいであったために誤解に基づく、何の役にも立たない免状であるというような逆宣伝がなされているものと思われます。科学的な討論ができる、論文を正確かつ十分量読むことができる、得られた結果を英語で報告することができる、最新の方法を理解し実験デザインをつくることができる、などなど大学院教育の中ですべきことはたくさんあります。
大学院に関しては、個人のレベルでの考え方と国のレベルでの考え方があり、これも混同してはいけないと思います。国のレベルでいえば、日本は資源小国であり、科学立国をめざすべきでしょう。そのためにはより質の良い大学院制度を確立して人材育成を行う必要があります。すなわち、国の中での最高学府という意味だけでは存在意義はなく、世界に通用する大学院制度でなければなりません。医学の分野で言えば、基礎医学においても高度先進医療においても世界へ情報発信できる必要があります。言い換えれば国際性です。情報発信も情報獲得も英語で行う必要があるでしょう。学会運営でも問題となりますが、抄録を英語でとなると参加が減ります。大学院卒業レベルとしては、英語で専門的な内容のコミュニケーションができるということは必須と思われます。
生命科学の研究をする人は医師のみではありません。むしろ、純粋基礎医学の研究は他学部卒業の人が大勢います。しかし、医学部卒業の人は生命科学の研究において必要です。なぜなら、病気に関する理解が深く、患者への貢献を真剣に考えられるからです。これは大きな利点ですし、motivationにつながります。橋渡し研究や臨床研究となるとmedical doctorとしての資格はさらに威力を発揮することになります。近年、臨床研究の分野では、evidence-based medicineが当然とされ、研究が大規模となり、いかに質の良いevidenceを作るかが中心課題であります。臨床研究において大学院生の役割はますます高くなっていくものと考えられます。

 一部の大学では、社会人大学院と呼ばれる制度を持っています。これは、職業を持ちながら(すなわち医師として大学の外で働きながら)、週末等に研究することができる制度です。十分な指導体制が必要ですが、働きつつという点に魅力を感じる人もおられるかもしれません。
繰り返しになりますが、大学院生になり研究を行い医学博士を得ることは決して無駄ではありません。この過程で得られる科学的な思考の訓練、データを得ることがいかに困難なことであるかという実感、論文が採択された時の喜び、これらすべてがあなたの人生の糧となるはずです。また、得られた結果が多くの人類に幸福をもたらすようなものであれば、これ以上無い喜びとなると思います。知的好奇心旺盛で、チャレンジしたい方、ぜひ、大学院生になって下さい。
(小児科研修ノート、診断と治療社 より抜粋)

大阪大学大学院医学研究科小児科学 大薗恵一