はじめに
当科ではこどもの肝臓移植(肝移植)、小児から大人までの小腸移植の臓器移植をおこなっております。移植治療を独立したものではなく、こども治療の一つとして総合的に治療している国内でも数少ない小児専門の移植部門です。また生体移植のみならず、脳死肝移植・小腸移植も行っております。
小児外科移植専門医だけでなく、小児科、消化器外科、消化器内科、集中治療部、移植コーディネーター等と協力してチーム医療をおこなっております。
また、精神科の協力を得て精神面でのサポートにも力を入れています。院内学級、チャイルドライフの協力を得て長期にわたる入院生活でも出来るだけ早く社会復帰できるように心がけております。
毎週水曜日の移植外来にて初めて病気になられて困っている方、移植についてのご相談をうけております。また、病気や手術について他の病院の意見も聞いてみたい(セカンドオピニオン)を考えている方の外来(セカンドオピニオン外来)も受け付けておりますので、お気軽に御相談下さい。また、他施設で肝移植をうけられた方の外来経過観察もうけております。
劇症肝炎など緊急で移植も含めた治療が必要な場合は随時受け付けております。
連絡先
大阪大学医学部附属病院 移植医療部
TEL 06−6879−5053(平日9時〜17時)
または
小児外科外来:06-6879-5655
1.生体肝移植の保険適応となる疾患
以下の疾患は現在生体肝移植に対して保険診療が認められている病気です。太字の病名は小児で代表的な肝移植の適応疾患です。
胆道閉鎖症
劇症肝炎
肝芽腫
アラジール症候群
先天性代謝性肝疾患
進行性肝内胆汁うっ滞症(原発性胆汁性肝硬変/原発性硬化性胆管炎を含む)
バッドキアリ症候群
多発性嚢胞肝
カロリ病
肝硬変(非代償期)
肝細胞癌
(肝硬変に合併する場合で、遠隔転移と血管侵襲を認めず、径5cm以下1個または径3cm以下3個以内)
2.肝移植の手術
肝移植手術にはいくつかの種類がありますが、小児では同所性肝移植が行われるので、このページでは、主に同所性部分肝移植について書いてあります。
小児の代表的同所性肝移植の手術

1) 肝移植の手術手技
手術は全身麻酔で行います。左の肋骨のほぼ中央から、右のおなかの横(脇の下ぐらい)まで、大きく皮膚を切ります。胆道閉鎖症の手術後の子供さんでは、胆道閉鎖症の根治術の傷痕と同じところに切開を入れますが、体格や発達、成長に応じて新たに別の場所を切る場合があります。
次に肝臓を取り出せるようにします。ほぼ同時にドナーの手術を行い、ドナーの肝臓も提供される部分を取り出す準備をします。生体肝移植では、お互いの進行状況にあわせた移植が行うことができ、良い状態で肝臓を移植することが可能です。
胆道閉鎖症などで何回も手術を行っている場合は、肝臓とその周りの組織との癒着強いために、手術に時間がかかります。その場合、提供される肝臓が取り出されている時間を出来るだけ短くするために、ドナーの手術の進行を調整することもあります。
次にレシピエントの胆管(胆道閉鎖症の場合は前回の手術でつないだ腸管)を切ります。その後、門脈、肝動脈、肝静脈を切って肝臓を取り出します。ほぼ同時期にドナーの肝臓も取り出し、レシピエントのおなかに収めます。肝静脈、門脈、肝動脈の順番につなぎ、肝臓の中に血液を流すことによって肝臓の機能が再開されます。最後に胆管と腸管を吻合して手術を終わります。レシピエントのお腹には、通常1-2本のドレーンを入れて、手術後の合併症の観察に使います。
手術は移植外科医、消化器外科医、麻酔科医、看護師などで行いますが、間接的には多くのスタッフがかかわります。手術は12時間前後かかりますが、癒着の程度によっては翌日までかかる場合もあります。
2) 合併症
手術の合併症には出血、血管の狭窄や閉塞、腸管の損傷(癒着が強い場合は頻度も多くなります)、胆管から胆汁のもれ、感染症(傷の感染、肺炎など)などがあげられます。手術後は血管をつないだところの血液が固まらないようなお薬を使いますので、移植の手術が終わっても、出血が続いて再び手術が必要な場合があります。また腸液や胆汁がもれて再び手術を行う場合があります。肝移植に特有の合併症として拒絶反応と感染症があります。
3)拒絶
