寄附講座

神経難病認知症探索治療学

柔軟な発想でALSの根治を目指す!
  • ALSの病因タンパク質TDP-43の機能とALS病態との関連解析
  • 免疫細胞を用いたALSの治療法開発
  • ALSにおける治験の推進

神経変性疾患の病態分子機構に関する研究および有効性の高い新たな治療法の開発

アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)といった加齢性の神経変性疾患の患者数は高齢化社会の中で増加の一途をたどっている。当講座ではこれら神経変性疾患の中で特に難治性であるALSに焦点を当て、その病態分子機構の研究を行うとともに、得られた結果を基にしてより有効性の高い新たな治療法の開発を目指している。

具体的には以下の通りである。

1. ALSの病因タンパク質TDP-43の機能とALS病態との関連解析

ALS患者病変部位で局在変化、異常沈着することが知られているTDP-43はRNA結合タンパク質であり、ALSではこのTDP-43の機能異常により種々のRNA代謝異常が生じて病態に関与することが推測されている。我々はTDP-43が持つ機能の1つとしてmRNAの神経軸索への輸送機能に着目し、TDP-43による輸送標的としてリボソーム関連タンパク質のmRNAを同定した。このことはALSの発症要因として神経軸索での局所タンパク質翻訳機能の障害が関与している可能性を示唆している。そこで我々は今までに確立した独自の軸索解析手法を用い、ALSにおける軸索局所翻訳機能障害のさらに詳細な分子機構の解析を行っている。 また我々はALS患者の病変部位でRNA代謝障害を含めた遺伝子発現変化を網羅的に把握するため、患者神経組織を用いたRNA-seq、スプライシング解析、エピゲノム解析などを行い、病態形成に深く関与する分子の同定を行っている。今後これらの解析で得られたシーズを新たな治療法の開発へと応用していく計画である。

2. 免疫細胞を用いたALSの治療法開発

ALSの病態進行を修飾する要因としてグリア細胞による神経炎症の関与が指摘されている。Tリンパ球などの免疫担当細胞は中枢神経系にも存在して神経炎症を制御していることが知られている。我々は患者神経組織、血液、髄液での解析を行い、特定のグリア細胞や免疫担当細胞の活性化や細胞内での遺伝子発現変化が起こっていることを見出している。これらグリア細胞、免疫担当細胞の挙動変化がALS病態に及ぼす影響につき解析を進めるとともに、これらの変化を是正することによる新たな側面からのALSの治療法の開発を目指している。

3. ALSにおける治験の推進

上記の病態解析に加え、製薬企業や他のALS研究グループと連携して異なる作用機序を持つ種々の薬剤の企業治験、医師主導治験に参画し、一刻も早く新たなALS治療薬を提供すべく邁進している。