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【3】カリウムチャネルの局在制御

組織や細胞を介したイオン・水の適切な運搬は、正常な臓器機能を保つために不可欠です。高度に分化した回路網を持つ脳などの中枢神経系や網膜などの感覚器では、電気的シグナル伝達の方法としてイオン輸送が中心的役割を果たしており、それに伴う水移動も細胞内外液の恒常性維持に重要です。脳・網膜では、シグナル伝達を担う神経細胞をグリア細胞が強固に取り囲んでいます。中でもその一種である脳アストロサイト・網膜ミュラー細胞(アストログリア細胞)は、多くの突起により神経細胞のシナプスに接しそれを包囲すると共に、一方で“終足:endfeet”と呼ばれる突起を血管周囲や脳軟膜・硝子体直下に延ばしています。これらのアストログリア細胞は、突起を介して、神経細胞の興奮時に細胞外へ放出されるK+を迅速に取込み、血管や脳室・硝子体方向へ放出する機能を持ちます。このK+ の方向性(極性)をもった運搬は、“K+-buffering作用と呼ばれ、神経ネットワークが正常な活動を営むための必須要素の一つです。また、K+などのイオン輸送には浸透圧変化が伴い、更に水の移動が生じます。従って、アストログリア細胞により、水分子はK+と共にシナプス側から脳では血管・脳室側へ、また網膜では硝子体側へと運搬されます。この水輸送は、正常な神経細胞機能の維持のみならず、血流・細胞外液循環のホメオスタシスにも深く関わっています。

以前より、電気生理学的手法で豊富に観察されるアストログリア細胞の内向き整流性K+(inwardlyrectifying K+:Kir)電流が、K+-buffering 作用において重要な役割を果すと指摘されていました。我々や他のグループの研究により、中程度の内向き整流特性を示すKir4.1が、アストログリア細胞のKir電流を形成する中心分子であることが示されています。更に、我々の近年の研究により、一部のKir4.1は、別のKirチャネルKir5.1と複合体を作り機能している可能性が明らかとなってきました。即ち、アストログリア細胞には、Kir4.1のみからなるホモ複合体と、Kir4.1/5.1から構成されるヘテロ複合体の少なくとも2種類のチャネルが存在しています。

これら複合体の分布パターンは、臓器によって異なります。ミュラー細胞では、シナプス周囲突起にKir4.1/5.1のヘテロ複合体のみが局在し、血管周囲突起と終足にKir4.1ホモ複合体が特異的に分布しています。この結果より、ミュラー細胞ではKir4.1/5.1ヘテロ複合体チャネルがK+の取り込みを担い、Kir4.1ホモ複合体チャネルがK+の放出を司ると予想されています。一方で、脳アストロサイトにおいては、血管周囲突起にはKir4.1/5.1へテロ複合体が局在しておりK+の放出に関与し、シナプス周囲突起ではヘテロ複合体と共にKir4.1 のホモ複合体も分布しK+の取り込みに携わると考えられています。

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Kir4.1ホモ複合体チャネルに比べ、Kir4.1/5.1複合体チャネルは細胞内pHによる活性制御が大きく異なるので、このようなKirチャネルの分布の違いは、それぞれのグリア細胞、またそれぞれのシナプス周囲突起におけるK+ buffering actionの制御に深く関わっていると予想されます。すなわち、Kir4.1/5.1複合体チャネルは、上述した通り、生理的な細胞内pH変化(pH 6.5-8)の範囲内において、アルカリ化で活性増大・酸性化で活性減弱が起こるので、ミュラー細胞においては、K+の取込みが細胞内pHにより効果的に制御されており、脳アストロサイトではK+の放出と部分的にK+の取込みが細胞内pHにより制御されている可能性が示唆されます。

また、K
+-buffering作用に共役する水輸送は、水チャネルAQP4によって行われていることが報告されています。我々は、AQP4と上記Kirチャネル複合体が、アストログリア細胞の終足という同一膜ドメインで共存していることを見出しました。

K+や水分子が効率的に共役し、極性運搬されるには、これらのKirチャネル・水チャネルが、同一膜ドメインに共存するのみならず、更に小さい単位 - 恐らくナノスケール- の「微小膜ドメイン」に局在し、機能的に共役していると予想されます。我々は、このような前提に基づいて、アストログリア細胞のK+・水輸送を司る「微小膜ドメイン」を同定し、その分子構成と生理機能との関連について、現在、研究を推進しています。

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