移植された臓器は本来、自分のものと異なります(非自己)。ヒトには体に入ってきた異物に対して、自分の体を守るためにそれを排除しようとする働き(免疫)があります。臓器移植の場合、この排除する働きを拒絶反応といいます。肝移植では、移植されたドナーの肝臓に対して、自分(レシピエント)の血液成分やリンパ系細胞が攻撃して肝細胞や胆管を破壊します。多くの場合は移植後3ヶ月以内におこり、年月が経過するにつれて減っていきますが全くなくなることはありません。肝臓は比較的拒絶反応の程度が軽いといわれていますので、きちんと免疫抑制剤を服用すれば軽くすみますし、適切な治療によって治ります。
拒絶反応は早期発見が重要で、そのため移植直後は、毎日もしくは2-3日おきに血液検査をします。拒絶反応が進行すると微熱や倦怠感、腹水などが症状として現れる場合があります。この時期に適切な治療を行えば、ほとんどが治ります。
拒絶反応には「急性拒絶反応」と、胆管・動脈病変を主体とする「慢性拒絶反応」、ABO血液型不適合間移植に見られる「液性拒絶反応」があります。一般的に拒絶反応と言う場合は、急性拒絶反応のことを言います。
4)費用
小児肝移植の多くは保険適応されていますので、支払いは通常の診療と同じで2−3割程度必要となりますが、高額療養費制度を受けることが出来ますので上限は限られています。胆道閉鎖症などで小児慢性特定疾患や育成医療の対象となる状況では医療費が一部負担金のみの場合や免除される場合があります。
詳しくは医事課、院内の医療福祉係、またはお住まいの自治体の保健所にお尋ねください
肝移植が保険適応となっていない疾患を対象に移植医療を行えば、医療費は自費診療となり、ドナーが退院するまでの治療費、入院費、移植前の検査費も含め全て自己負担となり、保険は一切利きません。入院期間が短ければドナー、レシピエント合わせて1000万円程度となりますが、入院期間が長くなったり、合併症などで検査や治療が必要となればさらに高額となります。
3.肝移植の成績
日本では2500例以上の生体肝移植が行われています。
日本全体の肝移植の18歳未満の成績ですが、移植後1年目に生存されている人は移植を受けた人の82.4%で、移植後5年まで生存されている人は77%、移植後15年まで生存されている人は72.6%となっています。
日本の肝移植の成績(2005年日本肝移植研究会報告より)
4.ドナーについて
日本では1997年6月に臓器移植法が成立し、同年10月に施行されました。その目的は移植医療の適正な実施で、基本的理念は臓器提供に関する本人意思の尊重、臓器提供の任意性の担保、移植術を必要とするものに対しての適切な実施、移植術を受ける機会の公平性の担保が骨子です。脳死肝臓移植は1999年に1例目が行われ、2007年12月までに50例の手術が行われています。
これまで日本では2500例以上の生体肝移植が行われてきました。肝移植という治療法が必要な患者さんは多いにもかかわらず、実際の脳死症例がいかに少ないかよく分かります。
ここでは生体肝移植を中心に説明します。生体肝移植は特に小児の場合、提供される肝臓(グラフト)が小さくて済むことが多く、ドナーの体にかかる負担は少ないですが、正常な人を対象に手術を行いますので安全を優先させる必要があります。残念ながら、わが国でも生体ドナーが1人、亡くなっています(2008年6月現在)。生体臓器移植は、ドナーの安全を最優先して行いますが、手術や周術期(手術前後)に起こりうる合併症などすべてを理解した上で、ドナーの自発的意思にのっとって行う医療です。当然ドナーには提供する権利も、提供しない権利もあります。同じようにレシピエントにも提供臓器を受ける権利と、受けない権利があります。
生体肝移植のドナーの条件
1. 成人であること。(20歳以上、65歳まで)
2. 患者さんと血縁、または夫婦であること。
3. 血液型が原則的に下の様な関係であること。
患者(レシピエント) 肝臓提供者(ドナー)
O型
O型
A型
A型・O型
B型
B型・O型
AB型
AB型・A型・B型・O型
現在では血液型が上記の組み合わせでなくても移植を行うことは可能です。
4. 肝臓のサイズが合っていること。肝炎にかかっていないこと。
5. 自分の意思で肝臓を提供したいと思っていること。
