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【1】研究対象となっているカリウムチャネルについて、総論

全ての細胞は細胞膜によって、外界から閉ざされた空間を形成しています。細胞外の電位を基準(0 mV)にすると、通常細胞内は-70 mV - -80 mVになります。この細胞膜を挟んだ電位差を膜電位と呼び、刺激の無い状態の細胞の膜電位を静止膜電位と呼びます。膜電位の形成機構において、細胞内外のイオンの不均衡分布と細胞膜のイオン透過性が重要な役割を果たしています。

細胞は全エネルギーの1/3~1/4を使って、カリウム、ナトリウムイオンの細胞膜を介した濃度勾配を形成しています。これを担っているのはナトリウム―カリウムポンプですが、このポンプの活動の結果、通常細胞内ではカリウムイオンは細胞外に比べて高く、ナトリウムイオンは低く維持されています。細胞膜を介したイオンの濃度勾配は化学ポテンシャルとして考えられ、平衡電位として表されます。ネルンストの式から、カリウム、ナトリウムイオンの平衡電位は各々約-90 mV、+45 mVであると予想されます。カリウム、ナトリウムイオンは電気化学勾配にしたがって拡散しようとします。しかし、細胞膜においてカリウムイオンの透過性がナトリウムイオンのそれよりも大きいため、静止膜電位はカリウムイオンの平衡電位に近い値をとっています。これはカリウムイオンを選択的の透過するチャネルが常に開いていることに由来します。

カリウムイオンを選択的の透過するチャネルをカリウムチャネルと言います。そのため、常に開いているカリウムチャネルは静止膜電位の形成に重要な役割を果たしています。一方で、カリウムチャネルには多数の分子種が存在し、それらは膜電位変化や細胞内外の刺激によって、開閉が調節されています。カリウムチャネルの開口は細胞膜を介したカリウムイオンの透過性が上がることにつながります。そのため、活動電位等の膜電位の上昇(脱分極)の際にカリウムチャネルが開口すると、膜電位はカリウムイオンの平衡電位に近づいてゆきます。そのため、カリウムチャネルの開閉調節は細胞の興奮を制御するわけです。

当研究室ではカリウムチャネルの中でも、主に内向き整流性カリウムチャネルを研究対象としています。以下にあげるのは、その生理的役割です。

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  1. 心臓のリズムを調節するカリウムチャネル
  2. 脳の神経活動を支えるカリウムチャネル
  3. 不整脈を制御するカリウムチャネル
  4. 心臓虚血に機能するカリウムチャネル


内向き整流性カリウム(Kir)チャネルは2つの細胞膜貫通領域と1つのイオン選択性フィルターを持っています。このサブユニットがホモあるいはヘテロ4量体を形成し、機能的なKirチャネルを構成します。
Kirチャネルは、現時点で16種類の分子が知られており、それらは4つのサブファミリーに大別されています。
Kir2.x/IRKx   深い静止膜電位を形成します。
Kir3.x/GIRKx   3量体G蛋白質によって活性が制御され、神経伝達物質依存的に細胞興奮を抑制します。
Kir6.x/KATP   スルフォニルウレア受容体(SUR)と共役し、ATP感受性Kirチャネルを形成します。細胞内代謝活動に対応し、細胞の興奮性を制御します。
Kir1.1/Kir4.x/Kir5.1   電気化学的ポテンシャルに基づき、エネルギーを消費せずにカリウムイオンの輸送を行っています。

これらのKirチャネルは以下にあげる様々な因子によって活性が制御されています。

直接的な蛋白質間相互作用に基づく活性調節
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      (3量体G蛋白質、スルフォニルウレア受容体)

  • 低分子による活性調節
          (ATP、ADP、pH、PI(4,5)2P)
  • 低分子による内向き整流特性の調節
          (Mg2+、ポリアミン)
  • リン酸化による修飾

また、チャネルがその生理機能を発現するためには、
  • 神経細胞における前、後シナプス
  • グリア細胞におけるシナプス周辺や血管周囲
  • 上皮細胞における管腔側、基底側膜
等の、様々な細胞の特殊機能領域に局在化しなければいけません。このようなチャネルの細胞内の位置情報は、蛋白質間相互作用や脂質との連関によって調節されていることが明らかとなってきました。

我々は以下に示すアプローチを用いて、Kirチャネルの生理機能解明に取り組んでいます。
  1. Kirチャネルの生理的役割と各種病態との関連を解明する。
  2. Kirチャネルの活性や細胞内局在を制御する機構を分子レベルで解明する。
  3. 変異チャネルを用いてKirチャネルの構造―機能相関を明らかにする。
  4. Kirチャネルのみならず、他のカリウムチャネルに対する作用薬の作用機序を明らかにし、新しい作用薬の開発そして、治療薬へ応用する。
  5. チャネル活性、細胞内シグナリング等のマイクロスケール、さらに組織、生体レベルのマクロスケールの生命現象を、シミュレーションによって様々な時間、空間レベルで解析し各種薬物の作用機序をin silicoで明らかにする。
  6. X線結晶構造解析によるチャネルの構造と機能連関を解明する。

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