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小腸移植
はじめに
当科では、小児から大人までの小腸移植をおこなっております。小腸機能不全に対して小腸移植だけではなくて在宅中心静脈栄養も含めて総合的な治療を行っております。また生体移植のみならず、脳死小腸移植の認定施設にもなっております。
移植専門医だけでなく、小児科、消化器外科、消化器内科、集中治療部、移植コーディネーター等と協力してチーム医療をおこなっております。
毎週水曜日の移植外来にて初めて病気になられて困っている方、移植についてのご相談をうけております。また、病気や手術について他の病院の意見も聞いてみたい(セカンドオピニオン)を考えている方の外来(セカンドオピニオン外来)も受け付けておりますので、お気軽に御相談下さい。小腸移植は経験のある施設が少ないため何なりとご質問いただけたらと考えております。
セカンドオピニオン外来(リンク)
また、当科内に日本小腸移植研究会の事務局がありますので、お近くの小腸移植に詳しい施設のご紹介もいたします。
連絡先
大阪大学医学部附属病院 移植医療部
TEL 06−6879−5053(平日9時〜17時)
または
小児外科外来:06-6879-5655
1.小腸移植と小腸機能不全
小腸は、私たちの食べたものが通過する筒のような構造をしています。この筒の中を食べ物が通る間に、食物は消化され栄養が吸収されます。また小腸には動脈と静脈がついています。動脈からは小腸が機能できるように、酸素などを多く含んだ血液が流れ込みます。そして小腸から吸収された栄養などが含まれた血液が、静脈を通って小腸の外に出て、主に肝臓を通り、その際に私たちが生きていくために必要なエネルギーに変えていきます。その小腸の機能が十分でない(小腸機能不全)時、小腸移植を考慮します。

以下のような疾患の時に小腸移植を考慮します。
○短腸症候群
何らかの原因で小腸を大量に切除せざるを得ず、結果的に吸収機能障害などが永続する状態
<原因となる疾患>
*中腸軸捻転
*小腸閉鎖症
*壊死性腸炎
*腹壁破裂
*上腸間膜動静脈血栓症
*クローン病
*外傷
*デスモイド腫瘍
*腸癒着症
○不可逆性小腸機能不全
回復することのない腸運動機能不全、小腸吸収機能不全など
<原因となる疾患>
*特発性慢性偽小腸閉塞症
*ヒルシュスプルング病
*ヒルシュスプルング病類縁疾患
*Microvillus inclusion病
2.小腸移植の適応
小腸不全により、中心静脈栄養法が必要な状態でありながら;
○大血管系の血栓症などのために中心静脈用カテーテルの維持が困難な場合
(今カテーテルを挿入している血管以外には、挿入できる血管がないこと)
○中心静脈栄養法の合併症で生命に影響を及ぼすような状態
・カテーテル留置に伴う敗血症を頻回に繰り返す場合
・肝障害が進行しつつある場合
となった場合、小腸移植の適応となります。
さらに中心静脈栄養法では充分な栄養などの補給ができず、種々の代謝障害が生じたり、生活の質(クオリティオブライフ=QOL)が著しく障害されるような場合にも、中心静脈栄養法だけでの治療は不十分と見なされ、小腸移植を考慮すべき状態と考えられます。
また、原則として60歳以下が望ましいとされています。全世界の小腸移植の統計では、全体の約6割が18歳以下の小児症例です。
3.小腸移植とは
小腸移植では、ドナーの方から小腸を提供していただく必要があります。ドナーの方の小腸を摘出して、その小腸を患者さんに移植します。
ドナーの方の小腸を摘出するときには、血流がなくなりますので、そのままでは傷んでしまいます。その傷みを最小限にくい止めるために、血管の中を特殊な保存液で満たし、冷やしておきます。この方法により、最長12時間まで保存しておくことができます。
患者さんはドナーの方の手術の進行状況に合わせて、移植手術の準備を行います。手術室に入り、麻酔をします。そして、病的な小腸は摘出されます。それらの準備が終わると、保存してある小腸が移植されます。最初にグラフトの動脈と患者さんの動脈、グラフトの静脈と患者さんの静脈を縫い合わせて血流を再開します。少しでも早く小腸の血流を再開させることが、保存による臓器の傷みを少なくするために重要です。その後、食物が通る筒の部分を縫い合わせます。どの部分に縫い合わせるかは、その患者さんの病気の状態によってかわります。また、移植後に拒絶反応の徴候を検査する目的で、一時的に人工肛門(ストーマ)を造設します。ストーマの表面は粘膜でできており、神経がなく痛みを感じることがありません。また、括約筋もないため、便意を感じたり、便を我慢しておくことができません。移植直後は大量で水様の腸液などがストーマから流れ出ますので、うまくコントロールしながら、ストーマと付き合っていく必要があります。