6. 心身共に健康であること。
1) ドナーの費用
保険適応のある疾患を対象として生体肝移植が行われた場合、ドナーの検査、手術費用、入院費用に関するドナーの費用は、レシピエントの保険から支払われます。一部の検査は自己負担となります。ただし、ドナーとして検査したが、肝臓を提供しなかった、もしくは出来なかった場合は、全額自費診療となります。
2) ドナーの評価検査までの手続き
通常は子供さんの肝不全など現在の状態と肝移植の必要性などについて、小児科から説明があります。移植について前向きに考えたい、もしくはより詳しいお話を聞きたい場合、小児外科より移植についての説明を受けます。納得がいくまで十分に説明を聞いた上で、ご家族のどなたかが自発的な意思で生体肝移植のドナーとして提供を希望される場合、小児科もしくは小児外科の担当医、またはレシピエント移植コーディネーターにお話ください。
はじめに生体肝移植のドナーとして適格かどうか、評価のために検査する必要があります。ドナーの評価検査及び提供手術と術後管理は消化器外科が行います。まずは消化器外科外来を受診し、ドナーの危険性を含めた説明を受けた上でドナーとして肝臓の提供を希望される場合、ドナー評価検査を開始します。
5.肝移植後のレシピエントの経過
@ 手術直後〜1週間
手術直後は人工呼吸器で呼吸の管理をしています。その他にも鼻から胃管チューブ、頚部から中心静脈ライン、導尿チューブ、静脈ライン、動脈ライン、創部からのドレーンチューブ、心電図、酸素モニターなど、たくさんのチューブが体につながっています。移植された肝臓がうまく働いているかを1日1回かそれ以上血液検査で確認します。エコーを繰り返し行い、血流を確認します。無気肺などの合併症を予防するために、術後出来るだけ早いうちから、座ったり立ったりする練習を始めます。
A 手術後1〜2週間
経過がよければ、一般病棟重症室へ戻ります。
合併症が無く、経過がよければ水分、ミルク、食事が始まります。手術後1週間頃より拒絶反応を認めるようになってきます。血液検査で確認して、必要があれば肝生検をします。エコーの回数は減ってきます。
B 2週間〜1ヶ月
体力も回復して一般病棟個室に移ります。ミルクや食事がしっかりとれるようになります。その分、点滴やドレーンなどのチューブが減ってきます。この頃になると、体力もついて体を動かすこともできるようになってきます。リハビリが始まります。個室へ移動後も病棟内、デイルーム、売店と徐々に制限をなくしていきます。
C 1ヶ月〜2ヶ月
しっかり食事がとれてきます。
免疫抑制剤の調節ができて、家族もお薬に慣れたら退院です。

6.退院後の生活
1) 外来通院
退院時に医師より初回の外来受診日、時間、担当の先生を確認します。手術後3ヶ月までは毎週外来受診が必要です。以後は、状態が安定していれば2週間毎、1ヶ月、2ヶ月毎の受診となります。ドナーの方は定期的に消化器外科の受診があります。
2) 退院後の定期検査
血液検査では肝臓や腎臓の機能、栄養状態、免疫抑制剤の血中濃度を測ります。結果によってはエコーや腹部CTなどの検査を追加します。また肝機能障害が長く続く場合は、入院して肝生検を行う場合もあります。また年に一度は定期検査入院があります。

3) 退院後の社会生活
順調に進めば術後3ヶ月ぐらいから学校や幼稚園に行くことが出来るようになります。但し、最初のうちは体力や合併症の点から登校を制限したり頻繁に病院に通う必要があります。また、感染症を防ぐためにプールなどの制限があります。
ほとんどの場合は術後一年くらいたつと運動やプール、遠足なども含めて日常生活や学校生活に全く制限がない状態になります。
4) 食事、ミルク![]()
食事は規則正しく時間を守ってすることが大切です。手術後3ヶ月までは食べ物からの感染を防ぐため、食事内容は原則的に‘生もの’をさけて、‘加熱調理’をしたものにしてください。入院中は病院から出る食事を食べてください。6ヶ月経過して免疫抑制剤の減量ができると、これらの制限は徐々になくしていきます。
ほとんどの場合は一年ほど経過すると薬と相互作用をする一部の食品を除けば、お寿司も含めて制限が無くなります。
7.脳死ドナーによる肝移植
1) 脳死とは?
