感染症・免疫学

幹細胞生物学

造血幹細胞や免疫細胞を骨髄で維持・調節する微小環境(ニッチ)の生理と病理の解明
  • 幹細胞を維持する微小環境(ニッチ)を構成する間葉系前駆細胞の形成機構
  • 造血幹細胞や免疫担当細胞がニッチにより維持・調節されるしくみ
  • 白血病を含む血液・免疫・骨・代謝疾患への造血幹細胞ニッチの関与
教授 長澤丘司
感染症・免疫学講座 幹細胞生物学
大阪大学医学部生化学教室は、古武 弥四郎、市原 硬、早石 修、山野 俊雄、谷口 直之、米田 悦啓という歴代教授により引き継がれてきました。米田教授の退職後、後任の学問分野は先端生命科学とされ、2016年に新しく幹細胞生物学教室として研究・教育が開始されました。

造血幹細胞や免疫細胞、白血病幹細胞を維持・調節する微小環境(ニッチ)に関する先駆的な研究を展開

生体の組織では、多くの細胞が毎日失われますが、少数の組織幹細胞が新しく細胞を供給することで維持されています。組織幹細胞は、組織の多様な成熟細胞を生み出し(多分化能)、生涯にわたり自身を複製できる(自己複製能)能力を併せ持っており、組織の維持、障害よりの再生を担う他、遺伝子の変異が蓄積しガンの発生母体となる重要な細胞です。組織幹細胞は、ニッチ (niche)と呼ばれる限局した特別な微小環境によって維持され、その細胞数や分化が調節されています。私たちは、骨髄で、すべての血液細胞と免疫担当細胞を生み出す組織幹細胞、造血幹細胞のニッチを構成する細胞(CXCL12-abundant reticular cells; CAR 細胞)を発見しました [1-3]。CAR 細胞は骨芽細胞や脂肪細胞に分化できる間葉系前駆細胞で、造血を調節する機能分子の宝庫ですので、その研究は、免疫学・血液学・幹細胞生物学などの基礎医学の他、人工ニッチによる再生医療、造血器腫瘍や炎症性疾患の病態解明やニッチ療法など、臨床医学とも密接に関連しています。

(1) 幹細胞ニッチを構成する間葉系前駆細胞の形成

ケモカインファミリーのサイトカインCXCL12は、造血幹細胞の維持と免疫担当細胞の産生に必須です[4,5]。CAR 細胞は、長い突起を持ち、CXCL12とSCFを著しく高発現して、造血幹細胞・造血ニッチを構成するユニークな特性を持っており、どのようにして形成され、骨芽細胞や脂肪細胞への分化が調節されているのか? について研究しています。

(2) 造血幹細胞や免疫担当細胞のニッチによる維持・調節

造血幹細胞は、胎児期にCXCL12によって骨髄に定着(ホーミング)し、細胞周期が遅い状態で維持され、血球を産生し続けます。CAR 細胞が、長い突起を用いて造血幹細胞の増殖や分化を調節し、生体防御の際に必要な免疫担当細胞を供給するしくみを研究しています。

(3)血液・免疫・骨・代謝疾患への造血幹細胞ニッチの関与

骨髄は、白血病や骨髄異形成症候群、再生不良性貧血、がん転移、感染症等、様々な難治性疾患の場ですが、これまでの研究は、血液細胞に注目されてきました。そこでCAR 細胞の関与を解析し、ニッチを標的とする新しい視点から治療法の開発をめざしています。

【文献】

1. Sugiyama et al. Immunity 25(6):977-88, 2006.
2. Omatsu et al. Immunity 33(3):387-99, 2010.
3. Omatsu et al. Nature 508, 536–540, 2014.
4. Nagasawa et al. Nature 382, 635-638, 1996.
5. Tachibana et al. Nature 393, 591-594, 1998.