4.小腸移植の種類
小腸移植には、脳死になった方から小腸の提供を受ける脳死移植と、健康なご家族から小腸の一部の提供を受ける生体移植があります。
生体からの移植では、小腸のみの移植が行われることが一般的です。それに対して、海外の脳死移植では小腸だけでなく、必要に応じて他の臓器も一緒に移植されることがあります。小腸移植が必要な患者さんは小腸だけでなく、肝機能障害から肝不全などの障害を伴っていることがあるため、小腸と肝臓を同時に移植するなどの方法があります。
5.移植手術
手術時の創部は胸と胸の間の少し下側から、おへその下まで、お腹の真ん中を大きく切開します。
移植手術は、レシピエントの小腸を取り出し、その後、グラフトとレシピエント自身との血管同士を吻合します。動脈と動脈、静脈と静脈(または門脈)をつなぎ合わせます。血管吻合は難しい手技です。レシピエント自身のどこの血管をつなぐかは、グラフトの血管によって決められます。
最後に、レシピエントの空腸(または十二指腸)とグラフトの小腸を吻合します。グラフト小腸の下側はお腹の外に出して、人工肛門(ストーマ)とします。レシピエントの下部の腸管は、グラフト小腸に吻合するより、最近は人工肛門として体外に出していることが多いです。
6.小腸移植にかかる費用
○小腸移植手術時の費用
小腸移植手術は、脳死での小腸移植も、生体での小腸移植も、健康保険が適応されません。したがって、手術及びその入院費用は全額自費になります。その費用は1000−2000万円ほどかかります。
移植手術のために入院し、移植を受け、退院するまでの必要はすべて、自費となり、高額医療も特定疾患も使用することはできません。
生体小腸移植を行った場合は、ドナーの手術(臓器摘出手術)及び入院費用についても健康保険は適応されませんので、レシピエントの手術(臓器移植手術)同様に自費となります。
現状では早急な保険適応が望まれます。
7.小腸移植の成績
小腸移植は、消化管という直接外界に接して消化吸収を行うため、複雑な免疫防御機能を持っており、他の臓器移植と比べ、拒絶反応のコントロールが難しく、移植後の感染性合併症も多く、難しい治療法です。しかし、近年免疫抑制療法や拒絶反応を見つける方法や移植時の医学的管理が向上し、成績も良くなってきています。
年代別小腸移植数(国際小腸移植統計より 2007年は5月31日まで)
移植の年代からみた小腸移植の生着率
移植の年代からみた小腸移植の生存率
移植がうまくいっている人たちの中には、中心静脈栄養による治療から離脱できた人もいます。したがって、小腸移植は、小腸不全の根本的な治療法になる可能性を持っています。
8.脳死小腸移植と生体小腸移植
小腸の脳死移植は、他の臓器の脳死移植と同様に、ドナーとレシピエントの血液型が一致または適合した場合に可能になります。またドナーとレシピエントの体格(身長や体重)が近いことが望ましいとされています。脳死移植では小腸の全てを摘出して移植に用いることができるのが長所ですが、遠方で脳死ドナーが出た場合、臓器を摘出して搬送するのに時間がかかるという短所があります。
小腸の生体移植は、生体ドナーから通常約1−2メートルの小腸を摘出し、レシピエントに移植するものです。ドナーはその小腸の一部が切除されることにより、一時的に小腸の消化吸収機能が低下する可能性がありますが、残った部分の機能が代償し次第に正常に回復することが期待できます。またレシピエントに移植されるのが小腸の一部であっても、移植された小腸はその機能が最大限に活発になることによって次第に経口摂取だけで必要な栄養を吸収するようになると考えられます。生体移植の特徴は、ドナーとレシピエントの手術を同じ病院で同時に行うので、摘出された腸をすぐに移植することができることです。また、手術は予定して行えるので、充分な準備をして移植手術に臨むことができます。ただしこの方法は小腸以外の臓器の障害(例えば肝不全)などが併発している場合には行うことができません。
2) 生体小腸移植の臓器提供者(ドナー)の条件
生体小腸移植のドナーとなるには,ドナー候補者本人の,どうしても自分が臓器を提供したいという意思のある方でなければなりません.ドナー候補者の方には,医学的に小腸を提供できるかどうかの最低限の検査を行います.また精神科医師の診察も受けていただきます.これは移植に全く関与しない立場で,本当に自発的な臓器提供の意思があるかを判断してもらうためです.