わが国でも法の整備が行われて、1997年から脳死体臓器移植法が成立、施行されています。脳死とは『臓器移植に関する法律』に従った脳死判定に基づく、医学的な死です。
脳は、脳幹という部分が機能しなくなると、脳全体が機能しなくなっていきます。脳幹とは呼吸機能や心拍、血圧、体温調節といった身体の基本的な反応をつかさどる脳の重要な部分です。脳死とは、脳幹が機能しておらず、脳全体が機能しなくなった状態をいいます。脳は一旦機能しなくなると元に戻ることはなく、人間の身体の基本的な機能が働かなくなっていき、やがて心臓も止まってしまいます。
脳死になった方からの臓器提供には条件があり、本人の生前の書面による意思と家族の同意が必要です。日本では脳死の方からの臓器提供はまだまだ少ないことが予想されます。そのため、脳死肝移植を必要とする人は待機期間が長期にわたることは覚悟していただく必要があります。
2) 脳死肝移植登録の手順
生体肝移植と同様に、肝移植の適応となる時期は小児科(肝臓の専門家)、小児外科(移植外科)の医師が慎重に検討したうえで、決定されます。脳死肝移植の場合、待機期間が長期になることが予想されるため、生体肝移植よりも早い段階で移植の評価検査を行うことになります。脳死肝移植の登録の手順は、移植前の評価検査を行い、脳死肝移植申請のための検査データが揃い次第、脳死肝移植適応評価委員会に申請書類を提出します。脳死肝移植適応評価委員会は、脳死肝移植を希望する全国の患者さんを評価する委員会で、そこで移植の適応が検討されます。そこで肝移植が必要であると認められれば、日本臓器移植ネットワークに登録申請をします。そして、脳死肝移植待機患者として登録されます。
脳死の方から肝臓提供があった場合、待機されている患者さんが選ばれる順番は、点数化されており、それによって決まります。点数は患者さんの体の状態、血液型が合っているかどうかなどによって決められます。その時に一番点数の高い人が移植を受けることができます。また、同じ点数であれば待機期間が長い方が優先されます。
3) 脳死肝移植の特徴
脳死肝移植では、ドナーの状態によっては一時的に肝臓に十分血液が通っていないことがあるなど、ドナーから摘出されるまでに肝臓が障害を受けていることがあります。また、脳死肝移植では肝臓を取り出してから移植されるまでに時間がかかってしまうため、肝臓にダメージが加わってしまいます。このため、移植手術をしても肝臓が全く働かないことが約5〜8%の割合で起こる場合があります。また、肝臓が機能し始めるまでに時間がかかることがあります。このことは生体肝移植との違いです。しかし、体の大きい患者さんは、生体肝移植では必要とする半分以下の肝臓しか提供されないこともありますが、脳死肝移植では肝臓全部の提供を受けることが出来るため、十分な大きさの肝臓を得られることが利点です。
脳死肝移植は脳死になられた方の善意によって臓器提供されるため、私達はそれを<命の贈り物>と言っています。また、それは匿名の善意であるため、提供された方と移植を受けられた方の情報は、お互いのご家族や患者さんには知らせることはありません。しかし、匿名で感謝の気持ちを伝える手紙などはお渡しすることはできます。
多くの方が移植を受けられる![]() 機会が得られるように あなたの周りの人たちに 臓器提供意思表示カードを持つよう すすめましょう。 (配布場所:病院内では小児外科外来受付、入退院センターなどがあります。 各銀行やコンビニでも配布しているところがあります。) |
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小腸は、私たちの食べたものが通過する筒のような構造をしています。この筒の中を食べ物が通る間に、食物は消化され栄養が吸収されます。また小腸には動脈と静脈がついています。動脈からは小腸が機能できるように、酸素などを多く含んだ血液が流れ込みます。そして小腸から吸収された栄養などが含まれた血液が、静脈を通って小腸の外に出て、主に肝臓を通り、その際に私たちが生きていくために必要なエネルギーに変えていきます。その小腸の機能が十分でない(小腸機能不全)時、小腸移植を考慮します。
1.小腸移植と小腸機能不全

以下のような疾患の時に小腸移植を考慮します。
○短腸症候群
何らかの原因で小腸を大量に切除せざるを得ず、結果的に吸収機能障害などが永続する状態
<原因となる疾患>
*中腸軸捻転
*小腸閉鎖症
*壊死性腸炎
*腹壁破裂
*上腸間膜動静脈血栓症
*クローン病
*外傷
*デスモイド腫瘍
*腸癒着症
○不可逆性小腸機能不全
回復することのない腸運動機能不全、小腸吸収機能不全など
<原因となる疾患>
*特発性慢性偽小腸閉塞症
*ヒルシュスプルング病と
*ヒルシュスプルング病類縁疾患
*Microvillus inclusion病
2.小腸移植の適応
小腸不全により、中心静脈栄養法が必要な状態でありながら;
○大血管系の血栓症などのために中心静脈用カテーテルの維持が困難な場合
(今カテーテルを挿入している血管以外には、挿入できる血管がないこと)
○中心静脈栄養法の合併症で生命に影響を及ぼすような状態
・カテーテル留置に伴う敗血症を頻回に繰り返す場合
・肝障害が進行しつつある場合
となった場合、小腸移植の適応となります。
さらに中心静脈栄養法では充分な栄養などの補給ができず、種々の代謝障害が生じたり、生活の質(クオリティオブライフ=QOL)が著しく障害されるような場合にも、中心静脈栄養法だけでの治療は不十分と見なされ、小腸移植を考慮すべき状態と考えられます。
また、原則として60歳以下が望ましいとされています。全世界の小腸移植の統計では、全体の約6割が18歳以下の小児症例です。
3.小腸移植とは
小腸移植では、ドナーの方から小腸を提供していただく必要があります。ドナーの方の小腸を摘出して、その小腸を患者さんに移植します。
ドナーの方の小腸を摘出するときには、血流がなくなりますので、そのままでは傷んでしまいます。その傷みを最小限にくい止めるために、血管の中を特殊な保存液で満たし、冷やしておきます。この方法により、最長12時間まで保存しておくことができます。
患者さんはドナーの方の手術の進行状況に合わせて、移植手術の準備を行います。手術室に入り、麻酔をします。そして、病的な小腸は摘出されます。それらの準備が終わると、保存してある小腸が移植されます。最初にグラフトの動脈と患者さんの動脈、グラフトの静脈と患者さんの静脈を縫い合わせて血流を再開します。少しでも早く小腸の血流を再開させることが、保存による臓器の傷みを少なくするために重要です。その後、食物が通る筒の部分を縫い合わせます。どの部分に縫い合わせるかは、その患者さんの病気の状態によってかわります。また、移植後に拒絶反応の徴候を検査する目的で、一時的に人工肛門(ストーマ)を造設します。ストーマの表面は粘膜でできており、神経がなく痛みを感じることがありません。また、括約筋もないため、便意を感じたり、便を我慢しておくことができません。移植直後は大量で水様の腸液などがストーマから流れ出ますので、うまくコントロールしながら、ストーマと付き合っていく必要があります。
4.小腸移植の種類
小腸移植には、脳死になった方から小腸の提供を受ける脳死移植と、健康なご家族から小腸の一部の提供を受ける生体移植があります。
生体からの移植では、小腸のみの移植が行われることが一般的です。それに対して、海外の脳死移植では小腸だけでなく、必要に応じて他の臓器も一緒に移植されることがあります。小腸移植が必要な患者さんは小腸だけでなく、肝機能障害から肝不全などの障害を伴っていることがあるため、小腸と肝臓を同時に移植するなどの方法があります。
5.移植手術
手術時の創部は胸と胸の間の少し下側から、おへその下まで、お腹の真ん中を大きく切開します。