医学的,精神科学的検討の後に初めて臓器提供者となることができますが,あくまでも本人の自発的意思が第一条件ですので,途中でその意思を撤回することもできます.
生体小腸移植のドナーの条件
★ 成人であること。(20歳以上、65歳まで)
★ 患者さんと血縁(3親等)、または夫婦であること。
★ 血液型が下の様な関係であること。
患者(レシピエント) 小腸提供者(ドナー)
O型
O型
A型
A型・O型
B型
B型・O型
AB型
AB型・A型・B型・O型
★ 自分の意思で小腸を提供したいと思っていること。
★ 心身共に健康であること。
9.拒絶反応について
1)拒絶反応とは
移植された臓器は本来、自分のものと異なります(非自己)。ヒトには体に入ってきた異物に対して、自分の体を守るためにそれを排除しようとする働き(免疫)があります。臓器移植の場合、この排除する働きを拒絶反応といいます。小腸移植では、移植されたドナーの小腸に対して、自分(レシピエント)の血液成分やリンパ系細胞が攻撃します。
他の臓器移植に比べて拒絶反応が起こりやすい小腸移植では、強い免疫抑制療法が必要です。それでも、小腸移植症例の約50%に拒絶反応は起こります。拒絶反応は、移植後早期に特に起こりやすいですが、移植後年数が経っても、拒絶反応は起こります。
また、拒絶反応に伴って、小腸の粘膜バリアが破綻し、腸内細菌が容易に血管内に移行し、全身性の感染症を引き起こすため、敗血症によるショックがおこる可能性があります。
10.小腸移植後の合併症
1) 手術に伴う外科的合併症
@血管系の合併症
血管と血管を縫い合わせる(吻合といいます)ため、その部分が狭くなったり(狭窄)、血液の塊が詰まったり(血栓)することがあります。脳死小腸移植の場合より、小さな血管を吻合するため、これらのことが起こる可能性があります。
血液の流れが障害された場合、血管造影にて狭くなった部分をふくらませる処置を行ったり、手術にて修復します。
A腸管系の合併症
縫合不全
グラフトと自分の腸管を吻合した部分が十分くっつかない(縫合不全)ことがあります。これは最も起こりやすい合併症とされています。
手術直後には出血した場合や腸液が漏れた場合に、お腹の中にたまった状態にしないよう、ドレーンという管が入っています。腸管の縫合不全は、そのドレーンの液の色や内容物、腹部のレントゲンやCTなどで診断します。
腸閉塞
まれではありますが、腸管の癒着やねじれ(捻転)によって、腸閉塞が起こることがあります。この場合は、手術などの外科的処置が必要となります。
2) 感染症
@小腸の粘膜バリアが破綻による腸内細菌の血管内に移行による感染症(トランスロケーション)
小腸グラフトの粘膜障害に伴って、粘膜バリアが破綻し、小腸内の最近が粘膜バリアを超えて血液循環器系に侵入し、菌血症や敗血症ショックを引き起こします。小腸グラフトの粘膜障害を引き起こす要因としては、グラフト採取時の手術操作によるもの、グラフトの冷保存によって血が通っていないこと(虚血)によるもの、移植された小腸グラフトに再び血が通う時に起こる障害によるもの(再灌流障害)、拒絶反応、腸炎があります。

A腸炎
小腸移植後はウイルス性の腸炎が起こる頻度が高い。ウイルス性の腸炎では、ロタウイルス腸炎、アデノウイルス腸炎、サイトメガロウイルス(CMV)腸炎、EBウイルス腸炎などがある。
細菌性の腸炎では、クロストリジウム・ディフィシル腸炎がある。
B移植後リンパ球増殖症(PTLD)
移植後リンパ球増殖症はEBウイルス感染症に関連して、起こるとされている。移植後リンパ球増殖症は、全身のリンパ球が増殖し、発熱とともに急激な全身の悪化をきたして発症することが多いですが、小腸グラフトの粘膜下リンパ濾胞に限局性に発症することもあります。小腸移植後死亡の5〜10%を占めており、重大な合併症です。
3)移植片対宿主病 (graft-versus-host-disease:GVHD)
拒絶反応は、患者自身のリンパ球が提供された小腸の組織を攻撃することですが、移植片対宿主病(GVHD)は、ドナー由来のリンパ球が患者の種々の組織を攻撃するという、拒絶反応とは全く反対の反応です。
小腸移植では、他の臓器移植よりも多くのリンパ組織が小腸グラフトとともに移植されるため、GVHDは起こりやすいとされています。GVHDの症状は、皮疹、口腔粘膜潰瘍、肝機能障害などがあります。
連絡先

大阪大学医学部附属病院 移植医療部
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