移植手術は、レシピエントの小腸を取り出し、その後、グラフトとレシピエント自身との血管同士を吻合します。動脈と動脈、静脈と静脈(または門脈)をつなぎ合わせます。血管吻合は難しい手技です。レシピエント自身のどこの血管をつなぐかは、グラフトの血管によって決められます。
最後に、レシピエントの空腸(または十二指腸)とグラフトの小腸を吻合します。グラフト小腸の下側はお腹の外に出して、人工肛門(ストーマ)とします。レシピエントの下部の腸管は、グラフト小腸に吻合するより、最近は人工肛門として体外に出していることが多いです。
6.小腸移植にかかる費用
○小腸移植手術時の費用
小腸移植手術は、脳死での小腸移植も、生体での小腸移植も、健康保険が適応されません。したがって、手術及びその入院費用は全額自費になります。その費用は1000−2000万円ほどかかります。
移植手術のために入院し、移植を受け、退院するまでの必要はすべて、自費となり、高額医療も特定疾患も使用することはできません。
生体小腸移植を行った場合は、ドナーの手術(臓器摘出手術)及び入院費用についても健康保険は適応されませんので、レシピエントの手術(臓器移植手術)同様に自費となります。
現状では早急な保険適応が望まれます。
7.小腸移植の成績
小腸移植は、消化管という直接外界に接して消化吸収を行うため、複雑な免疫防御機能を持っており、他の臓器移植と比べ、拒絶反応のコントロールが難しく、移植後の感染性合併症も多く、難しい治療法です。しかし、近年免疫抑制療法や拒絶反応を見つける方法や移植時の医学的管理が向上し、成績も良くなってきています。
国内では症例数が少ないものの近年の成績は目覚しく進歩しており2003年10月以降の過去約五年間での生存率は100%となっています。
年代別小腸移植数(国際小腸移植統計より 2007年は5月31日まで)
移植の年代からみた小腸移植の生着率
移植の年代からみた小腸移植の生存率
移植がうまくいっている人たちの中には、中心静脈栄養による治療から離脱できた人もいます。したがって、小腸移植は、小腸不全の根本的な治療法になる可能性を持っています。
8.脳死小腸移植と生体小腸移植
小腸の脳死移植は、他の臓器の脳死移植と同様に、ドナーとレシピエントの血液型が一致または適合した場合に可能になります。またドナーとレシピエントの体格(身長や体重)が近いことが望ましいとされています。脳死移植では小腸の全てを摘出して移植に用いることができるのが長所ですが、遠方で脳死ドナーが出た場合、臓器を摘出して搬送するのに時間がかかるという短所があります。
小腸の生体移植は、生体ドナーから通常約1−2メートルの小腸を摘出し、レシピエントに移植するものです。ドナーはその小腸の一部が切除されることにより、一時的に小腸の消化吸収機能が低下する可能性がありますが、残った部分の機能が代償し次第に正常に回復することが期待できます。またレシピエントに移植されるのが小腸の一部であっても、移植された小腸はその機能が最大限に活発になることによって次第に経口摂取だけで必要な栄養を吸収するようになると考えられます。生体移植の特徴は、ドナーとレシピエントの手術を同じ病院で同時に行うので、摘出された腸をすぐに移植することができることです。また、手術は予定して行えるので、充分な準備をして移植手術に臨むことができます。ただしこの方法は小腸以外の臓器の障害(例えば肝不全)などが併発している場合には行うことができません。
2) 生体小腸移植の臓器提供者(ドナー)の条件
生体小腸移植のドナーとなるには,ドナー候補者本人の,どうしても自分が臓器を提供したいという意思のある方でなければなりません.ドナー候補者の方には,医学的に小腸を提供できるかどうかの最低限の検査を行います.また精神科医師の診察も受けていただきます.これは移植に全く関与しない立場で,本当に自発的な臓器提供の意思があるかを判断してもらうためです.
医学的,精神科学的検討の後に初めて臓器提供者となることができますが,あくまでも本人の自発的意思が第一条件ですので,途中でその意思を撤回することもできます.
生体小腸移植のドナーの条件
★ 成人であること。(20歳以上、65歳まで)
★ 患者さんと血縁(3親等)、または夫婦であること。
★ 血液型が下の様な関係であること。
患者(レシピエント) 小腸提供者(ドナー)
O型
O型
A型
A型・O型
B型
B型・O型
AB型
AB型・A型・B型・O型
★ 自分の意思で小腸を提供したいと思っていること。
★ 心身共に健康であること。
9.拒絶反応について
1)拒絶反応とは
移植された臓器は本来、自分のものと異なります(非自己)。ヒトには体に入ってきた異物に対して、自分の体を守るためにそれを排除しようとする働き(免疫)があります。臓器移植の場合、この排除する働きを拒絶反応といいます。小腸移植では、移植されたドナーの小腸に対して、自分(レシピエント)の血液成分やリンパ系細胞が攻撃します。
他の臓器移植に比べて拒絶反応が起こりやすい小腸移植では、強い免疫抑制療法が必要です。それでも、小腸移植症例の約50%に拒絶反応は起こります。拒絶反応は、移植後早期に特に起こりやすいですが、移植後年数が経っても、拒絶反応は起こります。
また、拒絶反応に伴って、小腸の粘膜バリアが破綻し、腸内細菌が容易に血管内に移行し、全身性の感染症を引き起こすため、敗血症によるショックがおこる可能性があります。
10.小腸移植後の合併症
1) 手術に伴う外科的合併症
@血管系の合併症
血管と血管を縫い合わせる(吻合といいます)ため、その部分が狭くなったり(狭窄)、血液の塊が詰まったり(血栓)することがあります。脳死小腸移植の場合より、小さな血管を吻合するため、これらのことが起こる可能性があります。
血液の流れが障害された場合、血管造影にて狭くなった部分をふくらませる処置を行ったり、手術にて修復します。
A腸管系の合併症
縫合不全
グラフトと自分の腸管を吻合した部分が十分くっつかない(縫合不全)ことがあります。これは最も起こりやすい合併症とされています。
手術直後には出血した場合や腸液が漏れた場合に、お腹の中にたまった状態にしないよう、ドレーンという管が入っています。腸管の縫合不全は、そのドレーンの液の色や内容物、腹部のレントゲンやCTなどで診断します。
腸閉塞
まれではありますが、腸管の癒着やねじれ(捻転)によって、腸閉塞が起こることがあります。この場合は、手術などの外科的処置が必要となります。
2) 感染症
@小腸の粘膜バリアが破綻による腸内細菌の血管内に移行による感染症(トランスロケーション)
小腸グラフトの粘膜障害に伴って、粘膜バリアが破綻し、小腸内の最近が粘膜バリアを超えて血液循環器系に侵入し、菌血症や敗血症ショックを引き起こします。小腸グラフトの粘膜障害を引き起こす要因としては、グラフト採取時の手術操作によるもの、グラフトの冷保存によって血が通っていないこと(虚血)によるもの、移植された小腸グラフトに再び血が通う時に起こる障害によるもの(再灌流障害)、拒絶反応、腸炎があります。

A腸炎
小腸移植後はウイルス性の腸炎が起こる頻度が高い。ウイルス性の腸炎では、ロタウイルス腸炎、アデノウイルス腸炎、サイトメガロウイルス(CMV)腸炎、EBウイルス腸炎などがある。
細菌性の腸炎では、クロストリジウム・ディフィシル腸炎がある。
B移植後リンパ球増殖症(PTLD)
移植後リンパ球増殖症はEBウイルス感染症に関連して、起こるとされている。移植後リンパ球増殖症は、全身のリンパ球が増殖し、発熱とともに急激な全身の悪化をきたして発症することが多いですが、小腸グラフトの粘膜下リンパ濾胞に限局性に発症することもあります。小腸移植後死亡の5〜10%を占めており、重大な合併症です。
3)移植片対宿主病 (graft-versus-host-disease:GVHD)
拒絶反応は、患者自身のリンパ球が提供された小腸の組織を攻撃することですが、移植片対宿主病(GVHD)は、ドナー由来のリンパ球が患者の種々の組織を攻撃するという、拒絶反応とは全く反対の反応です。
小腸移植では、他の臓器移植よりも多くのリンパ組織が小腸グラフトとともに移植されるため、GVHDは起こりやすいとされています。GVHDの症状は、皮疹、口腔粘膜潰瘍、肝機能障害などがあります。
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